相次ぐスポンサー終了や変更のニュース、垣間見えるスポンサースポーツの難しさとは、放映権の分配をASOが否定し付ける限り終わらないスポンサースポーツの苦悩
ロードレース界にスポンサー撤退や変更のニュースが相次いでいる。中でも最強チームと呼び声の高いユンボ・ヴィズマのスポンサーでもあるユンボが予定通り2024年の契約満了と共に、男女ロードレース、そして男女スピードスケート及びF1トップドライバーのマックス・フェルスタッペンのスポンサーも全て終了させることを発表した。オランダとベルギーのスーパーマーケットチェーン店であるユンボは、他企業とは異なり販路や業務を拡大する意思がないため、プロモーション目的のスポンサーではなくあくまでも社会貢献の一環としてのスポンサーの意味合いが強かった。そんな中新たにCEOが代わったことで、企業としての方針を転換、消費者に還元することを優先するために、年間30億以上ともいえる金額をスポンサーしてきたスポーツから手を引く決断をした。
チームはエースのプリモズ・ログリッチ、ヨナス・ヴィンゲガード共に長期契約を結んでおり、その給与を捻出するためにはチームは新たなスポンサー探しを迫られることとなりそうだ。ただし2024年末までの猶予があるのはありがたいところだ。
そして女子チームであるEFエデュケーション・TIBCO・SVBのスポンサーであるTIBCOソフトウェアとシリコンバレー銀行の両方が今年度いっぱいでのスポンサーの撤退となった。今年3月にアメリカで起きた銀行の連鎖倒産でシリコンバレー銀行も破産宣告をし、連邦政府管理下に入ったため、継続が困難となった。女子チームとしては北米で一番長く運営がされているチームであり、バイクショップのクラブチームから、ワールドツアーまで上り詰めた異例のチームは、明確なスポンサープログラムが用意されており、今後新たなスポンサーが取って代わる可能性が高い。
またトレック・セガフレドは、男女ともにツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリア・ドンネから揃ってリドル・トレックとなる。セガフレドは契約満了を待たずしてステップダウンし、代わりに2016年から2021年までクイックステップをスポンサーしてきたスーパーマーケットチェーンのリドルがメインスポンサーとなる。
ロードレース界におけるスポンサーは、ワールドツアークラスになれば年間10億以上の大金をチームに提供することとなるが、通常はこれはPR、つまり自社の名前や商品名などが、テレビ放映などで世界に認知されることへの対価、というのが一般的だ。ロードレースがテレビなどで常に放映されるメジャースポーツであるヨーロッパだからこそ成立しているといえるだろう。
だがこのスポンサースポーツには大きなリスクも隠れている。強いチームの方がアピールの度合いが強いこともあり、当然そのために選手強化や良い選手の獲得などで費用が必要となり、高額なスポンサー費用が発生する。しかしそれは同時に、トップチームであろうとスポンサー企業の業績が傾き撤退、新たなスポンサーが見つからなければ選手たちの給与やチーム運営費などが払えない結果となり、あっさりとチーム解体へと追い込まれる可能性すらある。
また最近ではチームというよりは特定の選手に肩入れする形でチームスポンサーになるケースも見受けられ、そうなると選手の移籍と共にスポンサーも移動するなどという事もある。また今回のケースのように、企業側の経営者が交代することで、一気に方向転換でスポンサー撤退という事もあり得る。いずれにしてもスポンサースポーツは、選手たちの努力だけではどうにもならない大きなリスクを常にはらんでいるのだ。
それを解決するためにアメリカメジャーリーグのように放映権を各チームに分配することが何度も議論されてきたが、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャをはじめとする世界トップクラスのレースを主宰するASOがこれをかたくなに拒否し続けている。だからこそ、各チームは常に綱渡り的な経営を強いられ、スポンサー探しを最優先にしなければならないことが多いという現状にさらされることとなる。この状況が改めて議論され解決していかねば、スポンサースポーツの苦悩に終わりが来ることはないだろう。
H.Moulinette