コラム:ロードディスク問題で思うこと:選手たちの本音と業界の不誠実、不足する説明と、分けなければいけないプロ用と一般用の議論
昨今話題に上ることが多くなったロードレースにおけるディスクブレーキ使用に関することだが、メディアの多くは業界からのスポンサードを受けているために、選手たちがどれだけ今の段階でいらないと声を上げようともそれに対して否定的なことがほとんど書けないでいる。対してサイクリングタイムでは何度となく選手の声を積極的に伝えてきた。それはサイクリングタイムがメディアとしては数少ないプロチームのスポンサーでもあるからだ。だからこそ選手の声を届けられる立場でもあり、選手たちの声を届けなければいけないと考えて声を届けてきた。ここ数年にわたり、インタビューや雑談の中で、ワールドツアーの選手たち100名ほど、プロコンチネンタルやコンチネンタルの海外選手、そして国内の選手や元選手たちにこの問題をぶつけてきた。そしてその回答の大多数が、「ロードレースではキャリパーで十分でありディスクはいらない」という回答であった。
その理由で最も多かったのが、安全性でもホイール交換などの問題でもなく、単純に今のキャリパーで十分であり、変える必要性を感じない」という回答だった。おそらくこれこそが選手たちの大多数の本音だろうと思う。過去の技術革新とは、旧態依然のものの問題点を改善するために行われてきた。しかし今回はその理由が異なることを誰よりも感じているのが選手たちなのだ。
MTBではそのレース特性からストッピングパワーが求められる。その為、より制止力を求めて、カンチブレーキからVブレーキ、そしてディスクブレーキへと進化を遂げてきた。しかしその中でも競技によりばらつきがあり、車体の重さが関係のないDHでは早くから採用され多くの選手が使用したが、フレームの重量が勝敗に影響を与えるクロスカントリーなどではその普及は時間を要した。
それに対してロードレースは軽量化するということが機材に求められている一つの重要なファクターでもある。その中で重量が増えるのを嫌うのは当然なのだが、たとえ重量が軽量化されてもそこにはもう一つその軽量化と関係する問題があるのだ。それはキャリパーがほぼ左右均等に外周で作用するのに対しディスクブレーキがホイールの片側のみに負荷がかかるということだ。
車やオートバイ、そしてDHバイクのように太く剛性があり重量も関係なく頑丈に作られるホイールであれば、その影響は少ないだろう。しかし先にも述べたように軽量化重視のロードホイールでは、片側への負荷は選手たちにとって違和感と感じられるようだ。実際にシーズン中にテストを繰り返した選手たちは口々に「明確にホイールの片側に負荷がかかっているのを感じる」と答えてくれた。この解決策として剛性を上げたホイールを各メーカー考えているが、剛性ばかり高いホイールとなれば、今度は乗り味が犠牲となるというデメリットがそこにはある。今のロードバイクは、フレームが軽量化のために犠牲にしている部分を一部ホイールで補っている。つまりホイールの剛性を上げれば、それに合わせたフレームづくりが必要となるのだ。
そういった意味では来シーズンからディスクロードバイクを投入するトレックは、自社でホイールブランドを持っているからこそ対応できているといえるだろうが、それ以外のメーカーにとっては、間違いなくホイールとフレームの相性というのが問題となる可能性が高い。
昨シーズン中に選手たちがローターの危険性を口にしたのは言い訳に過ぎないだろう。本音は今のキャリパーで十分なのにディスクに無理やり舵を切ろうとしている業界への不信感と不満だろう。ただシンプルに必要ない改善は無駄、例えるなら毎年年末に予算消費のために突如として全国で行われる道路工事のようなものだろう。
スポンサースポーツである以上は与えられたものを使うべきだという考えには一理ある。ただ自転車レースが最も危険なスポーツであるということを考えたとき、選手たちが生命を託す機材に対して不必要だと思うのは直感的にリスクを排除、低減したいという思いに他ならない。つまりはメーカー側がそう感じている選手たちへの説明や配慮が決定的に不足してるというのが現状だ。
そしてロードレース界と一般でのロードディスク問題は分けて考える必要がある。ロードレースでは交通整備などがきっちりとおこなわれ、原則制動力を求める必要性はなく、あくまでも減速できればいいだけの装置なのだ。その為従来の制動力が高いディスクブレーキはまず必要がない。すると業界は制動力を落として制御重視のディスクブレキーを登場させたのだが、選手たちからすれば、だったらキャリパーでいいじゃん、となるわけだ。さらにはホイール交換もシビアになることも選手たちが嫌う一因でもある。ディスクブレーキのパッドの隙間は狭く、その隙間にきっちりと納めなければならず、万が一少しでも曲がってホイールが入れば勝手にブレーキパッドに触れてしまうのだ。その問題解決のためにはスルーアクセルが推奨されたが、そうすると今度はホイール交換に時間がかかるという問題が浮上した。
対して一般道を走るエンドユーザーにとっては常にストップ&ゴーが基本となる。そうなれば制動力のあるディスクブレーキはあって然るべき選択肢だ。ましてや雨の中などでも制動力が変わらないということは非常に重要でもある。そしてプロのように重量がその生活に影響を与えるものでもなければ、スペアホイールに交換する時間を考える必要もないのだ。
ただしここでもメーカーの不誠実さがある。一般ユーザー向けへてのディスクブレーキの説明がまだまだ不足しているのだ。いらないというプロ選手へのごり押しをする時間と手間を、より必要としているエンドユーザー向けに向けるべきなのだ。
メーカーは選手たちを広告塔にしたく、「~選手が使っている・・・」などといううたい文句やイメージが欲しいだけなのだ。その為にはUCIに解禁させる必要、というのがいまの業界のスタンスなのだ。
結局はスポーツ自転車人口が増えないのにカーボンフレームが飽和状態となったことで、皆必要なパーツを買い替える程度の購買がほとんどとなり、業界の業績が頭打ちになっていることが影響しており、そのためには新しい機材と規格を持ち出し、買い替え需要を促さなければならなくなっていることが影響している。もちろん独占企業状態となっているコンポーネントメーカーと、そこに密接に関係しているスポーツ自転車メーカーにとっては、場合によっては死活問題になりかねないだけに、是が非でもロードディスクに持っていきたいのだ。
今業界に求められるのはより丁寧な説明だろう。そして競技用と一般エンドユーザーでは状況が違うのだからニーズが違うということと今一度きちんと向き合ってほしい。たかが広告塔だからと選手たちの意見を軽視したり、またきちんと説明しないままに技術革新だからと無理やり進める強引なやり方では、いずれ消費者はその傲慢さに壁壁してそっぽを向いてしまう可能性があることを認識してほしい。
H.Moulinette