「レースでのパワーメーター使用を中止すべき」コンタドールがレース中の使用がレースをつまらなくさせていると指摘、パワーメーターは果たしてレースにほんとうに必要か?
今シーズン限りでの引退を決めているアルベルト・コンタドールが、現役中はなかなか口を開かなかった案件に関して自らの思いを口にした。様々な技術革新が進む今のレース界の中で、レースを面白くなくさせている要因の1つとしてパワーメーターの存在を口にした。
「正直データとにらめっこしながらのレースなんて面白い?本能で選手たちが動くから人間対人間になるのであって、データを見ながら冷静に対処しているのでは見ている側はつまらないと思うよ。例えば自分の上りでのリミットが400wであったとして、チームスカイが400wで山岳トレインを仕掛けていたら、絶対にアタックしないでしょ。でもその数値がわかっていなければ”仕掛けよう!”って本能的に動くことがあるでしょ。それがレースを面白くするんじゃない?僕はレースの場での使用は排除されるべきだと思う。」コンタドールは明確に言いきった。
実はシーズン中もこの議論はあった。ナイロ・キンターナ(モビスター)とアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)の二人は共にパワーメーターがレースをつまらなくしているから排除すべきとの声を上げている。「パワーメーターのレースでの使用は勝負をつまらなくする。誰もが100%の中でしか戦わなくなる。自分の限界を超えることをしない、もしかしたら120%の力が出せるかもしれないというその可能性に賭けないレースなんてつまらない。トレーニングにはうってつけだと思うけど、レースでの使用は本当に力と力の勝負をしらけさせるんだよ。」とキンターナは語り、バルベルデも「直感的や本能に任せたレースだからこそヒューマンスポーツなのに、機械のデータで管理したレースやるんだったらコンピューターゲームと変わらない。心理的な駆け引きが無いレースなんてつまらないだろ。」パワーメーターはレースから”ドラマチックな展開の楽しみ”を奪っている。」としている。
パワーメータと言えば今現在最強の男クリス・フルーム(チームスカイ)が頭に浮かぶ人も多いだろう。常に自らのパワーメーターでのデータを見ながら走り、徹底して無理をしない走りに徹しているのだ。その結果として無駄なアタックはなくなり、確実に少ない攻撃で仕留める、または遅れてもマイペースで上り続けるというのがフルームらしさとなっている。
グランツール王者の3人がパワーメーターを廃止すべきと語る背景には山岳でのバトルの減少がある。そしてコンタドールは自らの言葉の意味を示すかのように、今年のブエルタでは何度となく無茶とも思えるアタックを敢行、こういうドラマがレースには必要なんだと身をもって示したのだ。
しかしクイックステップ・フロアーズのパトリック・ルフェーブルはパワーメーター廃止に関して異議を唱えている。「技術革新は止めようがないだろ。それにパワーメーターを使ったところでそのデータを気にもしないのがうちの選手たちだよ。データを完全無視してトレンティンやジルベールが今シーズン勝利を量産したからね。」と語り、結局はヒューマンスポーツなのだから、そのデータに従う従わないは個々の判断によるとしている。
ただルフェーブルの語っているのはあくまでも平坦基調や一発勝負のレース時でのパワーメーター使用のことなのに対して、グランツール覇者たちは山岳ステージでの使用を問題視している。
パワーメーターがレースを面白くしているかどうか、最近では各選手のパワーデータが配信されるなど、見る側にとってもそれは1つの面白みとなっている側面はある。ただ現場でレースを走っている選手たちが、そのデータのせいで心理的な駆け引きが減りつまらなくなっている、と感じているのだとすると、それはやはり検討をすべきタイミングに来ているのかもしれない。現場で戦う選手たちが、つまらない、エキサイティングではないと感じてレースをすれば、それはいずれ見ている側にも伝わってきてしまい、レース全体がつまらないものとなってしまう可能性を秘めている。ドーピング問題ばかりが自転車の面白さを貶めていると思われがちだが、時には技術革新さえもが自転車レースの面白さを奪いかねない可能性があるということを知っておかねばならないだろう。議論が必要な時期に来ているだろう。
H.Moulinette