サイクリング座談会Vol.2:カーボンの未来は?輪界の不況は?ロード用ディスクブレーキは?有名店主、バイクメーカー担当者、元ワールドツアー選手、現役ホビーサイクリストらによる座談会

~ロードディスクやコンポに関して
CT(サイクリングタイム):ロードのディスクブレーキ問題がレースシーンを賑わせていますけど、どう思います?
B(国内メーカー担当者):結局のところ輪界全体に蔓延しているんですが、商品の魅力に説得力がないんですよね。エンドユーザーに自転車の面白さが発信できていないし。それがいまの違和感を感じさせている理由かなと。それに加えて一部のコアなユーザー層が「プロが使いたがらない」のをディスるのも理解できないんですよね。そういう人間って性能の話ばかりなんですよ。それでプロでもないのに乗ってわかったフリしてメーカーの言い分に加担するんですよね。
CT:それを製造メーカーさんが言ってしまっていいんですか?(笑)
B:本来ぼくらがそれを言わないといけないんですよ。とにかく業界が自分たちの価値観を押し付けすぎていますからね。もうそういう時代ではないし、そもそも自転車に対する温度差がある中でそれをやるからエントリーユーザーが入り込めないようなマニアくささばかりになっているんですよ。メーカーの言うことが正義でそれを盲信する人が多いんですよ。選手たちは実際にはどうなんですか?
R(元ワールドツアー選手):僕は開発にも関わってはいますけど、正直プロロードレースの現場ではいらないと感じていますし、選手たちの多くがそう考えています。そもそも制動力が売りのディスクブレーキで、ロード用にコントロールしやすいように制動力を落とす、って時点で本末転倒ですしね。雨の日はいいかもしれないですけど、雨の中ばかりでレースするわけじゃないですし、正直キャリパーで十分ですよ。でもまあ時代の流れとしてシクロであったりMTB]選手がディスクを使っていますからね。これから変わる可能性というのはあると思いますよ。

『今の輪界の問題を考えるべき時だ @CTJP』
S(ショップオーナー):なんかさ、自由なことを言えない雰囲気なってきているのが気持ち悪いんだよね。新製品が優れているということばかり掲げて、今使われているものが悪いんだという風潮をすぐ作り出そうとするんだよね。メーカーの評価の押し売りになってて、それに疑問を持つと素人扱いされるっていうのはどうなんだろうね。
H(ホビーレーサー):ブランド信仰が強すぎるんじゃないですかね。で、それに疑問を持つと「悪」のような扱い受けるから、誰も何も言えなくなっちゃう。そんなだから世界チャンピオンのサガンがディスクブレーキ試験的に使いながらも「レースでは今のところ必要ない」って言ったら、今までロードディスク、って言ってた人たちが一斉に黙る、そういうのが気持ち悪いんですよね。
B:開発というのは単なるイノベーションでしかなくて、今まで使っていたものに対する反逆ではないんだけど、それを業界が受け止められていない。だからメーカーもディスクのいいところは語るくせに、長年使われ続けているキャリパーのいいところを語らないんですよね。普及させたいのであればもっとちゃんとしたストーリーを用意し、説得力を持たせればいいだけなんですけどね。実際に使って本質的な性能を理解できるのなんてほんの一握りですからね。
S:ユーザーはもっとわからないことはわからないといっていいんだよ。でもそれが言いにくい風潮と、わからないというと「初心者」とバカにする風潮がよくない。
H:コンポもそうでしょ、プロなら大きな違いがあるけど、一般ユーザーは実際使う分には性能差なんてそんなに影響はしない。ただメーカーがプロ用とか、エントリーユーザー向けとかいう言い方をするからマーケットが高いもの使ってないと素人なんだというレッテル貼りをするんですよ。それに例えばケーブル内装なんかもそうだけど、見た目には格好いいけど、結局エンドユーザー的には扱いづらいから、結局ショップにいちいちもっていかないといけなかったりするのはユーザーフレンドリーではないなと思うんですよ。
CT:で結局ロードでディスクっていります?一般マーケットとしては日常で使う分には雨降りの日もあるわけだし選択肢として十二分にあるかと思うので。
<font color=”#FFFF00″><b>H</b></font>:言われているようなスピードコントローラーとしてであれば必要ないかなと思います。MTBのように明確に止まることを目的としているのであれば必要でしょ。
