ジロ・デ・イタリア第20ステージ:最終日前日に総合1位と2位が前代未聞の同タイム!頂上ゴールでゲイガン・ハートが2勝目!ステージ2位のヒンドリーがマリア・ローザ獲得!デニス鬼引き伝説
あまりにも多くのことが起きたジロ・デ・イタリア2020年も、最後の山岳ステージを迎え想像だにしなかった事態となっている。最終日前日に総合1位と2位が同タイムという史上初、前代未聞の状況、そしてその二人がそもそも優勝候補にすら名前が挙がっていなかった、チームのエースではないということだ。ジェイ・ヒンドリー(チームサンウェブ)、そしてタオ・ゲイガン・ハート(イネオス・グレナディアス)の二人の若手が、驚異の成長を今大会で見せている。
ステージ優勝はこの二人での一騎打ちとなった。総合リーダージャージを着用するのはウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ)だったが、そのアシストのヒンドリーのほうが山岳での登坂能力は抜群、この日も昨日同様に ゲイガン・ハートへの対応をしエースを置き去りにしなければならない状況となる。そのまま頂上ゴールでの直接対決は先日に続いて2度目となったが、今回はゲイガン・ハートに軍配が上がり、ゲイガン・ハートは自信2勝目、そしてチームとしてはこれで6勝目、とてもゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアス)という総合エースを失ったとは思えない快進撃を見せている。
この日はスタートから25㎞で16名の逃げが編成され、さらにそこに7人が合流し23人となる。この日は難所のセストリエール峠を3度も上るハードなコース設定は間違いなく逃げ切りは困難、それでもわずかな可能性に賭ける猛者どもの挑戦が始まる。そしてセストリエール峠を前にその差は7分台にまで広がる。
最初のセストリエール峠に入ると逃げはバラバラになりながら進むがメイン集団の総合勢はばらけることなく進んでいく。しかし2度目の上りに入るとイネオス・グレナディアスが強烈な攻撃を仕掛ける。連日同様にフィリッポ・ガンナとローハン・デニスの新旧TT世界チャンピオン2枚看板が強烈なペースアップを開始する。するとゴールまで残り30㎞でヴィンチェンツォ・ニーバリ(トレック・セガフレド)、ヤコブ・フグルサング(アスタナ)、ジョアオ・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)らが続々と脱落していく。
そしてここから伝説にもなりそうなデニスの鬼引きが始まる。デニスがペースを上げると、踏ん張っていたマリア・ローザのケルデルマンがついに脱落、ついていけるのはゲイガン・ハートとヒンドリーの二人だけとなる。ケルデルマンはそのまま後方のアルメイダ、ペッロ・ビルバオ、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(NTTプロサイクリング)らと共に追走集団を形成する。
残り27㎞、逃げの残党が先行して2度目のセストリエール峠を超えていくが、デニスの強烈な牽引でペースアップしているヒンドリーとゲイガン・ハートは、その残党を次々と飲み込んでいく。次元の違う3人のペースは40秒ほどのタイム差をケルデルマンらにつける。追走の総合系集団はニーバリも合流し一つとなり、懸命な追走を続ける。
先頭に残る3名の逃げを、デニスが猛追し迫っていく。ゴールラインでのボーナスタイムが総合順位に影響を与えるだけに、先行する選手たちをすべて捉えてしまいたいという動きは、追走の手をさらに強めさせる。それによりケルデルマンらとの差は1分を超えていってしまう。
残り9.3㎞、ついに最後まで逃げていた3名がデニスらに追いつかれてしまう。そしてジロらしいのだが、こんな山岳に設置された中間スプリントがここで白熱する。ボーナスポイントを狙いヒンドリーが飛び出しトップ通過、3秒のボーナスタイムを獲得する。しかしゲイガン・ハートもきっちりと2位通過で、2秒を獲得した。ケルデルマンらはこの時点で1分45秒差、アルメイダのサポートにこの日逃げていたクイックステップの選手たちが回り、何とか追走のペースが落ちないように懸命の引きを見せる。
そしてこの日最後のセストリエール峠、デニス、ゲイガン・ハート、ヒンドリーの3人に、逃げていたピーター・セリー(ドゥクーニンク・クイックステップ)を加えた4名が先頭を行く。追走はジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ)がアルメイダをアシストしペースアップ、タイム差が1分15秒まで縮まってくる。しかしこのペースアップでニーバリが遅れていく。
