コラム:1✕の可能性、ユンボ・ヴィズマの主力選手が1✕ をツール・ド・フランスで選択、ジロ・デ・イタリアでのログリッチに続いて、ヴィンゲガードとファン・アールトらが使用
今から5年ほど前、一時だが1✕が注目を浴びた時期があった。フロントメカを潔く取っ払い、シングルギアにしてしまい、リアのみに変速機をつけるという考え方だ。これは似たようなギア比が存在することを逆手にとって、軽量化とトラブルリスク軽減を目指したものだったが、結果的により選択肢の幅が広い従来の2✕(フロントギア2枚)に戻ってしまったのだ。
レースシーンのように激しく高速でのギアチェンジがない一般ユーザー向けマーケットではもっと拡大するかに思われたが、結局主力メーカーが選手達の使う機材を一般向けにという流れがあるおかげで、気が付けば1✕マーケットは衰退の一途をたどった。何とかグラベルバイクなどではまだ生き残っているが、主流とは程遠い状態となっており、選択肢として選ぶことも少ないのが現状だ。
しかしそれでも減速の少ない平坦ステージや個人TTでは1✕は選択肢として残ってはいた。ユンボ・ヴィズマでもワウト・ファン・アールトはミラノ・サンレモでフロントシングルの52T 、リア10‐28Tを使用するなど限定的な使われ方をしてきた。
そんな中今シーズン最強チームと呼び声が高いユンボ・ヴィズマでは、それ以外のコースでも積極的に1✕を使用している。チームの絶対的エース、プリモズ・ログリッチはジロ・デ・イタリアでは、フロント44T、 リアに10‐44Tという巨大なグラベルバイク用のギアを配して走るなど、積極的に使用をしているように思われる。コンポーネントが、1✕を用意しているスラムだからというのもあるが、チェーン脱落対策として、ウルフトゥースがシクロクロス/グラベル用として出しているチェーンガイドを使用していることからも、これからも山岳ステージでの積極的な使用があるだろうと想定はされていた。
そして迎えたスペインでのTDF開幕ステージ、アップダウンの多いクラシックのようなこのコースで、チームのエース、ヨナス・ヴィンゲガードが、フロント50T、リア11‐36Tというセットアップでレースに挑んだのだ。その右腕でもあるワウト・ファン・アールトもフロント52T、リア10‐33Tというセットアップで走り切った。
グラベルのようなギア設定は、走り方によっては有効であることを示しているのだが、それはあくまでもプロレベルの話ではある。しかしこうしてグラベルバイクのコンポーネントがロードレースシーンで使われているという現実は、とても興味深く、まだまだギアの選択肢には楽しみ方があることを教えてくれる。
姿を消しそうになった1✕だが、実はまだまだ発展途上なだけなのかもしれない。
H.Moulinette