ツール・ド・フランス2021第15ステージ:休息日前の山岳はアタックの応酬!ステージを制したのはクス、バルベルデは惜しくも2位、総合はポガチャル耐え凌ぎ、マルタン自爆で脱落(ダイジェスト動画あり)
休息日前日の山岳ステージは、各チーム比較的攻撃的に繰る傾向がある。特に今年は総合トップ10圏内を狙える選手が多いだけに、総合順位狙いの積極的な動きが目立つ。だからこそ逃げは容認される可能性が高く、総合争いから脱落している総合系、エースを失ったエースアシスト系の選手たちが躍動するステージとなった。そんなステージを制したのは、絶対エースのプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)の右腕だったセップ・クス(ユンボ・ヴィズマ)、エースがいなくなったことで自由を与えられたアメリカンヒーローは応援に駆け付けた彼女の目の前で激坂で仕掛ける男前の走りで、堂々のステージ勝利を挙げた。そしてそれに及ばなかったが、大ベテランの親父パワー、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)もその存在感を見せつける走りでステージ2位、最後まで見ごたえのあるステージを演出した。
そして総合勢はイネオス・グレナディアスが攻撃的布陣で仕掛けたが、結局アシストを失い孤立していたタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)を崩すことはできずにゴール、総合表彰台を狙うバトルが、結果的にポガチャルをアシストする形になってしまった。そして昨日一気に総合2位までジャンプアップしたマルタンは、一瞬の油断でポガチャルらの背中に手が届かなくなり、そのままずるずると後退、ゴール後にこれ以上ない怒りの表情で悔しさをにじませた。
獲得標高が4500m、アンドラ公国でゴールを迎えるこのステージは、まだ勝利できていないクライマーたちにとってはまたとないチャンス、大所帯の28人が飛び出していった。そしてこの日は逃げの人数が増減を繰り返す。追いつくものあれば脱落するものあり、レースは中盤を超え、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(トレック・セガフレド)、ナイロ・キンターナ(アルケア・サムシック)、ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)、ワウト・ポエルス(バーレーン・ヴィクトリアス)、クスらが顔を揃え、山岳の上りでアタックの応酬を繰り広げる。
この時点で後続のポガチャルらメイン集団とのタイム差は10分以上にまで広がっていた。しかしここからイネオス・グレナディアスが攻めに打って出る。ミカル・クウィアトコウスキーやゲラント・トーマスが鬼引きを見せライバルチームのアシストを徹底して削っていく。イネオス・グレナディアスは先行する逃げにも二人メンバーを残しており、エースのリチャード・カラパズの順位アップのために攻撃的布陣で仕掛ける。山頂で待ち構えていたアシストが合流し、下りでペースアップを図ると、気が付けばメイン集は総合トップ10の選手に絞られていた。
しかしここで昨日そごう2位にジャンプアップしたマルタンが痛恨のミスを犯す。下りでは前方の選手についていくことで、その空力の恩恵を受けて走ることができる。しかし一度その距離が開けば、すべての風圧を受けることとなり、自らの力で走らねばならなくなるのだ。僅か10m、一瞬広がった距離は、永遠にも思えるほど遠かった。必至に猛追を仕掛けるが、目の前のライバルたちが脚を止めても速度が上がっていくのに対し、マルタンはこいでも速度が上がっていかない。マッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)も下りで合流を狙ったが、やはり速度差は歴然としていた。結局この二人はこのステージで大きくタイムを失うこととなり、マルタンは逆転優勝を狙える可能性のある4分差から、一気に8分差にまで広がり総合8位へと順位を下げた。カッタネオもトッポ10陥落となった。
先行する逃げはこの日最後の山岳に突入する。勾配が何度となく10%を超える激坂で、集団はばらばらとなっていく。そこで仕掛けたのがクス、バルベルデは一度はそれについていくが、引き離されてしまう。それでもバルベルデはマイペース走法でリズムを取り戻すと、クスを猛追する。しかし最後までクスとのタイム差30秒が近くて遠かった。頂上を超えゴールまでの下りに入ってもその差は縮まらず、クスは笑顔でゴール、見事ステージ優勝を果たした。
「今日は最後の上りに彼女とその両親が応援に来てくれていたから、そこで気張って仕掛けたんだよ。」そう言ってクスは笑った。
そして総合争いは、イネオス・グレナディアスのアシストがいる間に仕掛けると思われたカラパズが動かず、代わりにヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)、やベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン)が何度も仕掛ける。カラパズもアタックこそ仕掛けるものの、キレがなく、また総合順位を守りたいリゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO)らも反応するため攻めきれなかった。さらに「攻撃は最大の防御」と言い切るポガチャル自身も仕掛けるなど、完全にノーガードでの打ち合いが最後まで続く形となった。しかし決着はつかず、そのまま集団でゴールとなった。
山岳賞はポエルスが奪還に成功したが、僅差での勝負となっており、最後まで目が離せない戦いとなりそうだ。そしてポイント賞のマーク・カベンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)もチームメイトに守られながら余裕をもってオーバータイムすることなくゴール、完走すればポイント賞ジャージ確定的と言える状況で、余裕を持って走ることができている。
ツール・ド・フランス第15ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第15ステージ順位
1位 セップ・クス(ユンボ・ヴィズマ) 5h12’06”
2位 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) +23”
3位 ワウト・ポエルス(バーレーン・ヴィクトリアス) +1’15”
4位 ヨン・イザギーレ(アスタナ・プレミアテック)
5位 ルーベン・ゲレイロ(EFエデュケーションNIPPO)
6位 ナイロ・キンターナ(チームアルケア・サムシック)
7位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ)
8位 ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション) +1’22”
9位 フランク・ボナマール(B&Bホテルズp/b KTM)
10位 オーレリアン・パレ・ペイントレ(AG2Rシトロエン)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 62h07’18”
2位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO) +5’18”
3位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) +5’32”
4位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス) +5’33”
5位 ベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン) +5’58”
6位 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグロエ) +6’16”
7位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナ・プレミアテック) +7’01”
8位 エンリック・マス(モビスター) +7’11”
9位 ギヨーム・マルタン(コフィディス) +7’58”
10位 ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス) +10’59”
H.Moulinette