残り4.5㎞、ノックスの追走牽引が終了するとアルメイダが果敢にアタックを見せる。総合表彰台というモチベーションがあるアルメイダは、ケルデルマンらを置き去りにここから単独で追走を仕掛けると、先頭からセリーが降りてきて合流、普段は山岳でのアシストを得意としないドゥクーニンク・クイックステップが見事な連係プレイを見せる。
先頭ではヒンドリーが揺さぶりをかける。残り3㎞でアタックをすると、断続的に攻めの姿勢を見せる。一度はそれによりデニスが遅れるが、ペースが落ち着くと再び合流して先頭は3名となる。その背後ではアルメイダが45秒差にまで迫り、ケルデルマンらも1分10秒ほどで推移する。
そして残り2.5㎞、ギアをあげたヒンドリーがもう一度アタックを仕掛ける。ゲイガン・ハートはこれにピッタリとついていくが、この加速でアルメイダとの差は再び1分にまで広がり、ケルデルマンらとも1分半弱まで広がっていく。
そして残り1.6㎞、イネオス・グレナディアスがここでさらなるチームワークを見せる。一度は遅れたデニスが猛追でヒンドリーとゲイガン・ハートに追いつくと、そのままペースを上げて二人を追い越していく。これにはヒンドリーは対応せざるを得ず、追走に脚を使わされてしまう。そしてそのままデニスを再び振り切ると、ゲイガン・ハートとヒンドリーの一騎打ちが始まる。
お互いの間合いを図りながら動かぬ二人は、そのまま150mまで堪えたが、一瞬の加速でゲイガン・ハートが先行、反応が1テンポ遅れたヒンドリーは何とかタイム差をつけられないように同タイムゴールへと持ち込み、ステージ勝利こそ譲ったが総合リーダーの証マリア・ローザをチームメイトから引き継いだ。これで二人は最終日を前に同タイムという珍事、決着は最後のTTに委ねられることとなった。
「言葉がないよ!子供のころから夢見てきた総合リーダージャージに僕が袖を通しているんだよ!これ以上ない光栄だよ!まあチームのエースからそれを引き継ぐという形は理想ではなかったけど、チームでキープできたことは良しとしないとね」ヒンドリーの表情には喜びが溢れていた。
「デニスの走りが全てだよ。彼はロボットだよ!彼は今シーズンチームへは途中合流だったけど、チームの仕事をきちんと最後まで完遂してくれたし、完璧だったよ。男として惚れてしまうよ。2度のTT世界チャンピオンが僕のような若造のために献身的にアシストしてくれるなんて光栄なことだよ。」ゲイガン・ハートはデニスの走りを真っ先に口にした。
ジロ・デ・イタリア第20ステージダイジェスト
ジロ・デ・イタリア第20ステージ順位
1位 タオ・ゲイガン・ハート(イネオス・グレナディアス) 4h52’45”
2位 ジェイ・ヒンドリー(チームサンウェブ)
3位 ローハン・デニス(イネオス・グレナディアス) +25”
4位 ジョアオ・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ) +1’01”
5位 アンドレア・ヴェンドラメ(AG2Rモンディアル) +1’34”
6位 アイナー・オーガスト・ルビオ(モビスター) +1’35”
7位 ペッロ・ビルバオ(バーレーン・マクラーレン)
8位 ウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ)
9位 アティラ・ヴァルター(CCCチーム) +1’48”
10位 ジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ) +2’00”
ジロ・デ・イタリア総合順位
1位 ジェイ・ヒンドリー(チームサンウェブ) 85 h22 07”
2位 タオ・ゲイガン・ハート(イネオス・グレナディアス)
3位 ウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ) +1’32”
4位 ペッロ・ビルバオ(バーレーン・マクラーレン) +2’51”
5位 ジョアオ・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ) +3’14”
6位 ヤコブ・フグルサング(アスタナ) +6’32”
7位 ヴィンチェンツオ・ニーバリ(トレック・セガフレド) +7’46”
8位 パトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグロエ) +8’05”
9位 ファウスト・マスナダ(ドゥクーニンク・クイックステップ) +9’24”
10位 ヘルマン・ペルシュタイナー(バーレーン・マクラーレン) +10’08”
H.Moulinette