クロモリフレームを正しく知ろう:重い?錆びやすい?先入観を捨てて初めて分かるその本当の良さ、なぜクロモリが長く愛され続けているのかを知らずしてクロモリを語ることなかれ

もしあなたがカーボンフレームしか乗ったことがないのであれば、とてももったいないことをしている。確かに最近はカーボン全盛期、ショップでも当たり前のようにカーボンを勧め、その際に「クロモリや、アルミよりも優れている」という言葉が謳い文句としてよく聞かれるのだ。「プロが使うのはカーボン」だから、カーボンこそが最高級品であり、最良のモノなのだというような説明をする人がかなりいるのだ。クロモリをきちんと知らないで、それを鵜呑みにしていたとすると、あなたはとてももったいないことをしている。

『クロモリは長く愛される優良素材なのだ ©CTJP』
まずはクロモリとはなんだろう?クロモリとはクロームモリブデン鋼の略だ。モリブデン鋼にクロームが添加されており、より軽く、より強靭なスチールとなっている。国内メーカーではかつてはタンゲや石渡など国内鋼管メーカーがあったが、今ではタンゲは台湾生産となり、廃業した石渡を引き継いだカイセイが唯一の国内生産メーカーだ。海外ではレイノルズやコロンバスといったところが、昔から今でもスチールパイプを作り続けている。クロモリは需要があり続けるからこそ昔から生き残り続けている素材なのだ。
カーボンを無条件に薦める人がクロモリに対して口をそろえて言うのが、「クロモリは重い」という言葉だ。繊維を樹脂で固めた造形がより自由であるカーボンに比べ、金属であるクロモリは、軽くするには薄くすることが基本であり、また薄くするにも限界があるために軽量化という意味では確かにカーボンに分がある。ただし薄くするために添加する物質を変えることで強度を上げることが可能なのだ。そうして考える、とクロモリが重いのかと言えばそんなことは決してない。チューブを選び、プロが作ったクロモリフレームは軽くて丈夫、十二分にカーボンと渡り合えるスペックを持っているのだ。

『軽量クロモリフレームをきちんと知らない人が多すぎる ©CTJP』
軽量カーボンフレームは600g台だが、これはもはや諸刃の剣、指で押すだけで凹むような薄さのものだ。それを考えた時に強度をある一定以上維持しており、一般的にトップクラスのレースフレームと呼ばれるものは大体1000gだ。それに対して昔の一般的なクロモリフレームは2000gほどあり、明らかに重かった。だが昨今どんどんと素材革新でクロモリも進化したことで、最軽量のフレームでは800g台も可能となった。これはもちろん前出の軽量カーボンと同じで諸刃の剣だ。実際強度も考えたトップクラスのレースクロモリフレームとなれば、やはり1500gあたりが目安となるが、パイプの選択を考えれば、ラグ付きのフレームでも1300g台でも十分な強度を持ったクロモリフレームが可能だ。ラグレスとなれば、さらに軽く、1100g台で、長期間使え、レースに十分な強度を持ったフレームが可能だ。
ただしフォークに関しては、クロモリでは軽くても600gほど、ここだけはカーボンに圧倒的に分があるといえるだろう。ただ乗り方によっては、軽量クロモリフォークのほうが遥かに身体への負担が少なく、一概にどちらのほうが良いと断言するのは安易と言えるだろう。ここは使い方次第で変えるべきだろう。

『ここに合わせたオーダーの自由の幅はクロモリならでは ©CTJP』
現在クロモリフレームの殆どを製造するのが、国内の競輪を支えてきたビルダー達だ。競輪は厳密にフレーム形状にルールが有り、それに沿ったフレームでなければならないが、個人がオーダーする場合、ロードバイクからツーリング車まで様々なタイプの自転車がオーダーできる。今現在JKA(日本競輪協会)が認可しているビルダーは国内で32ブランド(大手マスプロのブリヂストンとパナソニックを含んで)となっており、その殆どで個人からのオーダーを受け付けている。
このオーダーの最大のメリットは、自分の体型と乗り方にあった完全オーダーが可能だということだ。カーボンフレームでは金型の関係上決まった寸法が原則であり、オーダーで対応できるのは世界でも数人の職人のみ(カーボンパイプを継ぐ形式のみ)だ。それに対してクロモリフレームは体型や乗り方、使い方に合わせて細かい変更が可能であり、カラーリングも含めて自分だけの一台が作れるのだ。

『職人向けといえるクロモリという素材 ©CTJP』
それでいながら、殆どのフレームビルダーは15万円ほどからこの完全オーダーを受け付けている。もちろんビルダーによっては価格にはばらつきはあるが、平均してみると、欧米ブランド中国製カーボンフレームよりも安いのだ。クロモリオーダーフレームでは20万も出せば、完全レーススペックの軽量クロモリフレームだって可能なのだ。そして細身のフレームが嫌な人にはもちろんクロモリエアロチューブだって選択できるのだ。クロモリエアロチューブでも十分にカーボンに太刀打ちできる実用強度の1.4kg台で可能なのだ。

『クロモリエアロチューブフレームを一度お試しあれ ©CTJP』
また「クロモリが安い、カーボンが高価」という考え方も間違っている。材料費のみに絞った場合、安いのはカーボンの方であり、クロモリのほうが遥かに高価だ。しかしカーボンはそこからの加工に費用がかかるのだ。なので少量生産には向かず、金型を用意しての量産向けとなる。それに対してクロモリは少量生産向けであり、一本からフレームが作れるのだ。つまり全体的に見れば職人向けのクロモリとマスプロダクション向けのカーボンと言うことが出来るだろう。
そして手入れさえきちんとしておけば、そもそも錆びることなどあまりない。屋外に放置しておけば、もちろん錆びるが、カーボンだって同じ条件下で置いておけば、コーティングや積層の劣化が早まることを考えれば、これは素材の問題ではなく扱い方の問題だ。
これらのことを知らずして、クロモリは重い、安素材、レース用ではない、などというのは知識が浅いことをひけらかしているようなものだ。クロモリフレームは決して過去の遺物ではない、クロモリは今でも十分にカーボンと渡り合える競技用フレームから、ツーリングフレームまで、幅広くの可能性を持つ最強素材なのだ。
H.Moulinette