工房探訪~ヘラブナサイクルズ:孤高のアーティスト、独創的なオーソドックスを貫く哲学者が生み出すスチールフレーム&キャリア、「ニーズではなくウォンツ」から生み出される極上の一品

国内各地にフレームビルダーが存在する中、日本の中心である東京、麻布で、ある個性的ビルダーがスチールフレームとキャリアを専門に制作している。その名はヘラブナサイクルズ、絹川公将だ。日本語と英語を流暢に操り、国内のみならずアメリカでも評価されているビルダーだ。「独創的オーソドックス」という形容詞がぴったりな、クラシカルながらも自らのアイデンティティーをきちんと投影したフレーム作りを信条とするクールガイはまさに新世代ビルダーと言えるだろう。

『ヘラブナサイクルズと言う名の至極の一品 @CTJP』
『哲学的ビルダー、理論派でありながら柔軟な発想力を持つ @CTJP』しかし職人になるまでの道筋はありきたりのものではなかった。東海大学で海洋学を学び、そして社会人となったが、交通事故がその人生を大きく変えることとなる。「やりたいことをやろう」、そう感じたことが人生の転機となった。本来目指したのは、大好きなオートバイ作り、しかしカスタムでフルスクラッチのオートバイ作りは極めてハードルが高かった。そこで次に思いついたのが、人力のマシン、自転車だった。
最近では専門学校などもある中、絹川は昔ながらの”職人”的な形でフレームビルダーの技術を身に着けていった。材料を買い、自らのフレームを作る、その目的で客としてビルダーの元を訪れると、そのまま弟子入り、技術を盗んでいったのだ。そして2012年に本格始動、個性的なブランドは遂にその歴史の幕を開けた。

『カメラ等、機械式のものへのこだわりは強い @CTJP』
絹川にはいくつかのこだわりがある。そのまず一つが道具作りだ。市販の道具や工具はもちろんそのまま使えるものが多いが、やはり自分の使い勝手に合わせ、その多くに手が入れられているのだ。まさに職人の典型とも言える道具の改造、この職人魂とこだわりが、フレームとキャリア製作にも大いに表れているのだ。そしてそれはまた、「効率よく物を作る」というところにも繋がっている。

『ディスクブレーキに合わせ、左右非対称のキャリアもお手の物 @Helavna』
そのフレームとキャリア作りのポリシーは「ウォンツを満たすモノ作り」だ。「昨今の製品は計画的に陳腐化されている。そんなものは後世には残っていかない。僕は後世に残るものを作るんだ。」そう絹川は語る。ウォンツとは、人の欲望であり、欲するという心。つまり世の中に無いこんなものが欲しい、という声に答えるのがヘラブナサイクルズだ。「地に足をつけて合理的に遊ぶことが体現したいことであり、それを続けていくことが生きていることに対する反抗なんだよ。それが僕の生き様なんだ。」絹川の思考は常に哲学的だ。

『完全手作りのブレーキ台座 @CTJP&Helavna』
フレーム作りのこだわりは徹底している。市販されているパーツが有っても、自分が望むものを求めて作ることも多い。例えばブレーキ台座、カンチブレーキ用の台座をすべて削りだしで作り、フレーム一つ一つに合わせて調整していくのだ。またキャリアへのこだわりも尋常ではない。昨今キャリアまでフレームに合わせて作る職人は極めて少ない。合理化だけでは片付けられない線の美しさを求め、妥協なきデザインセンスで作られるそのキャリアはもはやアートと言っていいだろう。

『フレーム&キャリア、すべてがオーダーメイドだ @Helavna』
昨今のロードレース全盛期の中で、ヘラブナサイクルズではあえてキャリア付きのツーリングフレームを中心として作っている。日常の脚でありオールラウンダーという実用車は、自転車を日常の足に使いながら、旅をすることも楽しむ文化を持つアメリカで特に評価が高い。国内では知る人ぞ知るブランドだが、堅実かつコンセプトのしっかりとしたモノ作りから生み出される一台は、間違いなく長く付き合える一台となるだろう。
そんな絹川にプロとはなんたるかを聞いてみた。
「プロとは何が何でもやる、常に来るときに備える、あるべき時にある備えを怠らないこと」
今の時代にそぐわない理屈なのかもしれない、しかしこの男が生み出すものに一切の迷いはない。
『クロモリーロードも作るが、この車体にはポールRacerブレーキのこだわり @Helavna』こだわりの詰まったフレーム&フォークは\183,300からとなる。細かい仕様や変更などはビルダーと直接腹を割って話す、これがオーダーフレームの醍醐味だ。フォーク単体や、キャリアのみの注文も可能となっている。
H.Moulinette