ブエルタ・ア・エスパーニャ総括:今年一番面白かったグランツール、見えてきた世代交代の波、しかしそれでも光を放つ大ベテランの存在、そしてクイックステップがグランツールでも存在感
今年のグランツールがこれですべて終了した。最後のグランツールとなったブエルタ・ア・エスパーニャは間違いなく今シーズン一番面白い大会となった。ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスでは絶対的な優勝候補がいる中での大会だったのに対し、絶対的な優勝候補がおらず、ダークホースがわんさかといる大会となった。他のグランツールで結果を残して来ているヴィンチェンツォ・ニーバリ(バーレーン・メリダ)やファビオ・アルー(UAEチームエミレーツ)などの前評判も低かったことで、優勝候補予想は混沌としていた。
そしてふたを開けてみれば、ニーバリやアルーら経験豊富な有力選手たちは軒並み大会前半で脱落、総合上位争いに加わったのは中堅やグランツールでの活躍が予想できない若手に加え、大ベテランの38歳、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)がその存在感を際立たせた。最後の山岳で表彰台こそ逃したが、難関山岳ステージでの勝利に加え、スプリントステージでも存在感を見せるなど、まさにオールラウンダーとして大活躍だった。最終的には総合5位、そしてポイント賞争いでも世界チャンピオンのピーター・サガン(ボーラ・ハンスグロエ)を抑えて堂々のジャージ獲得、最強のオールラウンダーの証でもある年間総合順位1位を目指す男が衰えぬ闘争力と対応力を見せつけた。
そして最大の大番狂わせとさえいえたのが、23歳のエンリック・マス(クイックステップ・フロアーズ)の台頭だろう。クイックステップ・フロアーズはいつも通りステージ優勝を狙う布陣で参加、狙い通りエーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(クイックステップ・フロアーズ)がステージ3勝を獲得した。毎年確かに数名アシストではなくパンチャーやクライマーなど、スプリントステージ以外でもステージ優勝を狙える選手を送り込むが、マスは昨年同様に山岳ステージ要員として参加していた。初参加の昨年度はステージ敢闘賞を受賞するなどその素質を見せつけたが総合では71位、それが今年は後半の山岳ステージで走る度に順位を上げ最後は絶叫のステージ優勝獲得とともに、総合2位と言う結果を残した。次世代のコンタドールとの呼び声高いマスは、このまま来年度はグランツール総合を狙うチームのエースとなりそうだ。
また総合3位に入ったミ24歳のゲル・アンヘル・ロペス(アスタナ)の活躍も目を見張るものがあった。コロンビア旋風が吹き荒れ数年、ここしばらくは大人しくなってきていた旋風がまた吹き荒れることとなった。昨年度アルーが去りチームは主軸を失ったかに思えたが、ロペスがアスタナのエースに成長、チームを去ったアルーが散々な結果なのに対し、文句の言いようがない走りで総合表彰台をチームにもたらした。これで今シーズンはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位、2つのグランツールでの表彰台は見事としか言いようがない。
そして総合優勝を果たしたのが26歳のサイモン・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)だ。双子のアダムと別々のレースでエースとなることが多かったが、今大会ではアダムがアシストに徹する形で兄弟をサポート、そしてジロ・デ・イタリアでの総合首位からの大失速を教訓に、今大会では着実に走り切って見せた。そして最後も「攻撃は最大の防御」と自ら口にしてアタックを仕掛けるなど、貫禄の走りを見せた。これで今年のグランツールはすべて異なるイギリス人選手が勝利するという快挙に花を添える王者の走りだった。
彼ら3人の若手に続いたのは、スティーブン・クライズワイク(ロットNLジャンボ)、ティボー・ピノー(グルーパマFDJ)、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションファースト・ドラパック)、ナイロ・キンターナ(モビスター)、バルベルデらだった。中堅どころグランツール系選手たちは、今大会こそが大チャンスであったが、勢いに乗った3人の若手の波に完全に飲まれ、毎ステージ安定した結果を残す3人に対し、むらっけのある走りでいい日と悪い日がはっきりとしたことが敗因となった。
来シーズンのグランツール、チームスカイはもちろん万全の布陣で挑んでくるだろう。その時にどう対処できるかで、今回の活躍がフロックではなかったことを証明できるだろう。早くも来年のグランツールが楽しみになってきた。
H.Moulinette