TFD第5ステージでアルペシン・フェニックスとファン・デル・ポエルが見せた勝利への貪欲なこだわり、スポンサー外商品で固めたアウトフィットを使用するという掟破りの奇策
ロードレースはスポンサースポーツだ。資金のみならず、選手たちが使用する機材は各メーカーから提供されている。それは過酷なレースの現場でのテストのみならず、製品のプロモーションの為でもある。つまり通常は選手は所属チームが提供する機材、及びウェアを使用するのが当たり前なのだ。
稀にエース格の選手が、サドルなどのスモールパーツを、体に合わないからと別メーカーのものをブランド名を隠して使用することはあるが、今回のようにアルペシン・フェニックスの通常アウトフィットのかなりの部分を別メーカーのものを使うというのは近年あまり前例がない。というか、タブーであり、基本は契約違反となるのだ。
総合リーダージャージを獲得したアルペシン・フェニックスとしては、一日でも長く総合リーダージャージをキープしたい、それはエースのマシュー・ファン・デル・ポエルも同じこと。そして至った結論が、”手段を択ばず徹底して勝利のために機材にこだわる”だった。
まず徹底したこだわりを見せたのがホイール、前日になり唐突にプリンストン・カーボンワークスの代表にBlur 633 とWake6560がないかと問い合わせをしたのだ。これは昨年個人TTで世界チャンピオンになったフィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアス)が使用していた機材だ。しかし残念なことに在庫はなく、プリンストン・カーボンワークスが必至で連絡を取りまくり見つけたのが、イネオス・グレナディアスのキャメロン・ウルフがアンドラの自宅にあったスペアホイールだった。状況を聞かされないままにウルフはホイールを販売することに同意したのだが・・・
問題はホイールがステージが行われる町から900㎞も離れた場所にあることだった。24時間以内これをどうやって届けるのか、ここでさらなる助っ人が登場する。なんとピレネーでリゾートホテルなどを経営する男性が自ら運転して届けることになったのだ。
さらにはハンドル周りはWattshop’s Anemoi Extension System (ワットショップス・アネモイ・エクステンション・システム)を使用、そしてレース主催者から提供されるマイヨ・ジョーヌ(ラ・コックスポルティフ製)ではない、エアロスーツを着用、さらにはヘルメットも他チームが採用している別メーカー製、さらにはシューズのエアロカバーも、チーム用ではなくまったく異なるメーカーのものを使用した。
つまりバイクフレームとコンポーネント以外は本来のチーム用とは異なるものを使用するという究極のスワッピング状態でレースに挑み、そして結果を残したのだ。
イネオス・グレナディアスやユンボ・ヴィズマの強豪トップ2は、スポンサー外のホイールを堂々と使用していることがあるが、これはきちんとヨーロッパシマノに事前に通達をしており、ある意味目をつぶってもらっている状況だが、今回も同様の措置だったようだ。
勝利にこだわれば、機材は自分で選びたい、勝負師としての本能か、はたまたビジネスだからあるもので勝負するべきなのか、当然賛否両論はある。だが勝利することを選手に求めるのであれば、選手たちが使いたいと思う機材開発、素材開発をもっとメーカーがしてくべき部分もあるということだろう。きつい言い方を変えれば、”スポンサーしてもらった機材じゃ速く走れないんで、よりよいもの使いたいです”と言われているようなものでもあるということだ。
機材競争は続く、そして選手たちの勝利への飽くなき欲求もエンドレスだ。
H.Moulinette