ブエルタ・ア・エスパーニャ2023第6st:ユンボの戦略炸裂!最強アシストのクスが逃げ切り勝利!2位のマルチネスが20歳で総合リーダー!ヴィンゲガードとログリッチがエヴァネポエル振り切る(ダイジェストあり)
あまりにも鮮やかなユンボ・ヴィズマの戦略炸裂だった。山岳ステージではアシストを逃げに乗せ、メイン集団でのバトルが勃発した際に足を休めつつエースを待つ、これが定石だ。そしてこの作戦を多くのチームが実行に移した。しかしこの日はメイン集団のペースよりも、総合リーダージャージ奪取を狙ったチームが逃げ集団にいたためにメイン集団との差が縮まらなかった。そうなれば逃げに乗ったメンバーによる逃げ切り勝負が勃発するのは必然だった。そしてそこにいたのがエースの実力がありながら、それを拒んでスーパーアシストにこだわり続けるセップ・クス(ユンボ・ヴィズマ)だった。40名以上の大所帯の逃げに3名を送り込んでいたユンボ・ヴィズマはこのような事態が起きることも想定済みで、クスをその場合のステージエースとしていたのだ。
そしてその通りの圧倒的な走りで逃げのライバルたちをあっという間に振り落とし独走、笑顔でステージ優勝を挙げた。これで総合でも2位へと浮上、本人は否定するが、これで実質的にユンボ・ヴィズマは3人エース体制と言っても過言ではないだろう。
そしてその背後のメイン集団で起きた総合勢による直接対決ではプリモズ・ログリッチとヨナス・ヴィンゲガード(共にユンボ・ヴィズマ)のジロとツール覇者コンビが躍動、総合リーダーのレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)を振り切り先着、初日のチームTTで失っていたタイムを取り戻すことに成功した。
しかし総合リーダーに立ったのは若干二十歳のレニー・マルチネス(グルーパマFDJ)、渾身の走りでステージ2位で一気にブエルタ史上最年少総合リーダーに躍り出た。祖父も名ロード選手、父はMTBで一時代を築きオリンピックMTB金メダリストのミゲル・マルチネスという超サラブレッドが、その名に恥じぬ素晴らしい結果を挙げた。また総合力を伴うマルチネスが、優勝候補たちにこれで3分弱の差をつけたことで、今後このマルチネスの活躍が台風の目となるかもしれない。
天文台へと続く激坂頂上ゴール決戦は、そのほとんどが10%以上の勾配であり、時に16%を超えるまさに激坂地獄、しかも登坂距離が9㎞を超えるまさにサバイバルコース、それを見越して183.1㎞のこのステージは序盤から激しく動き続けた。その中でUAEチームエミレーツのサブエースであり主力アシストのジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)がクラッシュ、そのままリタイアとなってしまう。ソウダル・クイックステップは何とか集団をコントロールし、危険な逃げの発生を防ごうと必死に動き回り、一度はこれに成功、中盤で逃げを吸収し振出しに戻すことに成功した。だがここで大きくエネルギーを割いて動いたことが、結果的に後で大きく響く結果となった。
中盤でリセットされた後に発生した9名の逃げに、クス、ロドリゲス、マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)ら33名が合流し、逃げは大所帯となりあっという間にメイン集団とのタイム差が4分を超えていく。人数を減らしながらもこの逃げはメイン集団に3分半のタイム差を維持したまま最後の激坂バトルへと突入していく。
この集団を牽引するマイケル・ストーラー(グルーパマFDJ)がロドリゲスの総合ジャージ奪取に向け猛然とペースアップ、これにより戦闘集団はさらにその数を減らしていく。しかし後続のメイン集団はすでに逃げ集団と同じぐらいにまで人数を減らしており、先頭との差を縮めるほどの勢いはない。
そしてストーラーの引きが終わると、残り4㎞でエイナー・ルビオ(モビスター)がアタック、これが号砲となりロドリゲスとロメイン・バルデ(チームDSMフィルメニッヒ)がアタック、さらにそれに遅れて残り3.3㎞で満を持してクスが飛び出していく。そしてあっという間に追いつくと、残り2㎞でアタックを決めそのまま独走態勢を築く。ロドリゲスはクスにタイム差をつけられると自らの総合リーダージャージ奪取が危うくなるため、ここから必死のもがきを見せ続ける。
その背後ではログリッチがアタックを決めると、総合勢の集団は一気に崩壊していく。ログリッチに合流したのはヴィンゲガードとエンリック・マス(モビスター)、エヴァネポエルはここでアシストもなく完全に取り残された状態となってしまう。
