TUE(治療目的例外措置)を考える:フルーム、キンターナ、ウィギンスらグランツールウィナーがTUEを申請してきた現実、医師への信頼、機材ドーピングとともにTUEにも注目が

ハッカー集団”ファンシーベアー”のハッキングにより、一気に表面化したTUE(治療目的例外措置)という存在、今までも自転車界では何度となく取り上げられてきた問題だ。しかしここへ来てブラッドリー・ウィギンスとクリス・フルームのデータが流出、公表されたことで、そもそもTUE申請を発行した医師が信頼に値するのかという議論にまで発展している。TUEは果たしてグレーゾーンなのか、今自転車界は大きく揺れている。

『流出した書類だが、公表はされるべきだろう ©WADA』
自転車会を大きく包んだドーピングの闇では、いくつものケースで医師が主導してそれが行われていた。アタリマエのことだが、医学的知識や薬を扱う知識がなければ、ドーピングは困難であり、ドーピングと医師は表裏一体の存在だった。幾人もの医師がドーピング疑惑とともに表舞台に登場し、その多くが闇を抱えたまま表舞台から消えていったが、関与した大多数の医師は、ひっそりと影を潜めたままというのが現実だ。多くの場合は実際にドーピングを行った選手のみがペナルティーを受け、根拠乏しいとされた医師はお咎めなしとなってきたのだ。
そして今回話題に上がったTUE、これもまた医師の判断なしにはありえないものなのだ。これは、選手が治療目的での薬の使用をWADA(世界アンチ・ドーピング機構)に認めてもらうためは医師の診断書などが必要なのだ。

『ウィギンスは弁明に追われている ©Tim D.WaeleA』
今回論議の的となったのが、ツール・ド・フランスを制したチームスカイのエース二人、ウィギンス(当時所属)とフルームの二人がそれぞれグランツール前にTUEを申請し、それが認められた上で勝利していたことだ。これに関してチームスカイと、医師双方が安易にTUEを使用、利用したのではないかという疑惑が持たれたのだ。ウィギンスはすでに、医師には何の関係もないとその関連性を否定しているが、今回その申請がなされたタイミングがグランツール前であったことや、吸引治療薬のみならず、注射による治療を受けていたことが注目されている。
今現在多いTUE申請は、喘息と花粉症によるものが大半を占めている。どちらの場合の治療薬も、常人が使用すれば血管が広がり最大酸素摂取量が増える効果があることから、ドーピング薬指定を受けている。

『2強の二人もTUEを何度も申請している ©Tim D.WaeleA』
海外の選手に多く見られる喘息、たしかに自転車選手での喘息比率は高い。そして実は、今フルームと並び2強と呼ばれているナイロ・キンターナ(モビスター)も喘息の持病を持っており、過去にはジロ・デ・イタリアのレース中に悪化したこともある。ここ数年のグランツール覇者二人、しかも2強と呼ばれる二人が揃ってTUEを利用しているということは、やはり多くの人にとってもやもやするのではないだろうか。また今年はブエルタで頭角を現したサイモン・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)が、TUEをチーム側が申請し忘れたことで短期間出場停止となったが、それがなければTUEを申請していることは知られなかっただろう。やはりここは、誰がTUEを利用しており、何の治療薬をどの程度使っているのかは公開して欲しいところだ。
しかしそこには大きなジレンマもある。WADAとしては、公開すれば選手が「TUEで使用している治療薬のおかげで勝てたのではないか」と叩かれる恐れもあり、選手を守る立場からは公表しにくいという側面がある。しかし結果的に後からこのように発覚したりすれば、それはそれで疑いの眼差しを受けることになるのだ。どちらがいいかというのは一概には言えない部分が多いが、昨今謳われている「オープンでクリーンな」と意識するのであれば、やはりTUE申請は公表されるのがベストな選択だと思われる。
ようやくドーピング問題が縮小しつつある昨今、機材ドーピングのみならず、このTUEのあり方にもメスを入れる時期なのかもしれない。
グレーゾーンはいらない。
H.Moulinette