ツール・ド・フランス第11ステージ:ログリッチ欠くユンボ・ヴィズマ攻める!元シクロ王者ファン・アールトが名物峠バトルを制す、ヴィンゲガードはポガチャルを上りで追い詰める(ダイジェスト動画あり)
絶対的エースを失うことは、時にチームはバラバラになることもあれば、それを補う新たな才能が開花することもある。絶対的エースのプリモズ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)を失ったチームは、ステージ優勝に切り替えるとともに、新たな総合系の才能をヨナス・ヴィンゲガードに見い出した。攻撃的なレースを展開すると、ステージ優勝を元シクロ世界王者のワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ)で狙い通り獲るとともに、絶対王者の貫禄が漂い始めた総合リーダー、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)に対しヴァンゲガードが名物峠の上りで真っ向勝負で置き去りにする走りを披露、タイム差を広げる事こそできなかったが総合で3位へとジャンプアップを果たした。
モンバントゥと言えばツール・ド・フランスでたびたび名勝負が行われた名山岳、今年はその頂上を超え一度下り、もう一度上って下るというかなり過酷なコース設定となった。そんなステージで主役の座を奪ったのはファン・アールト、今大会新旧シクロ世界王者の一人として前半戦を盛り上げたが、惜しくもマシュー・ファン・デル・ポエル(アルペシン・フェニックス)の牙城を崩すには至らなかった。しかし一時は総合2位まで順位を上げると、その後はスプリント勝負でもマーク・カベンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)に次いで2位に入るなど、オールラウンドな強さを発揮すると、難関山岳ステージでも独走で山頂を超えていく走りを披露、山岳適正もあることを知らしめた。
昨日のスプリント勝負から24時間もたたないうちに、ファン・アールトはロード現世界チャンピオンのジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)と共に逃げに乗る。この日は序盤からアラフィリップが一人アタックのオンパレード、それに対応できたメンバーが顔を揃えたが、2度目のモンヴァントゥへの上りでは、アラフィリップ、ケニー・エリッソンデとバウク・モレンマのトレック・セガフレドコンビ、さらにはファン・アールトの4人に絞られていた。
その背後ではイネオス・グレナディアスが攻撃的な走りでライバルチームのアシストを徹底して削っていく。本来であればエースであるゲラント・トーマス、エース格のリッチー・ポートらを惜しげもなくつぎ込み、ポガチャルのアシストも削っていく。さらには元世界チャンピオンのミカル・クウィアトコウスキー、ヨナタン・カストロビエホとイネオス・グレナディアスは徹底して攻撃を仕掛けた。先頭の4人を追走するメンバーは気が付けば各チームのエースだけになるというサバイバルとなる。総合2位につけていたベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン)もここで力尽きる。
先頭ではエリッソンデがまずアタック、それをファン・アールトが単独で追走、するとモレンマはアラフィリップと駆け引きをしながら脱落させ、2人へと合流を果たす。しかしこの日のファン・アールトは勝利をしか見えていなかった。一気に加速してアタックを仕掛けると、そのままトレック・セガフレドコンビを置き去りに単独でモンヴァントゥを通過していった。
その背後ではヴィンゲガードが仕掛ける。上りでの加速に反応できたのはポガチャルだけ、さらにその背後にはリゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO)、そしてリチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)がかろうじて食い下がっている。ここまでの大会の走りから、ポガチャルがさらなるアタックを仕掛けるかに思われたが、ここで予想外の光景が目に飛び込んでくる。何とポガチャルが体を左右に振りながらヴィンゲガードからぐんぐんと遅れていったのだ。繰り上げで新人賞ジャージをポガチャルの代わりに来ているヴィンゲガードはそのままタイム差を広げると、モンヴァントゥの頂上では40秒ほどのタイム差をポガチャルにつけ、残り20㎞のダウンヒルへと突入していった。
ファン・アールトは残り2㎞手前で勝利を確信、ガッツポーズを見せ笑顔でゴールを目指す。そのまま独走でゴール、ベルギーチャンピオンがこれで3年連続でツール・ド・フランスステージ優勝を達成して見せた。これでツール通算早くも4勝目となった。トレック・セガフレドコンビはそのまま仲良くゴール、エリッソンデが2位、モレンマが3位で納得の表情でゴールを果たした。
「おかしなこと言ってるかもしれないけど、今日勝つことは確信があったんだよ。うまく言えないんだけど、なんとなくイメージできていたんだ。それにしてもツールの名物峠で勝てたことは感慨深いね。間違いなく僕の人生で最高の勝利になったよ。」ファン・アールトもロード実力者としての貫録が出てきた。
そして逃げ続けるヴィンゲガードだったが、追走は下りを得意とするカラパズがポガチャルに追いつくと、ここから怒涛の走りを見せる。結局ゴール直前でヴィンゲガードを捉えてゴール、タイム差を稼ぎ出すことを阻止して見せた。
これで総合は、ポガチャルは首位をキープ、そして2位にウラン、3位にヴィンゲガード、4位にカラパズとなった。
ツール・ド・フランス第11ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第11ステージ順位
1位 ワウト・ファン・アールト(ユンボ・ヴィズマ) 5h17’43”
2位 ケニー・エリッソンデ(トレック・セガフレド) +1’14”
3位 バウク・モレンマ(トレック・セガフレド)
4位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +1’38”
5位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO)
6位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)
7位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)
8位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナ・プレミアテック) +1’56”
9位 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグロエ)
10位 エンリック・マス(モビスター) +3’02”
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 43h44’38”
2位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO) +5’18”
3位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) +5’32”
4位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス) +5’33”
5位 ベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン) +5’58”
6位 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグロエ) +6’16”
7位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナ・プレミアテック) +6’30”
8位 エンリック・マス(モビスター) +7’11”
9位 ギヨーム・マルティン(コフィディス) +9’29”
10位 ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス) +10’28”
H.Moulinette