先頭ではそのままクスが笑顔でガッツポーズ、ロドリゲスは必死にスプリント氏バルデを振り切りボーナスタイムも獲得し、何とか総合リーダージャージ奪取に成功した。そして次々と逃げのメンバーがゴールする中、ログリッチとヴィンゲガードのダブルエースはそのままマスも置き去りにしゴール、初日のチームTTでエヴァネポエルに対して失ったタイムを大きく挽回した。そして猛追したホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ)がマスをかわし先着、この日の逃げがずらりと総合トップ10に顔を揃え、主力総合勢がそれに続く形となり、優勝争いは一気に混沌となった。
セップ・クス(ステージ1位、総合2位):「今日はこういったハードなステージになることはわかっていたんだよ。だからソウダル・クイックステップに集団をコントロールさせるためにも逃げに乗ることが重要だったんだ。それがハマったね。普段僕が勝利することはあまりないからね。ブエルタでステージを勝てたことは特別なことだよ。総合でも上位に来たけど、それはこれから日々考えていくよ。」
レニー・マルチネス(ステージ2位、総合1位):「今日は激しい展開になったね。うまいこと逃げに乗れたよ。そのまま最後まで行けたのは収穫だったよ。その結果として総合リーダーになれるなんて夢のようだよ。このジャージをできる限り守り抜きたいね。」
レムコ・エヴァネポエル(総合9位):「調子は良かったんだよ。でもライバルが動いた時には動けなかったよ。でもダメージを最小限にとどめられたことにはほっとしているよ。とにかく自分のペースで上り続けることに専念したんだよ。ゴールが近づいたら、ようやく足が慣れてきて、テンポよく走れたよ。今日が僕の”バッドデー”であったことを願うよ。」
ブエルタ・ア・エスパーニャ第6ステージダイジェスト
https://youtu.be/egqxakZyAzc?si=dQ6PJ0uX_fo2VDH_
ブエルタ・ア・エスパーニャ第6ステージ順位
1位 セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ) 4h27’29”
2位 レニー・マルティネス(グルーパマFDJ) +26”
3位 ロメイン・バルデ(チームDSMフィルメニッヒ) +31”
4位 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス) +46”
5位 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)
6位 ワウト・ポエルス(バーレーン・ヴィクトリアス) +1’03”
7位 エイナー・ルビオ(モビスター) +1’05
8位 クリスチャン・ロドリゲス(アルケア・サムシック) +1’12”
9位 ステフ・クラス(トータルエナジーズ)
10位 ジェファーソン・セペダ(カハルーラル・セグロスRGA)+1’26”
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 レニー・マルティネス(グルーパマFDJ) 21h40’35”
2位 セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ) +08”
3位 マルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)
4位 ワウト・ポエルス(バーレーン・ヴィクトリアス) +1’41”
5位 ステフ・クラス(トータルエナジーズ) +1’48”
6位 ミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス) +1’58”
7位 ジェファーソン・セペダ(カハルーラル・セグロスRGA) +2’06”
8位 ダビ・デ・ラ・クルス(アスタナ・カザフスタン) +2’23”
9位 レムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ) +2’47”
10位 エンリック・マス(モビスター) +2’50”
11位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) +2’52”
12位 プリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ) +2’58”
14位 ホァン・アユソ(UAEチームエミレーツ) +3’06”
H.Moulinette