トレック・セガフレドが2018年シーズンはディスクロードをパリ~ルーベとグランツールで投入へ、そこに見え隠れする業界の本音とレースからのキャリパー排除の予感
機材開発の最先端で、ここ何年も話題になってきたロードディスクブレーキ、今シーズンもテスト期間としてUCIが設定しているが、業界からの強い後押しもあり2019年度からの正式解禁を目指しているUCIの期待に応えるように、自前のチームで挑んでいるトレックが本腰を入れてきた。懸念されてきた危険性、重量増とホイール交換の面倒なスルーアクセルの問題を解決すべく開発を重ね、今シーズンは石畳レースのパリ~ルーベとすべてのグランツールでのディスクブレーキ搭載バイクの導入を正式に発表した。
UCIでは今シーズンのフィードバックをもとに、2019年度に向け安全基準と規格整備、さらにはニュートラルサポートの対応方法などを検討する予定となっている。今でも多くの選手たちが懸念を示し、その必要性を問うという状況が続いている。過去にも規格の変更などは長い歴史の中で何度となく行われてきたが、今回ほど選手たちがその不要性を口にするのは珍しいが、それでもディスクブレーキ解禁は推し進められている。
トレックでは早くからディスクロードの開発を続けてきており、重量面の問題はフレームや傘下ブランドのボントレガーのパーツ類の設計見直しなどで軽量化することで、キャリパー並みの完成車にまで落とすことに成功した。
「懸念材料は重量面とホイール交換だったが、ディスクローターのエッジが丸みを帯びさせたことで安全面はクリア、そして設計見直しで重量もクリア、今はホイール交換をいかに俊敏に行えるかだけだ。正直一年前までは、一企業として選手たちにディスクロードバイクを提供するのは時期尚早だと思っていたよ。でもシマノの開発と我々の開発が進みここまでたどり着いたよ。」
「僕らは押し付けようとはしていないよ。選手たちに十分にテストさせ、そのメリットを体感してもらえたと思っているよ。だから今こそ技術革新を推し進めるときだと思っているよ。僕らがプロチームを持つ理由は、彼らが仕事上の機材で何が必要かを一番理解していると思うからだよ。」
チームとしてはディスクブレーキを用意はしたが、これは選手に使用を強制するものではないとしている。選手たちはあくまでも選択の自由が与えられており、ドマーネディスク以外のキャリパー使用のドマーネとマドンを選択することが可能だが、特定のレースに限り、アシストの役割としてエースにバイクを提供する可能性を踏まえて全員が同じセットアップのバイクに乗ることがあるとしている。例えばパリ~ルーベのようなレースでは機材トラブルが間違いなく多いレースであり、そのようなレースでは機材の種類が増えることはメリットにならないために皆が同じバイクに乗るとしている。
ただ「フロントホイールの交換はキャリパー並みの早さで可能だが、リアはまだそこまで迅速に対応できない」ともしており、選手たちにとってはリスク覚悟で乗ることとなりそうだ。
トレックの立ち位置はやはり製造メーカーであることからも業界寄りで、いち早いディスク解禁を望んでいる。「UCIがさっさと解禁して欲しいんだよね。カーボンフレームはモールドを一から作り直さないといけないのいと、それが高額だから、UCIが公認しないものに先行投資しづらいんだよ。UCIが公認すれば、多くのメーカーがロードディスクをバンバン作り始めると思うよ。」
「懸念する事としては、ディスクとキャリパーが双方ともペロトンの中で共存してしまうことなんだ。どちらも特性が違うわけだから、共存すれば危険なのは当然だよ。だったらルールですべてをディスクブレーキに統一してしまえばいいんだよ。それに両方が混在してしまうと、いま議論されているUCI規定の6.8㎏ウェイトリミットが撤廃されれば、間違いなくキャリパーでの軽量バイクを作るメーカーが出るだろ。そうなるとうちはやっとの思いでディスクバイクで6.8㎏までこぎつけたのにうまみがないんだよね。だからブレーキを一つのタイプに統一するというルール改変が必要だと思う。」
こんかいのトレックの決断の裏には、やはり製造メーカーとしての立ち位置が強く反映されている。スポンサースポーツである以上仕方のないことではあるが、業界優先で、選手の声が反映されにくいこの業態にも改革が必要かもしれない。ディスクブレーキが果たしてプロペロトンの間で必要かどうか、結局は選手の声を押さえつける形で業界主導でUCIが公認をしていく形になりそうな雰囲気には違和感を感じる。それでも今シーズントレックが実際に年間を通してどのような成果を上げていくのか、関心は尽きない。
H.Moulinette