コラム:世界一ハイリスクで危険なプロスポーツかもしれないロードレース、プロ選手たちの誇りと声、「僕らは歴史に名を刻みたい」
自転車レースは数多くあるスポーツの中で最も危険な競技と言えるかもしれない。サッカー、フットボール、バスケットボール、野球、バレーボール、アイスホッケーらと並んで世界的にメジャースポーツと呼ばれるスポーツに属するサイクリングだが、その危険度は極めて高い。怪我をする率ももちろん高ければ、命を落とすリスクも間違いなく桁違いに高いのだ。
生身の人間が最高速120kmを超えて駆け回るロードレースは、人間の恐怖への限界点をさらに超えたその先に選手たちの本能がある。勝利への渇望、名誉と栄光、様々なものを求め選手たちは僅か生地1枚を身にまといハイリスクを背負いながら戦うのだ。
ある人から見ればそれらは無謀ともいえるだろう。しかしそのハイリスクに身を投じる生きざまに人々は惹かれ、熱狂し、そして一喜一憂する。そしてプロ選手たちはそんな生きざまを誇りに思うのだ。
そのことをワールドツアーで戦う選手たちに質問してみた。その回答には何ら迷いはなく、それぞれしっかりとした信念を持っていた。
「僕らは勝利するために人生を賭けているんだよ。有名になりたいというのもあるけど、それよりも勝者として歴史に名を刻みたいんだよ。」
「チーム戦ではあるけど、それでも心の奥底では勝ちたいと誰もが思っているんだよ。勝者になるべく、そのチャンスを狙い続ける、普段アシストだったとしても、いつ何時そのチャンスが転がってくるかわからないのがレースだし、他のどの競技よりも下克上が起きやすいハイリスク・ハイリターンなのがロードレースなんだよ。ある意味僕らはそんな中にあえて身を置くギャンブラーでもあるんだよ。」
「危険だと言われるのはわかってる。だからUCIもエキストリーム・ウェザー・プロトコルなどで悪天候のレースなどをキャンセルしたり、短縮したりをするようになった。そういう意味ではリスクは減ったけど、それでもレースが行われれば僕らは勝負するんだよ。それが僕らプロ選手の覚悟なんだよ。」
そう答える選手たちは一様に皆笑顔だった。彼らは根っからの勝負師なのだ。そのリスクでさえ笑顔で語れてしまうのがそのメンタルの強さなのだ。そしてそんなメンタルの強さに人々はヒーロー像を感じ、そして憧れ、陶酔するのだ。ロマンを超越した実力拮抗した真剣勝負はどの時代においても観衆の心を惹きつけ続けるのだ。
安全のためを語れば、それこそプロテクターをつけてレースを行えということになるだろう。でもそうなったとして人々はそれに対して、それでも憧れを覚えるのだろうか?危険を放置しろと言うわけではない、そして危険を擁護するわけでもない。ただそこにある人の性、なぜこれほどまでにロードレースが人を惹きつけるのか、そしてなぜこれほどまでに多くの人が彼ら選手に憧れ、彼ら選手たちと同じ機材を持つことに憧れるのか、それがこのスポーツの一つの真髄となっているのだ。
ロードレースは確かに面白い。そこにあるのは人の成長、そして苦悩と葛藤、挑戦と栄光と挫折、つまりは人の生きざまの過程なのだ。
H.Moulinette