ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージ:逃げ集団勝負を制したのはジルベールで今大会2勝目!モビスター逆襲でキンターナが逃げに乗り一気に総合2位!平均時速50.6kmの超高速ステージ!

レースというのは生き物だ。そしてたった1ステージのライバルの戦略で、時には対抗馬は大きなダメージをこうむることが在るのだ。総合リーダーのプリモズ・ログリッチ擁するジャンボ・ヴィズマに取っては、アシスト勢を最終局面に向け休ませたいところだったが、モビスターの戦略により、その思惑を大きく狂わされることとなった。200km以上のステージとしては史上最速となる平均時速50.6kmという超ハイスピードステージ、そんなドラマチックなステージを制したのは逃げに乗ったフィリップ・ジルベール(ドゥクーニンク・クイックステップ)、今大会ステージ2勝目となるとともに、同じく逃げに乗ったチームメイトのジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ)が総合で一気にトップ10入りしその才能を開花させるなど、ドゥクーニンク・クイックステップにとって最高の一日となった。

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219kmのレースはスタート直後、僅か3kmで30名の大所帯の逃げが発生する。なんとその中に総合6位のナイロ・キンターナ(モビスター)を含む4名のモビスター勢が入る。さらにはドゥクーニンク・クイックステップもジルベールとノックスを含む7名とほぼチームの全てが、さらには逃げ職人のトーマス・デ・ヘント(ロット・ソウダル)、総合8位のウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ)、総合10位のヘルマン・ペルシュタイナー(バーレーン・メリダ)という豪華な顔ぶれとなる。思惑が一致したチームが多く選手を送り込んだことで、逃げ集団はぐんぐんと加速、後続の集団とのタイム差を広げていく。特にチーム力抜群で集団コントロールに長けたドゥクーニンク・クイックステップが7名、さらにはチームサンウェブが5名、モビスターが4名と揃ったことが、この集団の加速をさらに後押しした。対してジャンボ・ヴィズマは僅か1名しか送り込むことが出来ず、完全に後手に回ることとなった。
豪華メンバーの逃げは200km以上のロングステージとは思えない高速でレースを展開する。ジャンボ・ヴィズマ擁するメイン集団もこれに必死に追走をするが、徐々にその差は開いていってしまう。タイム差を与えたくないのだが、この日の逃げがあまりも強力、さらには協調しているために苦戦を強いられる。

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レースが残り100km強となると、集団とメイン集団との差は5分を越え、バーチャルでキンターナが総合2位までジャンプアップする。UAEチームエミレーツは危機感を感じ、逃げに乗っていたメンバーをタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の為に呼び戻す。さらには幾人かが脱落するが、ドゥクーニンク・クイックステップやモビスター、サンウェブが相変わらずのハイペースを維持していく。この時点ではまだ平均時速は47.6km、これでも十分に早いのだが、ここから逃げ集団はさらなる加速を見せる。
そのまま5分ほどのタイム差は縮まることなく推移し、残り40kmを切り追走のメイン集団が大きく分裂、縮小してしまう。総合リーダーのログリッチに加え、ミゲル・アンヘル・ロペス(アスタナ)、ラファル・マイカ(ボーラ・ハンスグロエ)、ポガチャル、さらにはモビスターはエースのアレハンドロ・バルベルデを含む残りのメンバー全員がこの集団に加わる。それに対してログリッチ。ポガチャルはチームメイトのいない状況となり、状況はかなり不利なものとなる。せめてもの救いはアスタナがロペスの為に3名を残していたことだけだった。
なんとレース最後の1時間の平均時速は54.7km、逃げ集団の強烈なペースに追走のログリッチ集団は一時は少し縮めたタイム差を再び5分台にまで戻されてしまう。モビスターは逃げ集団では強烈な牽引を、さらに追走集団では集団のペースをあげさせないアンカーとなる完璧なチームワークを見せる。

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逃げ集団はステージ勝利の思惑でさらに加速し、レース残り30分だけの平均時速を見ると、なんと逃げの集団のペースは驚きの平均時速63.2km、追走も61.9kmを記録しているがその差は歴然、じわじわと広がっていくタイム差に、ログリッチは成す術がなかった。
サム・ベネット(ボラ・ハンスグロエ)が本命視されたゴール勝負だったが、数名を失いながらも多くの選手を残し切ったドゥクーニンク・クイックステップが容赦ない戦略でゼネク・スティバー(ドゥクーニンク・クイックステップ)が残り2kmでアタックすると、ベネットがそれを追走せざるを得ないが、その背後にジルベールがピタリとマークする。残り500mでベネットがロングスパートを仕掛けるが、上り勾配は完全にジルベール向き、一気に先頭に躍り出るとそのままステージ勝利、今大会2勝目、ブエルタ通算7勝目を挙げた。「歴史的なステージになったね。僕もこんなステージは初めてだよ。僕らは220kmのチームTTをやったんだよ(笑)」ジルベールは笑いながら語った。

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ログリッチら追走は大きなタイム差を稼ぎ出され、キンターナが総合2位へと大きくジャンプアップ、これでバルベルデの総合3位と合わせてダブルエースが復活となった。特にバルベルデはこの日はログリッチの様子伺いで脚を使わないステージとなり、モビスターにとっては戦略がドはまりした形となった。さらにドゥクーニンク・クイックステップのイギリス人選手、ノックスが総合で8位までジャンプアップ、第16.17ステージで逃げに乗り大きくタイムを稼ぎ出した形だ。
ログリッチのジャンボ・ヴィズマはアシスト勢の体力を温存したいステージであったにもかかわらず、大きくその体力をそがれるステージになったとともに、ログリッチもその体力を大きく削られるステージとなり、最終山岳決戦へ向け思わぬ形でライバルの攻撃の煽りをもろに食らう形となった。「序盤でミスはしたね。あのポジョションにいるべきではなかったよ。先頭集団にいるべきだったんだ。今日の勝負には負けたけど、まだ大会に負けたわけじゃないからね。」ログリッチはまだだ余裕の表情だ。
ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージ
1位 フィリップ・ジルベール(ドゥクーニンク・クイックステップ) 4h20’15”
2位 サム・ベネット(ボーラ・ハンスグロエ) +02”
3位 レミ・カバーニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
4位 ディラン・テウンス(バーレーン・メリダ)
5位 ウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ)
6位 ヨナス・コッホ(CCC)
7位 ローソン・クラドック(EFエデュケーション・ファースト)
8位 ティム・デクレルク(ドゥクーニンク・クイックステップ)
9位 シルヴァン・ディリエ(AG2R)
10位 ジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ) +06”
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合順位
1位 プリモズ・ログリッチ(ジャンボ・ヴィズマ) 66h43’36”
2位 ナイロ・キンターナ(モビスター) +2’24”
3位 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) +2’48”
4位 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ) +3’42”
5位 ミゲル・アンヘル・ロペス(アスタナ) +3’59”
6位 ウィルコ・ケルデルマン(チームサンウェブ) +5’05”
7位 ラファル・マイカ(ボーラ・ハンスグロエ) +7’40”
8位 ジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ) +8’03”
9位 カール・フレドリック・ヘーゲン(ロット・ソウダル) +10’43”
10位 ディラン・テウンス(バーレーン・メリダ) +12’21”
H.Moulinette