コラム:ツール・ド・フ・ランス開催の危機、そして東京五輪はいまだ開催強行の声、日本と世界で異なるCOVID19への危機感、「健康が第一」、「躊躇なく中止すべき」の声多き海外
コロナウイルスの影響は自転車界にも大きな影を落としている。主要レースは軒並み中止や延期となり、世界3大自転車レースのうち、ジロ・デ・イタリアは延期となり、ツール・ド・フランスにも開催の危機が迫っている。主催団体は開催の方向性だが、その発言力が絶大な伝説の名選手でもあり5度のツール覇者のベルナール・イノーは「サイクリングは素晴らしいスポーツだ、しかし人生の方がもっと大切だ。今我々が向かい合っているのは死の可能性もある健康リスクだ。コロナウイルス拡散防止のために、ツール・ド・フランスを中止をするのであれば躊躇なく決断すべきだ。このような状態でレースを開催などと議論すること自体ナンセンスだ。」と発言した。
海外では早い段階で世界最大級のスポーツイベントでもあるサッカーのヨーロッパ選手権が一年の延期を決めるなど、多くのスポーツで続々と中止と延期が決まっている。しかし日本では「経済五輪」と呼ばれて等しい五輪が「アスリートファースト」を置き去りにして独り歩きしている。多くのスポーツイベントは自粛や延期が判断されているが、五輪だけはここまで頑なに開催をすると言い続け現在に至っている。
国内での感染者数が少ないことで政治的決断として「五輪を予定通り開催する」という方向で一貫してきたが、ヨーロッパに引き続きアメリカでも感染が爆発的となり、各国のオリンピック委員や、競技団体、現役の有力選手たちからは「いま開催すべきではない、延期すべき」の声が日に日に高まってきている。当初は日本政府と同様に「どんなことがあっても開催する」としていたIOC(国際五輪委員会)のバッハ会長も、非難を受け徐々にトーンダウンしてきており、今になり延期もちらつかせるようになってきた。
多くの国でいまだに代表選手は決まっていない状況であり、世界全体でいまだに43%の代表が決まっていないのが現実だ。そしてその選考大会などが軒並み延期や中止に追い込まれている。その現状では、選手選考は難しいと言わざるを得ない。さらには選考されたとしてもコンディション作りも現状では難しい。さらには一部の国では五輪代表選手が既にコロナ感染も発覚、こんな状況で五輪を行えるかには甚だ疑問が残る。
五輪に限らず、多くのスポーツイベントは「ドル箱」のイベントであり、開催できない経済的打撃は大きいのだ。放映権だけでも膨大な金額となり、そう簡単に「中止や延期」を宣言できないのが実情だろう。また国内だけみれば、様々な政治的要因が簡単に中止と言えない側面がある。しかし五輪で最も大事なのは「選手」であるべきなのだ。「アスリートファースト」であるべき五輪はいつの間にか「エンターテインメント」としての役割を担っており、選手たちや現場の声を聞かず、本来守るべき「アスリートファースト」を忘れてしまっているのではないだろうか。
いまだに「自粛は行き過ぎ」や「やるべき」との声も多く聞かれ、「選手たちは一生を五輪に捧げているのだからどんなことをしてもやるべきだ、かわいそうだろ。」との声も頻繁に聞かれる。当然選手たちは一生に一度かもしれない五輪に向け全力を尽くしてきているのは誰もが知る通りだ。しかしそれと同時に、スポーツとは健康あってのものであり、健康リスクを冒しながらまでやるべきではない。だからこそ早い段階で中止や延期を決断、その先のイベントに向けて各選手が調整できるようにしてあげるべきだと思う。それが選手たちへの最大の思いやりではないだろうか。
「今は不思議な時だ。いつレースが再開できるかもわからないしね。でもそれは選手皆が思ってることだろう。でも今そこに答えはないよ。目的もないままにトレーニングを続けるのも難しいしね。今回のウイルスで家族を亡くされた方々には心よりのお悔やみを申し上げる。こういう時だからこそ気持ちをしっかりと持ち、皆で協力し合っていかねばならないと思う。ようやく今頃になり多くの人がウイルスの深刻さを理解して、対策に協力し始めたのはいいことだと思う。今は家族を大切にして欲しい。人は生き急ぎ、何かギリギリの瀬戸際でバランスをとっていることが多い。今回のこのタイミングは、そういったことを家族と共に向き合い、未来をよりよくしていくための機会だと捉えるべきだろう。」ヴィンチェンツォ・ニーバリは現在の心境を語った。
「今はウイルスと戦争をしているんだ。そんな中で、どんなことをしてもツールを開催などというべきではない。僕には決定権はないし、もちろんまだ時間があるから時期尚早という声があるのもわかるが、それでも沿道の観衆にリスクを背負わせて観戦させられるだろうか?一日に何万人という人が集まるんだよ。」とイノーは語る。選手と共にまた沿道の観衆も健康あってこそスポーツを楽しめるものだ。
実感がなければ人というのはなかなかすべてを「他人事」で済ませてしまう。感染者やそれによる死者が身近にいなければなかなかリアリティがないというは仕方がないのかもしれない。今はただこのCOVID19が収まるまで我慢をし、安全な状況下で各スポーツを楽しむべき、ただそれだけのことではないだろうか。そのためにまずはできることからやる、それが最善の近道だと思う。
H.Moulinette