コラム:シマノが新型デュラエースとアルテグラを発表!全てが電動オンリーになったコンポーネントは自転車界の未来図か?レース機材で切り捨てられたアナログなワイヤー式の未来は?
遂に皆が待ちに待ったシマノの新型最高級コンポーネント、新型デュラエース(R9200)と新型アルテグラ(R8100)が発表された。今まで通りであれあオリンピックイヤーに新型投入となっていたが、コロナの影響もあった東京五輪同様に、一年ずれての発表で結果オリンピックイヤー発表となった。目まぐるしく進化するコンポーネント市場に置いて、シマノが出した答えは「コンポーネントの家電化を進める」だった。昨今E-バイクを始め、電動パーツが自転車に占める割合が増え、人の力によるアナログな操作感は基本減っていっている。その中で注目された新型レース用機材の答えは、やはり時代に沿った形となった。
新型コンポでは12速化、そしてDi2のワイヤレス化が大きな進化を遂げたポイントとなった。STIレバーとリアディレーラーが無線接続、フロントとリアディレーラーは有線でバッテリー接続となり、従来のフル有線接続に比べて組付けが楽になった。さらにシマノによれば、充電の利便性とシフトパフォーマンスも向上しているという。無線使用のSTIレバーはボタン電池式となっている。今回は大幅なリニューアルで高速処理と消費電力低減を達成、またMTBコンポのXTR用に開発されたハイパーグライド+のカセットやディスクブレーキローターが採用された。キャリパーブレーキは残されたが、変速は全て電動となり、よりメンテナンスフリーになったといえるだろう。シマノはブレーキ周りの電動化も視野に入れた特許も取得しており、全ての電動化を視野に入れているようだ。
称賛の声もある中で、昔から自転車を楽しんできた人たちからの間ではワイヤー式が消えたことへの落胆の声が相次いだ。これでシマノには上位コンポーネントで一切ワイヤー式コンポーネントが無くなり、全てが電動で制御されることとなった。今やシマノは業界の巨人となり、現実的にはライバルと言える企業はないような状況、カンパニョーロとスラムが対抗馬として存在はしているが、どちらも肩を並べるかと言われれば、シマノの圧倒的なシェアの前に後塵を拝している。その2社がどこまでワイヤー式を残していくかには注目が集まる。
改めて考えてみたいのが、ワイヤー式が必要なのかどうかだ。昨今グラベルロードを始め、レースシーン以外での自転車のホビーが世界中で定着している。長距離を荷物を積んで走るランドナーの現代版ともいえる旅する自転車においても電動コンポは選択肢になりつつある。しかしこのような自転車では、そもそも自分で故障などへの対応をしなければならない事が増える。その際に電動コンポはやはり限界がある。日本国内でもありうることだが、世界的に見れば未開の地で旅をすれば当然電気や、電池などという言葉とは縁遠い場所さえある。日本でさえ、自宅以外での電源の確保は容易ではない。それらを考えればワイヤー式がすべて消えるということはないだろう。ただしレースシーンでは、今すでに電動オンリーになっており、企業側からすれば同じシリーズでワイヤー式と電動式の両方を持つことへの収益上のメリットがあまりないことから、電動に絞るという方向性は仕方のないところだろう。
電動も信頼度が上がり、誤作動やトラブルも減ってはいるが、常に不測の事態は考えられるのと、それが起きた際には、まず一般レベルでの修理・修復は不可能といって「修理ではなく壊れたら買い替え」の方向性になりつつある。結果としてメンテナンスフリーは、ユーザーが自ら自転車をいじる機会を失わせるということでもある。つまり自転車という趣味が、「乗るだけ」になりつつある。それは裏を返せば、自分で改造やコンポーネント交換などを行いたい「自転車をいじる」ことが趣味の人にとっては、ますます肩身が狭く、つまらなくなっていきそうだ。
ここ数年電動モーターの開発や、電動コンポの開発に時間を費やしたせいか、シマノのパーツの完成車メーカーへの普及パーツ納品のリードタイムは今や600日となっており、今注文をかけても1年半以上たってようやく届く状態となっている。その為多くのメーカーは他社コンポへ乗り換えるか、生産を止めるかの選択肢を迫られており、スポーツサイクル全体が停滞している。一社が強大になり過ぎた弊害がここへきて顔を覗かせている。
ワイヤー式コンポは間違いなく生き残っていくだろう、ただしレースコンポレベルではないところで、別枠のラインナップと今後なっていく可能性は高いだろう。それが果たしてユーザーにどう受け取られるか、かなり気になるところだ。
カンチブレーキや、キャリパーブレーキ、ダブルレバーやバーコン、こういったパーツがそうであるように、ワイヤー式のコンポーネントを好むこと自体が「ノスタルジック」、「懐古主義」、「マニアック」という扱いになってしまう時代が訪れ始めている。
H.Moulinette