コラム:東北大震災からはや8年、以降続く自然災害、災害の際に活躍した自転車の実例から考える防災用品としての自転車の配備の必要性と可能性
東北大震災からあっという間に8年の月日が流れた。地震、津波、そして福島第一原発事故という未曽有の大災害により、多くの人命が失われ、多くの人たちが生活の基盤や故郷を失った。その中で、自転車というものが災害の中で活躍していたケースがあるのをご存じだろうか。
電気の供給が立たれ、基地局も被災、さらには限られた情報源となったネットでも情報が錯綜、原発事故の状況もきちんと伝わることなく人々は不安の中で長い時間を過ごすことを余儀なくされた。高齢者やとっさに逃げた人々は、情報を確認できるようなスマホや携帯などの端末も失い、途方に暮れるしかなかった。
道路も瓦礫などで埋め尽くされたり寸断されたりしたことで、車での移動は困難、情報の伝達にも苦戦することとなった。そんな中消防隊員や役所職員などが、自転車やオートバイと言った2輪で走り回っていたのだ。悪路でも強く、さらには車よりも取り回しに優れていたことで、情報伝達や安否確認、過疎地での物資の運搬などでかなり活用されたのだ。
オートバイはモトクロスタイプなどが大活躍したが、自転車はその多くがママチャリであり、かなりの苦難を極めたと職員から聞かされた。その後もバイクの台数と燃料の確保の難しさから、自転車は各地で活用され続けた。
海外などでは警察や消防などでMTBが配備されていることが多い。それは悪路を人力でこなせるというところから来ている。パーツ構成も頑丈なものが選ばれ、レースとは真逆の重量感と剛性重視の素材が選択されている。
昨今自然災害が相次ぎ、その都度道路状況の影響で情報伝達や物資運搬が難航する。もちろんひとたび災害が起きれば燃料の確保も当然難しくなっていくだけではなく、燃料を扱う場所も例えば余震の際などには2次災害を引き起こしかねない場所となる。それらを考えたときに、やはり災害対策の一つとしてアナログな自転車の配備というのは今後必要不可欠になるように思われる。
ではどのような自転車がいいだろう。まずは頑丈であることが必須条件だろう。例えば多少の瓦礫が上に積み重なっても引っ張り出して使えるものでなければならないだろう。それを考えれば転倒程度で折れたりひび割れるようなカーボンはまず除外される。さらにはエンドパーツが別体で破損しやすい物も難しいだろう。多少重くとも、曲がっても直せるアルミやクロモリと言った素材が選択肢としてはベストだろう。またホイール周りはオフロードを超えていけるものが必要だろう。またガラスや金属の破片が散乱する状況で多く走る可能性があることを考えればパンクした際のことなどを考え、ベストな選択肢はノーパンクタイヤだ。乗り心地を議論する状況ではなく、いかにノートラブルで走るかが重要であることからも、足回りの選択はこれ以外ないともいえるかもしれない。
さらにはブレーキ周りは油圧式などのブレーキは完全に除外、ワイヤー式で簡単に直せるものということからも、カンチブレーキやVブレーキがベストと言えるのではないだろうか。ギアは変速機があっても良いが、破損しやすいパーツであることを考えれば、なくてもいいのではないだろうか。どうしてもというのであれば内装式という手段がある。
それらから総合して考えると、リムブレーキでノーパンクタイヤのシングルスピードの金属系MTBが一番”使える”と言えるだろう。それこそ古いMTBのリメイクが一番手っ取り早く効率的かつ実用的かもしれない。
最新のデータでも関東から東北の沿岸では何か所でも今後30年以内にM7以上の地震が起きる確率が90%以上と出ている。また南海トラフでも常に警戒が呼びかけられている中、自治体や個人レベルでも災害対策の「備え」としての自転車というのは今後考えなければならないかもしれない。まずは避難する際に使用でき、さらには移動、情報伝達から運搬までもが人力で行える自転車は、災害時最強ツールの一つでもあるのだ。備えあれば憂いなし、災害用バイクはこれからの時代の必須アイテムになるかもしれない。
H.Moulinette