コラム:さいたまクリテリウムで新城が日本人初優勝!シーズンオフのエンターテイメントレースの在り方と、その楽しみ方と役割を考える
昨日行われたさいたまクリテリウム、ツール・ド・フランス覇者のイーガン・ベルナル(チームイネオス)とブエルタ・ア・エスパーニャ覇者のプリモズ・ログリッチ(ジャンボ・ヴィズマ)がそれぞれ総合優勝ジャージのマイヨ・ジョーヌとマイヨ・ロホで秋のさいたま都心を駆け抜けた。ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャの主催団体が同じだからこその豪華な演出は、サイクリングファンと沿道の観衆を大いに盛り上げた。さらにはメインイベントのクリテリウムで新城幸也(バーレーン・メリダ)がベルナルとログリッチを振り切り優勝を決めたことでその盛り上がりはピークに達した。
その裏では海外の選手がそもそもシーズンオフで本気では走っていないということから、「出来レース」としての批判も噴出し、その程度で喜ぶことはどうなのか、というコアサイクリストたちの声も噴出した。
確かにさいたまクリテリウムはシーズンオフのイベントであり、世界の強豪が顔を揃えるが、当人たちもレースではなくイベントとして楽しんでいる。レース後のインタビューで「もうシーズン終わってるから、走れるように体調を維持するのが難しかった。」と毎年のように答えている。
運営は初年度こそ2億円という赤字と議会で議決せずに市長の一存で専決処分を行うなど、非難の対象となったが、毎年行うことでイベントが定着、また当初この規模の似たようなイベント経験がなかったことで勝手がわからなかった運営も慣れ、今ではこの時期のイベントとしてすっかり定着した。
そもそもこのイベントは厳密にいえば純粋なレースではなくツール・ド・フランスの名を冠したイベントレースだ。その観点から見れば、真剣勝負よりもエンターテイメント性が重要視される側面は必ずある。例えば毎年のように有名選手が勝利、総合リーダージャージが優勝争いをするなど、ショーアップされた側面は誰の目にも明らかだろう。クリテリウムなどに特化した選手がいるにもかかわらず、総合系が優勝争いを演じて見せれば、観衆は盛り上がるのだ。そして昨今のヨーロッパでのハイペースなレースを考えれば、さいたまクリテリウムの平均速度は海外選手から見れば練習に毛が生えたようなレベルだろう。
今年のレースでも、普段のログリッチのTTでの走りを考えれば、新城を捉えるは可能だっただろう。明らかにペースをあげずにベルナルとランデブーをする姿にはまだまだ明らかな余裕が感じられた。レース直後のインタビューで息一つ乱れていないその姿を見ても、ペースコントロールをしたのは間違いないだろう。そして逃げている新城もそれはある程度認識していたはずだ。
しかしその光景を生で見ていた観衆は特にそうだが、そしてテレビ越しに見ていて興奮を覚えた人たちは多かったはずだ。選手たちはそれぞれがなぜこのイベントに呼ばれたかをわかっているし、役割としていかにイベントを盛り上げるべきかというのは理解している。誰もが盛り上がるために、シーズンオフの選手たちは個人の裁量でイベントを盛り上げたのだ。決して出来レースではないが、「配慮」というものが存在しており、それで開催国と国民が盛り上げるのも”エンターテイメントとしてのイベントレース”だといえるだろう。
今まで生でロードレースというものを見たことがない人たちが、間近で世界最高峰の選手たちを見る事が出来る、それだけでもこのイベントレースは価値があるのだ。結果はその時その時で選手たちが勝手に盛り上げてくれる。これがショーアップされたイベントレースというものであり、きちんとした役割があるのだ。
これは決して無駄なイベントレースではない。もちろん真剣勝負を見たい人にとっては物足りないものと映るだろう。それにも一理はある。だがこれは自転車レースの裾野を広げ、自転車レースを日本に根付かせるための一つのツールなのではないだろうか。日本人選手の強化の為にも、よりレースが開催しやすい環境づくりを目指す必要性がある。そのための第一歩として、自転車に関心がない人でも、その面白さを体感できる世界レベルの選手が顔をそろえるイベントは必要なのだ。
ただいくらショーアップされたレースとは言え、日本人選手は空気を読まなくてもいいと思う。誰であろうと日本人選手が目立てば遠藤は喜ぶのだ。国内組は半分レジャー感覚で来ている海外組を出し抜くぐらいの野心と会心の仕掛けと勝利を見せてほしい。シーズンオフの海外選手にかろうじてついていくレベルでは、走る意味などないだろう。海外組を際立たせるためのカスミソウはもうそろそろ卒業してもいいだろう。
また新城のように海外で結果を出している選手を「先輩だから」と立てる必要もない。国内でも結果を残していないような若手が大博打を打つ方が面白いし盛り上がるだろう。それがショーアップされたレースであり、それこそが会場の盛り上がりに繋がるのではないだろうか。それによりもし外国人選手の本気に火をつけられたら、それもまた大会の価値と意義になるのではないだろうか。
H.Moulinette