コラム:ツール・ド・北海道で起きた悲惨な事故、問題点は?食い違う選手の言い分と運営の説明、責任の所在と再発防止をきっちり行わなければ、国内レースの道路使用許可に影響も

ツール・ド・北海道で痛ましい事故が起きてしまった。第1ステージの十勝岳の下りで、対向車線側を走行した五十嵐洸太選手(中央大学)が正面から走ってきた一般車と激しく衝突、帰らぬ人となった。五十嵐選手のフレームは大破、自動車のフロントガラスには大きな穴、屋根は血で覆われているという惨状に言葉を失った。
事故後情報が錯綜、どのように交通規制が行われていたのかも含めてはっきりとしないことが多かったが、ようやく全貌が見えてきた。今回の区間は大会HPによれば、午前10時40分から午前11位45分までを通行規制で通行止めとはしていたが、管轄の富良野署によれば、走行車レーンに関しては警察署が公式に規制(そもそも使用1車線のみ通行止めにするという事で道路使用許可を得ている)、反対車線は大会側で自主的に警備、規制していたという。また大会運常務理事は、監督、全選手、ドライバーを集めたセキュリティ・ブリーフィングで「自転車の対向車線へのはみだしを禁止していた。」としている。
これに対して選手たちからは、「片側車線だけの規制でのレースとは知っていたが、選手たちに直接そのようなお願いはなかった。」としている。またこの事故を起こした車両以外にも多くの自動車がおり、トラックもいた、としている。
これはどちらが本当のことを言っているのだろう。これに関して大会主催者に確認をしたところ、「調査中なのでお答えできない。いつまでの調査かも言えない。情報が錯綜し、憶測を呼んでしまっているので何も今は言えない。今後記者会見を開くかも言えない。」との回答が返ってきた。しかし事故当初からきちんとした情報をすぐに出さなかったことが余計な憶測を呼んでいるのは事実であり、すでに大手マスメディアが選手たちと主催者側の言い分の違いを報じており、一切だんまりを決め込んでいるこの状況が、更なる憶測を呼びかねない状況だ。大会常務理事の言葉にあるブリーフィングでの発言が全選手に向けてあったかどうかの確認は、事故の現場の状況とは切り分けて、すぐにでも確認、公表できることのはずだ。
このことから推察できるのは、どちらかが虚偽の発言をしている可能性があるという事。仮に選手たちが嘘をついているとすれば、そのメリットはどこにあるのだろう。論理的に考えられるのは主催者側が保身と責任軽減、責任回避の為に虚偽の発言をした可能性が拭えないということだ。現状では選手たちを守らねばならない運営者が、守るどころか、「伝えたのに守らなかったのは選手」と選手たち側の落ち度であったと言わんばかりの責任逃れの発言と受け止められかねない状況だ。考えられる不都合があるとすれば、運営に責任があるとされれば、今後の道路使用許可が得られなくなる可能性が高いこと、競輪補助事業としての補助金が交付されなくなることを恐れてではないだろうか。
また選手たちからは、公式発表にあったように、前の集団を抜くために対向車線に出たというのは違うのではとの声が上がっている。確かに高速の下りコーナーで前方の集団を抜くという事はあまり考えられず、このあたりもきちんとした確認が求められそうだ。
今回主催者が自主的に対向車線を警備していたとの事だが、これに関しては警備会社に外注、事故現場2㎞手前で2名、それ以外に複数名の警備員が侵入車両を止めていた。警備会社は立ち入り禁止区間内に脇道がどれだけあるのかは把握しておらず、そこへの対応はしていなかったとのことだ。また大会主催者も「通行止めエリア内で脇道がいくつあるかは把握していない」としており、双方のずさんな道路把握が見て取れる。また道路わきに建てられた交通規制の看板なども昨年度に比べて圧倒的に少なかったとの声も聞かれており、地元への周知、地域を訪れる人間への周知が十分だったのかが疑問として残る。
主催者に対しては選手たち側から主催者の「体制と体質」が問題との指摘もあり、危機管理能力が問われる懸念がほかにもあった可能性がある。一連の流れを見て思うのは、大会主催者は第37回まで大きな事故なく行えて来たことへのおごり、油断と隙があった可能性は高いと言わざるを得ないということだ。まだ市民権を得られていない可能性、道路事情の変化など、その都度開催に合わせての見直しが果たして行われてきたのだろうか。
今回のような悲劇は二度と起こしてはならない。国内のレースでは昨年9月のインカレロードでも法政大学の学生が死亡しており、ロードレースを公道で開催することへの風向きが強くなり兼ねない状況が続いている。特に今回に関しては「避けられた事故」である可能性が極めて高い事からも、どこに落ち度があったのか、誰がきちんと正しい説明責任を果たしていないのかなど、はっきりとさせないといけないところが多分にある。レース許可を出したことのある所管警察にも確認をしたが、「このような事故が発生した場合の責任の所在がはっきりしなければ、今後許可を出すのは難しくなる。」としており、これからのツール・ド・北海道主催者の対応いかんでは、今後の国内レース開催に大きく影を落とすことになりかねない。
来月には国際レースのツール・ド・九州が開催される。そこできっちりと今回の教訓を生かせるように、また五十嵐選手の死を無駄にしない為にも、そして広がりつつあるロードレースという競技スポーツの広がりに水を差さない為にも、一日も早い原因究明が望まれる。
今はただ、未来ある若手選手の死がひたすらに残念でならない。
H.Moulinette
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