コラム:クロモリが重いという先入観をマーケットに植え付けたのは誰か?クロモリを知らない世代の業界人が口にする「クロモリは重い」という形骸化したミスリード
「クロモリは重い」かなりの人がショップでその言葉を耳にしたことがあるのではないだろか。アルミなどの新素材が出始めた頃から急激に聞かれるようになったこの言葉、その後カーボン時代となり、クロモリに乗ったことさえない世代もまるで壊れたレコーダーのごとく「クロモリは重い」を連呼している。
果たして本当にクロモリは重いのか?説明不足が招いているこのミスリードがクロモリフレームビルダーたちの真の価値を評価するうえでの妨げになっていることをご存じだろうか。全てのカーボンフレーム、アルミフレームが軽いわけではないのに、それと同じ理屈で”全てのクロモリフレームが重い”という先入観を持ってしまっては、大きな損をすることになる。
クロモリ全盛期、レース用クロモリフレームの重さはフレーム単体で1.7㎏から2㎏、フォークと合わせて2.3㎏から2.6㎏ほどだった。そして当時の自転車の重さは9㎏ほどあったのは事実だ。そして今現在軽量クロモリフレームは1.1㎏から1.4㎏ほど、カーボンフォークと組み合わせれば1.4㎏から1.7㎏ほどに収まるのだ。そしてそれらフレームで組んだ最新のクロモリバイクは6㎏から7㎏も可能なのだ。フレーム単体の重さは約600gほど軽くなっているにもかかわらず、なぜ完成車の状態では2㎏以上の差が生まれてしまうのか、それはずばり!コンポーネントが重かったからに他ならない。ホイールのみならず各コンポーネンツが今よりすべて重かったのは皆が知るところであり、この違いがこの重さの違いを生み出したのだ。
しかし自転車業界は新素材に傾倒するにあたり、クロモリという素材を「重い鉄」というレッテルで悪者にしたのだ。元プロ選手でさえもコンポーネントの重さを語らずに、ただクロモリが重かったとだけ口にすることで、いつしかその刷り込みが進行してしまったのだ。つまり当時はコンポーネントがその重さのほとんどを占めていたにもかかわらず、さも「フレームが重い」という印象操作をしたのだ。そしてその真意を知ることなく、世代が変わってもその「クロモリは重い」という断片的な部分だけが継承され、ショップ店員自身も先入観を持ったままに消費者をミスリードしてきたのだ。もちろん安いクロモリは重いものもあるが、それはアルミやカーボンとて同じこと、安くなれば肉厚になり重くなるのは共通することなのだ。
この責任は誰にあるのだろう。各時代の広告を見れば、アルミやカーボンなどの新素材を持ち出したフレームメーカーは軒並み「軽量化」を謳ったのだ。しかし実際にはそれら新素材が出た当時、実は軽量クロモリフレームよりも重いアルミフレームやカーボンフレームが多くあり、クロモリのほうが軽い場合も多かった。つまりクロモリは、特段デメリットがあったわけでもないのに、買い替え需要を促すために「悪者」とされてしまったのだ。この構図は今でも健在であり、絶対的なデメリットがあるわけではないキャリパーブレーキ(条件的デメリットはあるが、メリットもある)はクロモリと同じ末路をたどるかもしれない。
ミスリードは業界の意図的な買い替え需要のための「口実」であり、それが形骸化してしまったことでクロモリは「重い」というレッテルが張られたままになっているのだ。実際に普段カーボンフレームしか乗ったことない人が軽量クロモリフレームに乗った人が驚くのが、そのレスポンスの良さと振動吸収性だ。クロモリも進化しており、いつまでもツーリングバイク向けと言われるしなるだけの素材ではなくなっている。
今「クロモリ」は新しい素材となりつつある。先入観を捨てて一度経験してみてはいかがだろう、きっと「目からうろこと」はこういうことを言うのだと実感することだろう。やはり論より証拠、自分自身でその真実を確かめて欲しい。
次回は実際にタイプの異なる新旧2台のレース用クロモリフレームを組み上げて、その重量を計測していこうと思う。
H.Moulinette