圧倒的チームワークを見せるクイックステップ・フロアーズ、なぜこのチームは強いのか?勝利へのハングリーさを持ちながらチームワークが成立する理由とは
春のクラシックシーズン、ここまで圧倒的な強さを見せているクイックステップ・フロアーズはベルギーのワンデイでは、ここまでレ・サミン、ドワース・ドア・ウエスト・フランデーレン、ハンザメ・クラシック、デ・パンネ、E3ハレルベーク、ドワース・ドア・フランデーレン、そしてロンド・ファン・フランデーレンをニキ・テルプストラが制し、ここまで8戦で7勝を5人の異なる選手で挙げている。一体何がこのチームにここまでの勝利数をもたらしているのか、それは圧倒的なチーム力だ。
ニキ・テルプストラが勝利したロンド・ファン・フランデーレンだが、レース開始前に各チームの有力選手に「今大会のライバルは?」と質問したところ、帰ってきたのは「クイックステップ・フロアーズ」というまさかのチーム名の回答だった。クイックステップ・フロアーズは元シクロクロス世界チャンピオンのゼネク・スティバー、元世界チャンピオンのフィリップ・ジルベール、ドワース・ドア・フランデーレンを制したイブ・ランパート、そしてレ・サミンとE3を制していたニキ・テルプストラがなんと4トップ体制、つまりその全員がエースという形でレースに挑んできたのだ。
通常レースでは各チームエースがおり、それに対してアシストがチームを支える形となる。中にはアシストの中にサブエースを置くチームもいるが、わかりやすく数値化して説明をしよう。エースの力を1とした場合、各アシストの力量は0.5から0.6といったところだ。それに対してクイックステップは複数の0.8から0.9の選手を揃えることで切り札を増やし、戦略の自由さを用意しているのだ。そしてその中の一人が逃げ、チームメイトがアシストに回るときに、その力量は1を超えていくのだ。
複数の高い力量の選手だが、単独では他チームの絶対的エースには劣るのだが、最終局面までにライバルチームのアシストを削り、その最終局面で数的優位を作り出すことで攻撃パターンを増やすのだ。その典型となったのがロンド・ファン・フランデーレンだった。まずはレース全体を序盤からコントロールすると、アシストの選手たちによる集団のペースアップなどでライバルチームの人数を減らしていった。そして勝負どころの段階で、他チームがエースとアシストになった時点で、まだ”4人のエース”全てを残していたのだ。
クイックステップのこの複数エース体制は、チーム間の信頼関係があって初めて成り立つ。本来であれば誰もが自分の勝利を欲するものだが、クイックステップでは瞬時に味方の選手のアシストに徹することができるのだ。これは自分が先行した際にはチームメイトたちがアシストしてくれるという確かな確証のがあるからこそできるのだ。またそのアシストぶりも徹底しているからこそそれが勝利へと繋がるのだ。
「時には我慢強くなければならないんだ。自分自身に自信を持ち、そして仲間を信じる、そしてより大きな絵を眺めることで、今この一瞬の自分の犠牲がどんな結果をもたらすかを想像するんだ。自分勝手に動けば信頼を失うだけではすまないんだ。でもそれは真逆も言えて、いかに自分勝手にチームに自らを先行投資するかなんだよ。いつかそれが自分に見返りをもたらすかを想像しながらね。」テルプストラは”オオカミの集団行動”と比較されるクイックステップのチームでのメンタルの在り方を語った。
「クイックステップ以外のチームが、そしてチームの垣根を超えてエース同士が協調しなければ、いいようにクイックステップにやられるだけなんだ。一人じゃ到底太刀打ちできないよ。」現世界チャンピオンがそう語るほどにチームの組織力は強力なのだ。
「クイックステップのようにハイレベルの選手をあれだけ揃えるのは容易じゃないよ。そして集められたにしても、よほど厚い信頼関係がなければ、あの戦略は難しい。あれは毎年のように行えるんだから大したものだよ。最初からそういうチーム作りを心掛けていなければ難しいことなんだ。絶対に信頼をして自己犠牲をするからと言って、勝利を欲する気持ちを殺しているわけではない、チャンスがあればいつでも狙うというギラギラした欲望を制御したうえでチームに尽くすという強いメンタルを持っていなければできないんだよ。選手の力量としても、メンタルもどちらも弱ければ務まらないんだよ。」あるチーム監督はため息交じりにそう語った。
この記事を書いている最中にもクイックステップはさらにジュリアン・アラフィリップで勝利を挙げた。この勢いで今シーズンはどこまで勝利数を伸ばすのだろう。
H.Moulinette