ツール・ド・フランス2021第9ステージ:悪天候に負けずオ・コナーが快心の独走勝利で総合2位へとジャンプアップ!ポガチャル無慈悲なアタックでライバルさらに撃沈(ダイジェスト動画あり)
勝負に手は抜かない、それが本当の強者の証でもある。総合リーダーのタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)は十分のタイム差をライバルに対してつけているにもかかわらず、このステージでもそのライバルたちをさらに追い詰めて撃沈、鮮やかで見事すぎるアタックを決め総合リーダーの座をさらに盤石なものにした。
そんなステージで新たなヒーローが生まれた。ベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン)が一時はバーチャルで総合リーダーに躍り出る快心の走りを披露、最後は独走へと持ち込みステージ優勝を挙げるとともに、一気に総合2位へとジャンプアップを果たした。グランツール初出場だった2018年のジロ・デ・イタリアの第19ステージまで総合12位だったが落車し骨折、リタイアとなった25歳のオーストラリア人クライマーがその才能を遺憾なく見せつけた。
悪天候に選手たちが大きく苦しめられたこのステージ、標高2000m越え、雨で濡れた体に気温は一桁、かじかむ手を懸命に振りながら選手たちはハンドルを握り続けた。僅か145㎞、しかし獲得標高4500mの過酷極まりないステージ、2級、1級、超級、2級、1級と続く山岳はスタートから選手たちを苦しめた。
しかし悪天候は、逃げを得意とする選手、そして逃げ切りを目論むチームにとっては格好のチャンス、総合系がリスクを取らない可能性があるため、無理をしてでも仕掛けたいため、荒れた展開となりがちだ。まず動いたのはジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)とマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネーション)、しかしスプリンターチームが中間スプリントポイント狙いでそれを阻むべく集団をコントロールした。そして中間スプリントを過ぎこの日2つ目の一級山岳へと差し掛かると、ついにクライマーとアタッカーたちが動き出した。
まず動いたのはナイロ・キンターナ(チームアルケア・サムシック)、それに山岳賞ジャージのワウト・ポエルス(バーレーン・ヴィクトリアス)などが加わり20名ほどまで膨らんでいく。しかし勾配が急になると、ウッズ、キンターナ、セルジオ・イギータ(EFエデュケーションNIPPO)、ルーカス・ハミルトン(チームバイクエクスチェンジ)、オ・コナーらが先頭に集結する。
さらにその背後ではメイン集団からマッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ)、ギヨーム・マルティン(コフィディス)、昨日の覇者ディラン・テウンス(バーレーン・ヴィクトリアス)らが飛び出し、追走を始める。超級山岳ではウッズ、ポエルス、イギータ、キンターナ、ハミルトン、オ・コナー、キンターナに絞られるが、キンターナがトップ通過、それにイギータが続く。ポガチャルとのタイム差はさらに開いていき8分を超え、バーチャルでオ・コナーが総合リーダーとなる。
ここからの山岳の下りは選手たちにとって最も過酷なものとなった。冷える体と濡れた路面は逃げ集団を完全に粉々にしていく。そしてこの日4つ目の2級山岳に入る時点で、先頭はイギータとキンターナのコロンビアンコンビ、そしてその背後にオ・コナーが続く展開となる。
ポガチャルはチームメイトたちにペースをコントロールさせ、とにかくリスクを避けた走りに徹する。それでもアシストの一人が下りでコースアウトするなど、紙一重の展開を続ける。そしてレースはさいごのティニュ山へと突入する。
21㎞の上りが続く最後の山岳で、オ・コナーがついに単独トップとなる。後続との差は9分、バーチャルでのマイヨ・ジョーヌをどこまで守れるかが注目となる。チーム監督車両からの叱咤激励をうけ、オ・コナーは快走を続ける。その背後ではポガチャルはチームメイトに守られ最後の山岳に突入、ライバルチームのエースとアシストも疲労困憊なこともあり、UAEチームエミレーツのペースアップで集団は一気に小さくなっていく。さらにそれによりオ・コナーとのタイム差も徐々に詰まっていく。総合リーダージャージ奪取は難しくなったため、ここでしっかりと戦略を変更しステージ狙いに切り替えると、あとはマイペースで登り続けステージ勝利を手にした。これで総合でも2分1秒差の総合2位へと大きくジャンプアップを果たした。ステージ2位には同じく逃げ続けていたカッタネオがオ・コナーから5分以上遅れてゴールした。
「総合順位は何となく感じていたけど、でもまずはステージを制することができたのがうれしいよ。出来る限り総合順位を守りたいよ。でも僕はもちろんポガチャルレベルではないからね。彼はまだ雲の上の存在だよ。」オ・コナーは謙虚だった。
その背後では残り4㎞でリチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス)がアタック、それに反応したポガチャルはこの日も満を持してアタックを決め、一発でライバルたちを置き去りにした。残りのメンバーは、総合優勝争いではなく、総合表彰台を狙うバトルへと切り替わる。無理をしてポガチャルを負うより、目の前の表彰台の可能性に切り替えたことで、必然的にバトルは激しくなった。
ポガチャル以下の総合トップ10はタイムが僅差にひしめいているため、この日の結果でまたしても総合順位はシャッフルされることとなった。総合表彰台をめぐるバトルこそが、今大会を盛り上げていくカギとなりそうだ。
ツール・ド・フランス第9ステージダイジェスト
ツール・ド・フランス第9ステージ順位
1位 ベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン) 4h26’43”
2位 マッティア・カッタネオ(ドゥクーニンク・クイックステップ) +5’07”
3位 ソニー・コルブレッリ(バーレーン・ヴィクトリアス) +5’34”
4位 ギヨーム・マルティン(コフィディス) +5’36”
5位 フランク・ボナマール(B&Bホテルズp/b KTM) +6’02”
6位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)
7位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス) +6’34”
8位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ)
9位 エンリック・マス(モビスター)
10位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO)
ツール・ド・フランス総合順位
1位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) 34h11’10”
2位 ベン・オ・コナー(AG2Rシトロエン) +2’01”
3位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションNIPPO) +5’18”
4位 ヨナス・ヴィンゲガード(ユンボ・ヴィズマ) +5’32”
5位 リチャード・カラパズ(イネオス・グレナディアス) +5’33”
6位 エンリック・マス(モビスター) +5’47”
7位 ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグロエ) +5’58”
8位 アレクセイ・ルチェンコ(アスタナ・プレミアテック) +6’12”
9位 ギヨーム・マルティン(コフィディス) +7’02”
10位 ダビ・ガウドゥ(グルーパマFDJ) +7’22”
H.Moulinette