パリ~ルーベ2018:世界チャンピオンのサガンが念願の石畳頂上決戦制覇!200㎞以上逃げ続けたディリエがサガンに食い下がり殊勲の2位、テルプストラ3位
やはり石畳頂上決戦は一筋縄ではいかなかった。多くの優勝候補たちが落車で消えていくサバイバルバトル、しかし冷静沈着、勝利を狙いに行った3年連続世界チャンピオンのピーター・サガン(ボーラ・ハンスグロエ)が終盤にするすると追走集団から抜け出し逃げ集団へ合流、そのまま逃げ続けてきたシルヴァン・ディリエ(AG2R)とのマッチレースを制して、ようやくパリ~ルーベの栄冠を手に入れた。また残念なことにレース中の落車でマイケル・ホーラールツ(ヴェランダズ・ウィレムス・クレラン)のその若い命と才能の灯が消えてしまった。
このレースもあまりにも落車の多い大会となった。濡れた石畳と乾いたアスファルト、選手たちの足元は常にリスキーな状況となった。合計29用意された石畳のセクターだが、そのセクターに入る前から落車が発生する展開、そして石畳区間のみならずその合間のアスファルト区間でも落車が連続、選手たちにとっては気が抜けない荒れた展開となった。
そんなレースをリードしたのはディリエを含む9人の逃げ集団、レース序盤に飛び出すとそのまま最大で8分差にまでその差を広げていく。しかし石畳区間を超える度にその差を縮め、また追走集団も度重なる落車で人数を減らしていく。
早々と有力視されていたゲラント・トーマス(チームスカイ)が落車でリタイア、更にはグレッグ・ヴァン・アーヴェルマート(BMC)、イブ・ランパート(クイックステップ・フロアーズ)、オリビエ・ナーセン(AG2R)らは落車による分断で遅れ、必死で追走集団復帰を目指す。そしてさらにはジョン・デゲンコルブ(トレック・セガフレド)、ゼネク・スティバー(クイックステップ・フロアーズ)、アルノー・デマール(グルーパマFDJ)がパンクで後れを取るなど、多くの選手たちが無駄な労力を多分に使わされることとなった。
そして優勝候補の一角でもあったマッテオ・トレンティン(ミッチェルトン・スコット)も落車でそのままリタイアするなど、サバイバルはどんどんと厳しくなっていく。名物アーレンベルグまでに大きく人数を減らした集団は、大きなトラブルなく荒れた最難関石畳区間をクリアしていく。そんな中この日もクイックステップ・フロアーズはフランダース同様にニキ・テルプストラ、フィリップ・ジルベール、スティバー、イブ・ランパートの4人体制で積極的なチームワークと動きを見せ続ける。
特にジルベールは、マイク・テウニンッセン(チームサンウェブ)のアタックに反応し追走集団から飛び出すなど、積極的な動きを見せ続けた。さらにはテルプストラも何度となく集団の先頭に出てペースアップを試みるなど、いつも通り積極的に仕掛け続けた。しかしこの日の主役はサガン、残り51㎞でするすると抜け出したが、ライバルたちはこれを容認してしまう。今シーズンここまでの走り、そして残り距離を考えたときに逃げ切りはないだろうという甘い見通しが命取りとなった。
サガンの強さの秘密はその力量だけではない。あれだけの勝利数を可能にしているのはその「勝負勘」と「勝利への嗅覚」、それを甘く見積もったライバルたちに対し、勝利の女神はそっぽを向いてしまった。
一気に先頭の逃げ集団までジャンプアップを果たしたサガンは、さらにそこからペースを上げる。するとそれに対応したのはディリエのみだった。序盤から逃げ続け疲れているはずながらも、その疲れを見せることなくサガンと共に協調体制を組んだディリエ、それにより高速の追走集団との差はおよそ1分ほどで推移し続けることとなる。
追走の集団も人数を減らし、テルプストラ、グレッグ・ヴァン・アーヴェルマート(BMC)、セップ・ファンマルケ(EFエデュケーション・ファーストドラパックp/bキャノンデール)、ジャスパー・ストゥーヴェン(トレック・セガフレド)らエース格に絞られてしまう。これが協調体制ではなく駆け引きを誘発、追走の一手が打てない状況が続く。
サガンとディリエにとってはライバルたちの不協和音は勝利へのファンファーレ、逃げ切りを確定させスタジアムセクションに入り、二人のマッチレースを展開する。サガンを視野に捉えながらタイミングを計るディリエ、しかしスプリントにも自信のあるサガンは一枚上手だった。自らの間合いまでしっかりと我慢、そして先行するとそのまま最後まで押し切った。
「子供のころからパリ~ルーベ、フランダース、世界選手権の3つが夢だったんだよ。世界チャンピオンには3度なったけど、パリ~ルーベだけはここまで運も味方しなかったし、本当に難しかった。でもこれで欲しかったタイトルがすべて手に入った。世界チャンピオンの称号一つをパリ~ルーベと交換する?などという冗談も聞かれたけど、この一勝、このタイトルはそんな小さなものじゃないよ。本当に念願のタイトルだよ。」サガンは興奮しながらも冷静に王者らしく威厳ある口調で語った。
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サガンは天使でもあり悪魔でもあったね。この日ゴールまで一緒に逃げたディリエはそう語った。「サガンがいれば逃げ切れるという確信があったけど、でもそれは同時に勝てない、ということも感じさせたんだ。最後までできる事はやったけど、勝てなかったね。でも結果には大満足だよ。ディリエは笑顔で答えた。
「今日はサガンが強かった、それだけのことだよ。」テルプストラは極めて冷静に語ったが、終盤の圧倒的な牽引を見れば勝利を出来たのではと感じさせた。「前回のレースの後でうちのチームを倒すには各チームのエースが協調しなければ、と語っていた男が一人で勝つんだからね。完敗だよ。」そう語るテルプストラはこのレースでもポイントを重ね、これで年間王者ランキング争いでサガンに次ぐ2位に躍り出た。
パリ~ルーベ順位
優勝 ピーター・サガン(ボーラハンスグロエ) 5’54’06”
2位 シルヴァン・ディリエ(AG2R)
3位 ニキ・テルプストラ(クイックステップ・フロアーズ) +57”
4位 グレッグ・ヴァン・アーヴェルマート(BMC) +1’34”
5位 ジャスパー・ストゥーヴェン(トレック・セガフレド)
6位 セップ・ファンマルケ(EFエデュケーション・ファーストドラパック)
7位 ニールス・ポリット(カチューシャ・アルペシン) +2’31”
8位 テイラー・フィニー(EFエデュケーション・ファーストドラパック)
9位 ゼネク・スティバー(クイックステップ・フロアーズ)
10位 イェンス・デブッシェール(ロット・ソウダル)
H.Moulinette