新チームイネオスはエコフレンドリー?

チームスカイはイギリスの象徴とも言えるほどに活躍をしてきた。しかしスポンサースポーツという特性上、たとえ最強チームであろうともスポンサーが買収されれば、場合によってはスポンサードが終了というモデルケースとなってしまった。スカイと21世紀フォックスの撤退により、一時はチーム解散まで噂されたチームだが、思いのほか早く次のメインスポンサーを獲得することに成功した。
チームスカイとしては環境問題に対するアピールを続けてきたチームだが、新チームはまさに環境問題の敵ともいえるエネルギー企業、多くの環境団体から訴えられている真逆の状況となってしまった。
そして新チームにとっては母国凱旋となるツール・ド・ヨークシャーで、なんと数千人規模でイネオスに対してのデモが行われることが分かった。フラッキングと呼ばれる水圧破砕法によるシェールガスや油の採掘を行うイネオスに対し、フラッキングの危険性を訴える多くの団体が集結、反対集会と、イネオスのボスであるジム・ラットクリフの顔が悪魔になった御面を用意しているのだ。
水圧破砕法は40年以上前からある手法だが、ここ10年ほどで安価で儲けが大きいことから採用されている手法である。地中深くに穴を掘り、そこに800万リットル、65000人が一日に使う量と同じ水を圧力で流し込む。さらに20万リットルの化学薬品と砂を流し込み、それにより岩盤を粉砕してしまうのだ。そして一度その水、砂、化学薬品を取り除くと、一気にガスなどを吸引するのだ。そしてガスなどの吸引が終わると、使われた水、砂、化学薬品を再び流し込んで、穴をふさぐのだ。
危険性は早くから指摘されており、まず化学薬品と混ざった水が、地中深くから水脈に流れ込む問題が指摘されている。薬品類は有毒物質が多く、特にベンゼンやギ酸など、人体に危険を及ぼすものが主を占めている。そして問題なのはフラッキングを行っている企業が、700種類とも言われているこの化学薬品の成分を一切公表していないことだ。地殻の変動によって地下水脈に流れ込む状況に関しては現段階では推論ではあるが、常識の科学的範疇で考えれば、地下水脈に流れ込むのは時間の問題だと指摘されている。
またフラッキングにより取り出されるガスはメタンガスを多く含んでおり、取り出されるガスの3%ほどが大気中へと放出されてしまうこと、またフラッキング自体が膨大なエネルギーを必要とするため、エネルギー確保の側面では本末転倒であり非効率的かつ温暖化問題の原因の一つとも指摘されている。
短期的膨大なエネルギーを賄えるという意味ではこの手法は企業に莫大な利益をもたらすが、長期的に見れば環境問題の観点から様々なリスクが大きいという側面がある。
チームはイネオスとして環境にやさしい自転車、という側面で打って出たいようではあるが、風当たりはかなり強そうだ。環境問題を考えたときに、自転車というのは必ずエコフレンドリーであるということが掲げられるが、そのチームの母体が環境問題の枢軸となれば、様々な問題が予想される。
あなたがもしチームオーナーであるのであれば、果たしてお金の為に業界全体の流れに反するスポンサーを獲得するだろうか?お金の為と割り切るだろうか?チーム生き残りの瀬戸際とは言え、ドーピング問題、特にTUE(治療目的例外措置)で限りなく黒に近いグレーとなってしまったチームが選択した次の一手が、「渾身の悪手」に見えて仕方がない。「金に魂を売った」チームは、マイクロプラスチックから海洋生物を救う活動から、そのマイクロプラスチックをまき散らす企業の広告塔に成り下がってしまったのだ。
格好をつけて自転車に乗りながら、こうした環境問題に無関心を決め込む傾向が強い日本。見て見ぬふりは簡単なことで、チームが強ければ誰が金を出しても構わないと思う人も多いのだろう。海外では「なぜこうした企業をスポンサーにしたのか」という議論がなされる中、日本では「新チームが楽しみ」という声しか聞こえないのは極めて残念だ。なぜ海外では議論され、どのような批判にさらされているのか、それを学ぶくらいの意識は持って欲しいものだ。
H.Moulinette