強かったポガチャル、ライバル脱落もモチベーションに影響なし、さらに攻撃は最大の防御と言い切れる若さと貫録の両輪、個人TTと難関山岳2連戦で見せた機材へのこだわり
若干22歳にて、2度目のツール・ド・フランス制覇を連覇で成し遂げたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、その強さは昨今の総合系とは一味も二味も違うその強さの正体はいったい何なのだろう。多くの名選手たちが総合優勝を目指し競い合ってきたツール・ド・フランス、しかし年に一度の最高峰の戦いの頂点に立てるのはわずか一人。その頂点に立つ男は、もちろん強くなければならない。それは肉体的なことにとどまらず、精神的、そして勝利への欲望をいかに持っているかということだ。
そんなポガチャルの精神力と勝利への渇望を強く感じさせたのが、インタビューでの「攻撃は最大の防御、だから僕は攻め続ける。」という言葉だ。通常総合リーダーに躍り出ると、チーム戦略としてもそうだが、なるべく体力の温存をするために、積極的な攻撃は避け、ライバルたちに攻撃をさせてそれに対応、相手の体力をそうして削っていくというのが常套手段だ。特にチーム力が大きくものをいう昨今にグランツールでは、その戦略が圧倒的に増えている。
しかしポガチャルは、そもそもアシストがライバルに比べて見劣りする。それでも勝ててしまうのは、やはり「個」の圧倒的な力だ。アシストはある程度まで、あとは自らが攻撃的に動きライバルたちを引きずり下ろす、これがポガチャルの勝利のパターンでありスタイルなのだ。
実際今大会の最難関山岳ステージ2連戦では、それが見事にはまり総合2位のヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)と総合3位のリチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)以外を完全に突き放して見せた。さすがにこの二人をここでは振り切れなかったが、その余裕を持った対応は、明らかに「格上」であることを感じさせた。
また勝利への貪欲さは、チームで使用する機材にも及んでいた。もともとチームはディスクブレーキのバイクを持ち込んでいたが、一番の勝負どころの第17,18ステージではディスクブレーキではなく、チーム全員がキャリパーブレーキを使用、これは軽量化の側面以上に、万が一のパンクの場合の対応によるものだ。実際にクライマーがパンクをしてホイール交換で大きくタイムを失うケースが今大会でも見られたことからも、やはり迅速な対応が可能という意味ではキャリパーをあえて選択するというのは勝利へのこだわりだったのだろう。山岳ではチームカーが点在するため、バイク全交換にも時間がかかることから、最悪チームメイトから容易にホイールを受け取れる状況、この選択は間違いなく勝利への執念の一つだったと言える。
さらにタイムを失いたくない第20ステージの個人TTでは、ここでもリムブレーキモデルを使用するとともに、なんとコンポも通常の12速ではなく旧式の11速を選択した。これはギア比によるものでもあるが、やはりホイール交換が1秒を争うレースでは生命線であり、そこへのこだわりを見せるその姿勢に、勝利を目指すものとは何たるかを感じさせた。一昔前は、山岳で650cのホイールを使うクライマーがいた時代があった。しかし昨今のスポンサースポーツでは提供された機材を使うのが当たり前になっている中で、今大会中マシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・フェニックス)やポガチャルらが勝利のために機材へのこだわりを見せた。もしかしたらこれもまた一つのトレンドになっていくのかもしれない。
いったいこれからどこまで勝利を積み重ねていくのか、末恐ろしいポガチャルはどれだけの伝説を積み上げていくのだろう。20代選手たちの台頭著しい今のロードレース界、グランツールと言えばポガチャル、そんな時代が到来したのかもしれない。
H.Moulinette