「ウィギンスの記録や破れない記録ではない」トラック競技のスペシャリスト、ビュークボームが来年8月にアワーレコードへの挑戦を表明!ウィギンスの絶対と思われた記録は破られるのか?

2014年にアワーレコードのルール変更があり、ここ数年多くの選手達がアワーレコードに挑戦、記録を塗り替えてきた。しかし2015年6月にサー・ブラッドリー・ウィギンスが54.526kmという記録を達成すると、挑戦に名乗りを上げる声は一気に止んでしまった。それほどまでにこの記録が素晴らしいものだったことと、ロードとトラックで伝説を作ってきた男への挑戦など恐れ多いという躊躇と配慮が入り混じり、またしても挑戦者がいないままに記録が残る、暗黒時代になっていくのかと思われた。

『トラックのスペシャリストが挑む ©DB』
しかしここへ来て誰も予想すらしなかった男がその挑戦に名乗りを上げた。28歳のディオン・ビュークボームはコンチネンタルチームに所属する選手でオランダのパシュートチャンピオンであるとともに、ヨーロッパ選手権のパシュートで2015年と2016年に銅メダルを獲得している。ただそれ以上に際立った成績もなく、プロコンチネンタルやワールドツアーからはお声がかかっていない。しかしそれでも「ウィギンスの記録は破れない記録ではない」と語り、来年8月に記録に挑戦することを明かした。
「僕がウィギンスより優れた選手だなんていう妄想は抱いていないよ。ただあれよりも良い条件下があることで、あの記録を破れる可能性は十分にあるんだよ。」ビュークボームは記録を出すための条件がまだ改善点があったことを口にした。
今回この挑戦をコーチングするのは、2015年に記録挑戦をした(記録更新はならず)ジョン・ピエール・ドラッカーを支えたジム・ヴァン・デルベルグ、前回のドラッカーの挑戦を踏まえて、今回記録更新を目論む。「ウィギンスの記録挑戦はショー的要素が大きかったんだよ。観客席を満員にしたり、本が出版されたり、VIPを呼んで観戦させたりして、あれはエンターテインメントだったんだよ。だからわざわざ海抜0mのロンドンで空気圧も高いような場所を選んだんだよ。僕らが付け入るスキがあるとするとそこだよ。僕らは海抜2000mのメキシコで行うつもりなんだ。当然空気が薄くはなるが、計算上それよりも空気圧が低くなる方がメリットが有るんだよ。」ヴァン・デル・ベルグは今回の挑戦は僅かでも勝算があるからこそ挑むのだと語った。
本来はロード選手として、プロコンチネンタルやワールドツアーへのステップアップを狙っていたビュークボームだが、来シーズンへ向けてその夢が潰えたことで今後はアワーレコード一本に絞って調整をしていくようだ。コンチネンタルチームに一員として幾つかのレースに調整で出場しながら、あくまでもターゲットはアワーレコード、選手として年齢的にも脂の乗り切っている今だからこそなのかもしれない。

『人生馬鹿になったもの勝ち、と挑戦を決意 ©DB』
「ここ数年上を目指したけど頭打ちだったんだよ。僕のレベルが至らなかったのもあるだろうし、僕の勝利への貪欲さが足りなかったのかもしれない。でもだからこそ、人は時には”バカ”にならなきゃいけないと思ったんだよ。その素質は間違いなく僕にはあると思うんだ。だってウィギンスに挑むなんて正気の沙汰じゃないと多くの人が思っているだろ。」
「たった一時間の勝負なんだよ。そこに全身全霊を傾けるんだ。」
バカになれる男はもしかしたら偉大な記録を打ち立てるのかもしれない。来年8月の挑戦が早くも楽しみだ。
H.Moulinette