ツール・ド・フランス2022St.16:天の兄に捧げる勝利!同じ夢を見た兄に代わりユールが念願のツールステージ優勝を独走で決める!ポガチャルはまたもアタックの連続(ダイジェスト動画あり)
誰もが思いをもって世界最高峰のレースに挑んでいる。出場することを夢とした選手もいれば、ツール・ド・フランスでのステージ優勝を夢見た兄弟もいる。兄弟でツール・ド・フランスの中継を見ていたユール兄弟は、ツールでの優勝を夢見て揃って選手となった。しかし2012年、練習中に兄は事故で帰らぬ人となってしまった。だがその弟ユーゴ・ユール(イスラエル・プレミアテック)はその兄の夢をも自らが背負い、そしてそれから10年、ついに念願だったツール・ド・フランスでの勝利を、鮮やかすぎるピレネー山脈での独走勝利で飾った。胸に下げた十字架を出し、天を見て指さしてのゴール、全ての思いが詰まった勝利となった。
「僕には一つの夢があったんだ。それは兄の為にツール・ド・フランスで勝利すること。だからこの勝利は彼に捧げるよ。今日は本当はエースのマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)で勝負をするための戦略だったんだ。でもチームは僕をそのまま行かせてくれ、そしてウッズが後続を抑え続けてくれたんだ。だから後は全力で逃げ続けるだけだったよ。ずっと逃げのほかのメンバーとのタイム差が30~40秒程度で推移し続けたんで、とにかく必死だったよ。あと残り60㎞から補給ができていなくて、足がつったりもしたんだけど、とにかくゴールを目指したよ。」チームはユールの背景を知ったうえで、彼に勝利を託した。
山岳ステージのセオリーとして、総合系のチームは必ずアシストを送り込むという戦略が大事になる。そして178.5㎞のこのステージも逃げにワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)、ダニエル・マルチネス(イネオス・グレナディアス)、そしてブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)が加わり、さらには総合で脱落し、タイムを奪い返したいアレクサンダー・ヴラソウ(ボーラ・ハンスグロエ)、山岳賞ジャージを守り抜きたいサイモン・ゲシュケ(コフィディス)など、ざまざまな思惑が渦巻くメンバーが飛び出していった。逃げはアタックの応酬を繰り返しながらも後続のメイン集団との差を広げ、中盤には9分差にまで広がっていく。
ユンボ・ヴィズマがアシストを怪我などで失ったのに対し、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)も貴重な戦力となるはずだったマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)がこのステージの序盤で嘔吐、そのままステージを走り切ったがタイムオーバーとなってしまった。そんな中でもポガチャルは攻めの姿勢を貫き続けた。残り54㎞以上を残した1級山岳で加速、これにはあっけにとられた各チームの対応が遅れるが、総合リーダーのヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)はこれに追いつく。セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ)がしっかりとここでも追いつきヴィンゲガードらは小集団で頂上を超えていく。しかしここでまたポガチャルがアタック、一時はポガチャルとヴィンゲガードの二人だけとなるが、ここでもクスが猛追で合流し、総合優勝争いは白熱する。ただこの犠牲になったのが総合トップ10でしのぎを削っている選手たちだった。この段階で総合4位のロメイン・バルデ(チームDSM)はすでに脱落、この後も苦しい展開を強いられる。
そして先頭でも動きが出る。残り38.5㎞を残してユールがアタック、それをトニー・ギャロパン(トレック・セガフレド)、ウッズらが追う展開となるが、ウッズがうまくペースをコントロールし、ユールに追いつかせない。そうするうちに追走も、マッテオ・ヨルゲンセン(モビスター)とウッズだけになる。
そしてそのまま残り30㎞を切り、最大勾配20%の激坂区間で、ルイス・メインチェス(インターマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオー)がアタック、急激な加減速を嫌うメインチェスは、先行してマイペースで走ることを選択、またモビスターはエースのエンリック・マス(モビスター)のためのペースづくりをするが、結局これもまた飲み込まれてしまう。ポガチャルは、ラファル・マイカ(UAEチームエミレーツ)がアシストでペースをきっちりと刻み、ヴィンゲガードのアシストを少しでも削りに出るが、ここでマイカがまさかのチェーン切れを起こして脱落してしまう。そうなればユンボは逃げに送り込んだファン・アールトを呼び戻し、馬力あるテンポでゴールまでポガチャル抑え込み続けた。
先頭ではユールが最後まで後続との差を詰めさせず勝利、ウッズはスプリント勝負で敗れて3位となったが、カナダ人コンビのイスラエル・プレミアテックのチームメイトが1-3を飾った。チームとしてもサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)に次いでのステージ2勝目、降格圏内にいたチームにとっては、貴重な勝利とポイントを稼ぎ出している。
総合でも大きく順位の変動が起きた。ポガチャルとヴィンゲガードのハイレベルなバトルに巻き込まれ続けているライバルたちは、ほとんど我慢し続ける展開。攻めることもなく防戦一方で、このステージもアダム・イェーツとトム・ピドコック(共にイネオス・グレナディアス)、メインチェスらはこのステージで1分以上タイムを失った。そして最大の敗者はバルデ、4分近いタイムを失い大きく順位を下げた。逆にこのステージ逃げたヴラソフは4分以上を取り戻し、総合8位までジャンプアップした。またナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック)とダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)はそれぞれ総合4位と5位へとジャンプアップを果たした。
ツール・ド・フランス第16ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第16ステージ順位
1位 ユーゴ・ユール(イスラエル・プレミアテック) 4h23’47”
2位 ヴァレンティン・マドゥアス(グルーパマFDJ) +1’10”
3位 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)
4位 マッテオ・ヨルゲンセン(モビスター) +1’12”
5位 マイケル・ストーラー(グルーパマFDJ) +1’25”
6位 アレクサンダー・ヴラソウ(ボーラ・ハンスグロエ) +1’40”
7位 ディラン・テウンス(バーレーン・ヴィクトリアス)
8位 サイモン・ゲシュケ(コフィディス) +2’11”
9位 マシュ・ブルガドー(トータルエナジーズ) +5’04”
10位 ダミアーノ・カルーソ(バーレーン・ヴィクトリアス)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) 64h28’09”
2位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +2’22”
3位 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス) +2’43”
4位 ナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック) +4’15”
5位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +4’24”
6位 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアス) +5’28”
7位 ルイス・メインチェス(インターマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオー) +5’46”
8位 アレクサンダー・ヴラソウ(ボーラ・ハンスグロエ) +6’18”
9位 ロメイン・バルデ(チームDSM) +6’37”
10位 トム・ピドコック(イネオス・グレナディアス) +10’11”
H.Moulinette