東京五輪男子ロードレース:ツール・ド・フランスでの総合優勝を逃したカラパズが逃げ切り独走で金メダル!スプリント勝負で写真判定、ファン・アールトが銀、ポガチャルが銅
ツール・ド・フランスを走り切った疲れはどこへ行ったのだろう。グランツールで山岳ステージなどを走り切ってそのまま東京入り、十分な休息もないままにメダル争いに挑んだリチャード・カラパズ(エクアドル~イネオス・グレナディアス)が鮮やかな逃げ切り勝利で金メダルを獲得した。さらには銀メダル争いを制したのもツール・ド・フランスを走り切ったばかり、最終ステージのシャンゼリゼ通りでステージ優勝を飾ったワウト・ファン・アールト(ベルギー~ユンボ・ヴィズマ)だった。銅メダルにはそのツール・ド・フランスで総合優勝を果たしたタデイ・ポガチャル(スロベニア~UAEチームエミレーツ)がはいった。まさにツール・ド・フランスで結果を残したメンバーがここ、東京五輪でも結果を残す形となった。そしてそれ以降もツール・ド・フランスを走り切った選手たちが上位でゴール、改めて今現在の世界レベルの高さを感じさせた。
234㎞という長丁場、東京を出発し山梨を経由、静岡に入るハードなコースは、ワールドツアーレースと遜色のない見ごたえ十分なレースとなった。コロナ陽性により2名の出走停止が2名、合計129名が武蔵野の森公園を出発していく。
レースはスタート直後から8名が飛び出し逃げを形成する。ユライ・サガン(スロヴァキア~ボーラ・ハンスグロエ)を中心に、そのタイム差はぐんぐんと広がり、序盤の道志みちでは10分以上まで広がると、その差はさらに広がり一時は19分近くまで広がりを見せる。その背後のメイン集団では、スロヴェニア対ベルギーの構図がくっきりと見て取れる。事前の予測からファン・アールトは明確に金メダル狙いであり、その対抗馬にポガチャルという形であることはわかってはいたが、この2か国は明らかに他の国を超える明確な意図を感じさせた。そんな中イギリスにとっては痛い落車が発生する。ゲラント・トーマス(イギリス~イネオス・グレナディアス)とタオ・ゲイガンハート(イギリス~イネオス・グレナディアス)の二人が揃って落車に巻き込まれてしまう。何とか再スタートは切ったものの、強豪二人の脱落はイギリスチームにとっては大きな痛手となる。
富士山麓の上りは14.3㎞にわたり平均勾配が6%と本場のレース並みであり、そうなれば各国はふるい落としの為のペースアップを試みる。イタリアのペースアップもあり、一気に人数を減らすメイン集団は、こちらも人数を減らしている先頭の逃げとのタイム差をあっという間に縮め、富士山麓をクリアすることには5分差にまで縮まっていた。
一度目の富士スピードウェイを抜け、6.5㎞、平均勾配10.6%、最大勾配20%越えの三国峠へ向かう中で逃げは捉えられ吸収、さらにはイタリアとオランダも加わり主導権争いが始まる。そして勝負どころと見られていた三国峠に入ると、ポガチャルが満を持して動く。それに反応できたのはブランドン・マクナルティ(アメリカ~UAEチームエミレーツ)とマイケル・ウッズ(カナダ~イスラエル・スタートアップネーション)だった。通常は国別対抗ではあるが、所属チームのエースを勝たせるためにも動くことがあるのがオリンピックであり、それを考えればマクナルティとポガチャルの動きは危険極まりなく、ファン・アールトは自ら脚を使いその差を開かないようにするしかなかった。
しかし残り35㎞この逃げにまずはカラパズ、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、イネオス・グレナディアス)、アルベルト・ベッティオール(イタリア~EFエデュケーションNIPPO)が合流を果たす。さらにファン・アールト、リゴベルト・ウラン(コロンビア~EFエデュケーションNIPPO)、ダビ・ガウドゥ(フランス~グルーパマFDJ)、バウク・モレンマ(オランダ~トレック・セガフレド)、ヤコブ・フグルサング(デンマーク~アスタナプレミアテック)、マックス・シャフマン(ドイツ~ボーラ・ハンスグロエ)、アダム・イェーツ(イギリス~イネオス・グレナディアス)というそうそうたるメンバーが先頭で揃うこととなる。
