コラム:UCIが掲げるワールドツアー降格制度がもたらしている弊害とは、なぜサッカーなどでは成立して自転車では成立しないのか、現状は不満くすぶり早急な話し合いが必要な状況

昨今耳にするのが、UCIによるワールドツアーポイントによる降格処分の話題だ。UCIが新しく打ち出したシステムで、各国のサッカーの同じシステムと言えばわかりやすいだろう。ただ自転車の場合は勝敗ではなく獲得したポイントで、下位のチームが降格処分になるというものだ。

©La Vuelta
そしてこれが今各チームの戦術のみならず、レース自体にも影響を及ぼしている。今年のグランツールでは、一部チームが、「主要チームがグランツールに主力選手たちを連れていくので、その裏で行われる(同時期開催)ワンデイレースで獲得できるポイントのほうが高い。なのでうちは主力を裏のレースに専念させる。」と発言し、その通り裏のレースでポイントを量産した。
つまりはお祭りであるグランツールではポイントが稼げないので、降格圏にいるチームにとってはよりポイントをかせぎゃすいレースに専念する、というものだ。さらにはブエルタが終わり世界選手権が間近に控えているが、各チームが自チームの選手たちが各国代表に入ることを拒んでいるのだ。今年の世界選手権の開催地はオーストラリア、南半球でもあり移動も長ければ時差も大きい。確かに勝てば得られるポイントは大きいが、そのハイリスクよりも、ヨーロッパ各地で行われるシーズン最終盤のワンデイレースに出場したほうが、ポイントを稼ぎやすいのだ。
放映権により成り立っているの各レース主催者にとっては、主要チームが主力選手を連れてこないのはマイナスでしかない。でもスポンサースポーツである以上各チームは、「降格になれば即スポンサー撤退」ということにもなりかねず、背に腹は代えられない為、主催者の意向よりもポイント獲得の手段優先となっているのだ。スペイン代表チームはそれにより思ったように選手を確保できず、世界選手権出場辞退まで視野に入れていた。何とか代替選手での出場は決めたが、ベストからは程遠い布陣と言わざるを得ない。
今の時点で降格圏内にいる2チームはロット・ソウダルとイスラエル・プレミアテック、さらにモビスター、EFエデュケーション・イージーポスト、バイクエクスチェンジ・ジェイコが降格圏争いに加わっている状況だ。イスラエル・プレミアテックのオーナーでもある大富豪のシルヴァン・アダムスは、「私財をなげうってチーム設立、さらには自転車界の為に育成チームを作ったり女子ワールドツアーチームも設立する予定で動いているのに、もしこんな”クソ見たいな降格ルール”がそのまま適応されるのであれば、自転車界からすべて手を引く覚悟だってある。」と発言し、物議をかもしている。

©ASO
それらの批判を受けて、UCIが方針を変え、18チームにワールドツアーチームの権利というのを20チームに拡大しようとしていると話が出ている。もしそれができれば、2023-2025年シーズンの申請をしている現20チームはすべて「降格」という呪縛から解放され、純粋にポイントにこだわらないレースができることになる。UCIは公式には認めていないものの、多くのチームや関係団体からの抗議があったことは事実であり、方針の転換も考慮した話し合いと決断を早急に行わなければならない状況に追い込まれている。
なぜこのシステムがほかのスポーツではうまくいき自転車界ではこれだけの物議をかもしてしまっているのか、その理由の一つは「慣れ」だろう。サッカー界などではこのシステムが長きにわたり当たり前のシステムとして定着しており、それも含めた応援と楽しみがある。ただ一つ自転車界との大きな違いは、明確に勝敗があり、勝つ、負ける、引き分けるで線引きされていることだk’。それに対して自転車レースはポイント制、このシステム的な考えで行けば、優勝者1人で残るチームメイト全員がポイント圏外よりも、出走した全員がポイント圏内に入るほうが良しとなる。つまりは戦術的な部分で大きな差が出るのだ。特質した絶対的エース一人よりも、サブエースクラスが複数いたほうが有利にさえなるのだ。今年は初年度ということもあり物議をかもすのは当たり前のことだとは思う。誰もが未経験なシステムであり、その先どうなるのかが見えにくいからだ。しかしながら先に述べたように戦術的にポイントを獲得することが中心となり兼ねない。つまりはシステム自体に問題点がないわけではないわけではないのだ。だからこそ今一度ひざを突き合わせて競技者側と統括団体の間で議論をする必要があるだろう。
正直なところレースシーンに現段階で影響を及ぼしてしまっていると言わざるを得ない状況であり、果たしてどこへ向かうのか、注視しなければいけない状況が続く。
H.Moulinette