コラム:進む市販車のロードディスク化、スペシャライズドやジャイアントなど大手完成車メーカーはキャリパー切り捨てを公言、しかしプロ限定キャリパーモデルが勝利量産、プロと一般市場のニーズの違い
一気に加速するロードバイクのディスクブレーキ化、当初はプロ選手たちを広告塔にその拡散を狙ったが、まさかの選手たちによる「不要」論が向かい風となり、その普及は足踏みを余儀なくされた。しかしここへきて完成車メーカーがしびれを切らす形で強硬策に出たような形となっている。モデルチェンジに際してキャリパー(リムブレーキ)を廃止し、選択肢がディスクしかない形を明確に打ち出すメーカーが現れたのだ。しかしそれとは裏腹にプロチームからはキャリパーモデル特注の要請がありそのモデルが勝利を量産、プロと一般市場のニーズの違いがはっきりと分かれることになっている。
ワールドツアーチームにスポンサーをする完成車メーカーの2大巨頭、スペシャライズドとジャイアントが明確な舵きりを見せた。例えばスペシャライズドはハイエンド完成車はディスクに限定され、リムブレーキバージョンは一部車種でのフレームのみの販売となる。「我々はリムブレーキは完成車では廃止の方向で、ディスクオンリーにしていく予定。リムブレーキは一部機種でフレームセットとして提供する予定」と明確にディスク中心とすることを決めた。.またジャイアントも同様にハイエンドを含む新機種はディスク中心の方針となっている。まだまだリムブレーキの販売量のほうが多いが、これはローエンド機のほうがより多く販売されているからにほかならず、2018年度は2016年度に比べて全体量で言えばディスク完成車の製造台数を10%引き上げる
完成車メーカーとしては買い替え需要の際に選択肢を無くすことでコンポーネントメーカーの統計上はディスクの販売量が増えている計算となる。しかし日本、アメリカを含め小規模メーカーさらにはハンドメイドメーカーにとってはこのディスク一片途への傾倒は存続の危機へとつながる可能性さえある危険性をはらんでもいる。
思い出してみれば、自転車業界では、1990年代に体力のある各大規模メーカーがカーボンモノコック、アルミモノコックを多用して複雑な形状のフレームバトルが白熱した。しかしそれにより、それらに参入できない体力のない中小規模のブランドやハンドメイドブランド(イタリアなどではハンドメイドブランドがほとんどだった)が追い込まれる形となってしまった。そのため、世界自転車競技連盟(UCI)は一極化と中小ブランド保護のために競技フレームをダイヤモンドフレームに限定をする、とルール改変をし、業界を守ったのだ。
今の流れからすると苦境に立たされる中小ブランドやハンドメイドブランドは今後このディスク化が進みキャリパーが排除されていけば、倒産、もしくは廃業が進むことが予想される。中小ブランドやハンドメイドブランドもディスクに切り替えればいいのでは?という疑問が当然湧いては来るが、まず一つに中小規模ブランドの資金力が問題となる。結局対応するためにはフレーム製造工場が提供する既存デザインを採用することが生き残りへ選択となれば、没個性的で、色違いだけのフレームが市場に混在することとなる。マーケットはこのような商品には敏感で、すぐに飽きられてしまう可能性が高いのだ。またハンドメイドでも可能ではあるが、ロードバイクを多く作る国内外フレームビルダーらにこの疑問を投げかけたところ、同じような回答が返ってきた。
「作るだけなら容易だけど、フレームの調和やバランスということを考えれば、別の話になるよ。長年経験から生み出してきたベストバランスを根底から考え直さねばならないし、そもそもフレームの片側だけに負荷がかかるディスクブレーキはクロモリフレームには適してはいない。柔軟性が特徴であるクロモリには、フレームの左右で負荷が違うディスクは最適ではないんだよ。もちろん片側だけ補強をすることもできるし、全体的に補強をすることもできるけど、それではクロモリの良さの本質には反するんだよ。技術革新なのかもしれないけど、それで同じ業界内の”幅”を狭めることがいいとは思わないし、じわじわと真綿で首を締める用に自分たちに跳ね返ってくると思うよ」 「出来ないことはないけど、ハンドメイドのクロモリにはベストではないね。素材が変わったからディスクでもいけるけど、そればかりになるのはどうかと思う。」それぞれのビルダーはディスクブレーキと現在の状況に関して語った。
ではキャリパーブレーキは本当にこのまま消えてしまうのだろうか?同じくワールドツアーに機材供給しているトレック・セガフレドは「我々は供給するチームに選択肢を与え、彼らはいくつかのレースでディスクを選択したが、マーケット向けにはまだまだリムとディスクの両方を供給していく。正直言って選択肢が増えるというのは企業にとっては非常に難しく、選択肢は絞っておきたいものだ。現段階ではそのような選択をしているが、いずれはマーケットに合わせてそれを変えてく予定だ。」としており。現段階でキャリパーを排除することはなさそうだ。またシマノも「まだまだキャリパーのニーズはあるのでいきなりラインナップからなくなることはない」としている。またシマノとしては数少ないコンポーネント製造メーカーというスタンスからも、アフターサービスのことを考えればすぐにディスクオンリーに切り替えることはないだろう。
昔はMTBでは主力だったカンチレバーブレーキは一度は廃れたが、その後シクロクロスやツーリングバイクの復活とともに再び脚光を浴びた。ディスクブレーキも実は1970年代には一度は登場したが普及することなく消えていったが、技術が伴ったことで実用性が増して今その地位を確立している。ただしディスクブレーキがメンテナンス性でユーザーフレンドリーでない部分が多い以上、これからもおそらくキャリパーが消えることはないだろう。
皮肉にもスペシャライズドは一般マーケットで切り捨てたはずのルーベのキャリパーブレーキモデルを、プロチーム用に生産している。同社がスポンサーするクイックステップ・フロアーズとボーラ・ハンスグロエの両チームの選手たちからの要望があり限定的に生産、供給したところ、クイックステップ・フロアーズの春のクラシックでの勝利量産、さらには現世界チャンピオンのピーター・サガン(ボーラ・ハンスグロエ)がパリ~ルーベで勝利するなど、選手たちは相変わらずキャリパーモデルを好んで使用している。
業界主導で変わる技術革新とマーケットのニーズ全てが必ずしも一致しないのは世の常、新技術に慣らされいつの間にかすり替わっていってしまうことが多いが、それでもいいものは残るものだ。ロードディスクは日常使いでのメリットは多いが、デメリットももちろんある、選択肢はいくつあってもいいのだ。
H.Moulinette