さらにそこからアタックの応酬が繰り返されると、気が付けばカラパズとマクナルティが籠坂峠を先頭で山頂を通過、わずか20秒ほどのリードをもって残り20㎞へと突入していく。先頭の二人を追いかける集団は、ゴールスプリントへの準備も意識し、追走をしたがらない。スプリントになればファン・アールトに分があり、脚を使わせるために誰も積極的な追走に加わろうとはしない。その為タイム差は一時1分近くまで広がるが、ファン・アールトがここは追走、残り10㎞を切りタイム差は15秒ほどにまで縮まる。
富士スピードウェイに入っても何度となく後ろを振り返るカラパズ、その眼には迫ってくる集団の姿と主に、その集団が協調性がないことを見て取れた。すると残り6㎞、最後の傾斜地でマクナルティを置き去りにしたカラパズは独走態勢へと突入していく。必至に逃げ続けるカラパズに対し、集団ではファン・アールトを恐れるあまり追走がまとまらない。時折ファン・アールトが牽引をするが、先頭交代をだれもしたがらないため、カラパズの背中は手が届きそうにありながらも、その距離が縮まらない。
そのままカラパズは余裕をもってガッツポーズでゴール、ツールの総合優勝を逃した男がオリンピック金メダルという大きな称号を掴み取った。結局諦めてのスプリント勝負となった銀メダル争い、お互い駆け引きを繰り広げる。ファン・アールトが先行し、銀メダル確定かに思われたが、ポガチャルが猛追し最後はほぼ同時にゴールラインを駆け抜けた。写真判定の結果タイヤの差でファン・アールトが銀、ポガチャルが銅となった。
「ツール・ド・フランスでは表彰台を意識していたよ。それを達成してここへ来れた。何かができそうな予感はあったんだ。金メダルを取れたけど、ゴールラインを超えてもまだ信じられなかったよ。人生最高の瞬間だったよ。逃げが成功したのはマクナルティのおかげもあるよ。あれはいいコンビだったと思う。僅かなタイム差だったけど、あれを維持し続けられたのが勝因だよ。あとはサーキットに入ってからいつも通りの自分の走りに徹したよ。この勝利は母国エクアドルにとってとても大きなものとなったよ。とてつもなく大きな仕事やってのけたことを今実感しているよ。あとはここへ来られたことへの感謝、サポートしてくれた皆に感謝だよ。」カラパズは満面の笑みでそう語った。
わずか一人のアシストしかいない状況、しかしそのヨナタン・ナルバエス(エクアドル)はイネオス・グレナディアスのチームメイトでもあり知った中、さらには他国ながらもクウィアトコウスキーもチームメイトでもあり、複雑な要因が絡み見事なタイミングで抜け出すことができた上に、追走にファン・アールトがいたこともプラスに働き、最高の結果となった。ひときわ小さな男は、表彰台で両脇に一回り大きい選手を従えてはにかんだ。
銀メダル:ワウト・ファン・アールト(ベルギー~ユンボ・ヴィズマ)
「もちろん勝とうと思っているよ。(昨年の世界選手権ロードと個人TT銀メダル、今年のシクロクロス世界選手権銀メダル)でも今回も僕より強い人間がいたんだよ。スプリントで勝利できてよかったけど、まあ凄いメンバーだったからね。金は取れなかったけど、今日の状況下で一番いい銀が取れたんで満足だよ。」
銅メダル:タデイ・ポガチャル(スロベニア~UAEチームエミレーツ)
「あの峠は地図で見ていたし知っていたよ。上り前に脚がよく回っていたんで、調子に乗ってアタックしたんだよ。でも何考えてたんだろうね。出来る事はやったけど、上り早く終わってくれ~って思ってたよ。でも最終的な結果にはとても満足しているよ。」
東京2020男子ロードレース
金メダル:リチャード・カラパズ(エクアドル~イネオス・グレナディアス) 6h5’26”
銀メダル:ワウト・ファン・アールト(ベルギー~ユンボ・ヴィズマ) +1’07”
銅メダル:タデイ・ポガチャル(スロベニア~UAEチームエミレーツ)
4位 バウク・モレンマ(オランダ~トレック・セガフレド)
5位 マイケル・ウッズ(カナダ~イスラエル・スタートアップネーション)
6位 ブランドン・マクナルティ(アメリカ~UAEチームエミレーツ)
7位 ダビ・ガウドゥ(フランス~グルーパマFDJ)
8位 リゴベルト・ウラン(コロンビア~EFエデュケーションNIPPO)
9位 アダム・イェーツ(イギリス~イネオス・グレナディアス)
10位 マックス・シャフマン(ドイツ~ボーラ・ハンスグロエ) +1’21”
H.Moulinette