コラム:埼玉クリテリウムから感じるエンターテインメントとしてのレースイベントと日本のレースの現状、伸びないレース市民権と日本人選手たち、今後どうすれば日本は世界に向き合えるか
今年も埼玉を黄色で染め上げるイベントが開催された。ツール・ド・フランス主催のASOが主導で行われる埼玉クリテリウムは昨年度10周年を迎え、今年11年目を迎えた。昨年度は記念大会という事もあり予算も含め、過去最大規模となったが、今年は一段落したから一回りこじんまりとしたイベントとなった気がした。

©Satoshi Yano
日本でのロードレース熱を盛り上げようと始まったこの大会が果たしてきた役割は非常に大きい。世界トップクラスの選手たちを間近で見ることができる数少ない機会だったからだ。もちろんジャパンカップなどにも海外からトップチームはやってくるが、あくまでもチームの中での序列末端の近い選手たちが来ることがほとんどであり、世界最高峰クラスはほぼ来ないのが実情だ。そんな中シーズンオフという事もあり、今年ツール・ド・フランスのみならず主要レースで活躍した現役トップクラスがバケーションも兼ねてやってくるこのイベントはとても有意義な場となっている。もちろん選手たちはオフシーズンに入っており、ワールドツアーのような100%のレベルでのレースをするわけではなく、エンターテインメントとしてのレースを展開する。勝者も走る前から自ずと予測できるようなエンターテイメントレースではあるが、それでも沿道は熱狂するのだ。今年はヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイクエース)が優勝、グランツアラーのクリテリウム優勝で場を盛り上げた。

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しかし今年の大会は各チームの選手たちもASOと各チームからの要望で各チーム4名から3名へと人数を減らし、また取材メディアも減り、全体的にピークを越えたイベントのようになったと感じられた。この10年で日本におけるロードレース熱はある程度盛り上がりは見せた。しかしそれ以上になることはなく、さらにCOVID19による自転車熱(一人でも楽しめる趣味)も冷めたこともあり、多くの人が自転車から離れていってしまった。結果ロードレース界を楽しんでいる人間は結局トータルでほぼそのパイを増やすことなく、どのイベントに行っても同じ面子と会うようなレベルで収まってしまっているのが実場だ。

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またその間に別府文之や新城幸也クラスの世界に通用する日本人選手は育たず、そしてその見通しも未だ暗い。国内開催の主要国際レースを見れば、総合上位は常に外国人選手がほぼ独占状態であり、それも世界クラスとは言えない選手たち相手に太刀打ちできていない時点で、今後の見通しはまだまだ暗いと言わざるを得ない。
これら状況、さらには昨今の30年間GDPが横ばいで経済成長の無い日本の経済状況を鑑みると、国内でのロードレース熱がこれ以上盛り上がっていくことは正直考えらえないのが現状だ。機材の価格が大幅に上がっているように感じるが、これも結局海外は通常の経済成長をしているから価格微増の感覚が、日本人からすれば大幅な値上がりをしているように感じられていることがあり、憧れの選手のプロ機材が手に届く範囲で乗れるF1と呼ばれたのはもう過去の話、今では機材の新調、ハイエンドパーツの購入は多くの人にとっては日常から乖離した世界となってしまった。
そしてそれに加え国内選手が世界で活躍しない状況もあり、レース界の盛り上がりは正直大衆の趣味というよりは、好事家、フェチズムの延長のようなマニアックでニッチな趣味という状況のままになってしまっている。埼玉クリテリウムも沿道の観衆の多くが、今では恒例の季節の「お祭り」として楽しんでいる傾向が強く、選手や競技に本格的に興味を持つまでに至っていないケースが多いと感じられた。
では今後埼玉クリテリウムはどうすべきなのだろう。当初のロードレースの認知度向上という役割はすでに果たされた気がしている。シーズンオフのイベントではあるが、昨今海外主力選手たちはオフシーズンに入ってもシクロクロスやMTBなどほかの種目にも参加する選手も増え、また家族と過ごす時間を優先するために出場オファーを断る選手たちも多い。そうなれば、初期のころのような豪華すぎるメンバーが集まることは今後さらに無くなっていくような気がする。それを考えたときに、海外選手に華を持たせるようなエンターテイメントレースはもう必要ないのではないかと感じる。海外選手が来なければ盛り上がらないのは残念ではあるが、ならばそれは避けられないポイントとして日本人選手たちがそんなシーズンオフ・リゾート気分で走る海外選手たちを本気にさせるぐらい圧倒するようなレース展開、そして結果下剋上などは見てみたいとは思わないだろうか。
WBCでいまやMLB史上最高の選手となった大谷翔平が円陣で言った「憧れるのをやめましょう」こそがまず最初のステップなのではないだろうか。言葉がわからずとも、海外選手たちにどんどんと語りかけ質問をし、そしてその上でねじ伏せる、そんな向上心とハングリーさに溢れた日本人の若手選手に出てきてほしいのだ。国内選手たちがワールドクラスの選手たちに対して「すげー本物だ」という言葉がいまだ出てきてしまう状況は問題なのだ。同じレースという土俵に上がったらすべては対等、「全力でぶっ潰す」ぐらい気概のあるメンタルの持ち主がそろそろ表れてほしい。そして埼玉クリテリウムは今後その為の入り口、きっかけとなっていってほしいと思う。
H.Moulinette