S:スピードコントローラーというよりは、街中で乗ることが前提の一般人には必要かなと。ただしそれはロードディスクに限ったことではなく、MTBやクロスバイクでも、ストップ&ゴーが基本の街乗りであれば事故を回避する可能性を考えてあったほうがいいだろ。まあ現状ではエンドユーザーが迷える子羊状態で、既存のフレームにディスクブレーキがつけられるわけではなく、多くの場合でフレームからの買い直しになるわけだから、メーカーはいったい誰のほうを向いて商売してるのかわからんね。まあ僕ら的には客が買いなおしてくれるならありがたいことだけど、でもユーザーが悩んでるのを見ると申し訳なく思うこともあるよ。
B:選択肢としてはありでしょう。でもそれをプロが使うかは別問題でしょ。それを一緒くたにするかなおかしなことになってるだけですよ。
S:まあ後はユーザーがディスクとキャリパーの違いをまだ分かってないってことでしょ。結局ショップやメーカーの言葉の受け売りばかりで。本当に普及させたいのであれば、もっと使用方法の教室や、普段からのメンテでも扱いやすくなきゃいけないと思う。結局普段使いの自転車ってそのほとんどが皆整備しないで乗り続けるでしょ。でもワイヤー式のキャリパーなんかと違って、油圧のディスクとかだと整備していないと逆にリスクが増すケースも増えてくると思う。久々に乗ったらブレーキ聞かなかったとか起きえるでしょ。それに油圧式になるとメンテ代も余計にかかるから、嫌ってメンテしないユーザーもいると思うんだよね。場合によってはオイル代とメンテ代払ったら買い換えられちゃう場合があるからね。手間賃を渋るユーザーが多いのも事実だし。
B:でもそこには販売店の怠慢もあると思いますよ。まずはエンドユーザーへの説明不足がありますよ。輪界にとっては5万は安物だけど、一般ユーザーにとっては高級なわけで、きちんとした価値観を説明してあげないといけないと思う。プリンターもそうだけど、本体安いのを買うと、インク代がべらぼうに高くて、結局本体買い換えたほうがいいじゃんってなるのと同じだと思うんですよ。質感のいいものと暮らすっていう本当の意味での「真価を愛でる」文化を販売店が説明できないとだめだと思うんですよ。あ、あと電動コンポに関しても言いたいことがあります。
H:また厳しいこと言いそうですね(笑)
B:結局便利さの追求が行き過ぎて、人の手で操るという楽しさをスポイルしていると思うんですよ。車と同じで、ランボルギーニやフェラーリ乗る人間がAT車は選ばないでやっぱり自分で操れるMT車を選ぶ人が圧倒的多数でしょ。AT車選ぶのなんて運転下手くそなんだけど憧れのスポーツカーに乗りたいだけの金持ちの道楽でしかない場合が多いわけで、その同じ構図が透けて見えるんですよ。
S:でもそれって単にメーカーの思惑に乗っかる人が多いからでしょ。電動がいいって言ってる人って「変速が楽」とか言ってる人が多いんだけど、楽を望むなら自転車乗んないで原付乗ってれば?って思う時もあるよ。(笑)利便性ばかり追求したいから電動バイクとかになるんだろうし、それってもう自転車じゃないんだよね。正直普通の自転車屋に電動持ち込まれても困惑する所多いよ。うちは対応できるけど道具もノウハウも別物だからね。思わず電気屋行ってくれって言いたくなるもん。まあでも便利さを追求したいのが人間なんだろうね。でもそれなら分野分けて欲しいね。
R:レース現場では便利だという声がある反面、メカニックの仕事が変わったんですよね。もう仕事内容的にはIT系メカニックですからね。今では当初より減りましたが、電動になってから「不可抗力のメカトラ」というものが選手たちの怒りを何度も買いましたね。これがレースをする側にとっても選手側にとってもいいのかは正直わからないですね。人間対人間の面白さと技術革新ってどこまでが許容すべきなんですかね。
CT:いろいろとありがとうございます。最後に今の輪界に一言あれば。
B:今のメーカーには官能性能=感性を磨くということが理解できてないんですよ。それとコスパ(コスト・パフォーマンス)ではなく、コスバ(コスト・バリュー)じゃなければいけないと思いますよ。
S:中間の販売店が板挟みな状況が多いんで、それを何とかしてほしいね。メーカーはエンドユーザーのみならずそれをエンドユーザーに販売する僕らのことをもっと考えて欲しい。新規格とかで工具の用意やら何やら大変なんよ、ほんとに。
<font color=”#FFC0CB”><b>R</b></font>:より良いサイクルライフの提案できるような輪界になっていってほしいですし、僕らもそれに全力を尽くしていきたいと思います。
CT:皆さん忌憚のない意見ありがとうございました。色々な議論を深めてより誰もが楽しめる輪界を目指していきたいですね。また機会があればよろしくお願いします。
H.Moulinette