超人バイクレース、アンバウンド・グラベル200:制すのは力のみ、332㎞のグラベルレースはスプリント勝負での決着、山岳もある332キロのオフロードを平均時速32.2㎞でボズウェルが駆け抜ける(ダイジェスト動画あり)
グラベルバイクと言われる車種が登場し暫くたつ。ツーリングバイクのランドナーと、よりスポーティーなツーリング車種のスポルティフを、現代の技術革新の中でアレンジしたものがグラベルバイクと呼ばれるものだ。シクロクロスとその形態は似ているが、シクロクロスが短時間決戦型のジオメトリーなのに対し、グラベルバイクは長距離を走ることを目的としている。海外では登場以降新たなツーリングバイクとしてのジャンルを確立してきたが、新たなレースとしてのジャンルも確立している。2006年に試験的に開催され、そこから定着したアンバウンド・グラベルシリーズもその一つだ。そんなレースがにわかに注目を集めているのは、トップクラスのロード選手たちが、ロードレースシーンを退き参戦をしていることだ。それもまだまだ現役バリバリの選手たちが、新たな挑戦として挑んでいるのだ。
アンバウンド・グラベルは20、50、100、200、XL(357.2マイル~574.8キロ)とクラスがあり、それぞれマイル数を表している。200はおよそ206.8マイルとなっており、キロ数換算すると332.8㎞の長丁場のレースとなる。機材は距離にもよるが、長丁場のレースほど、グラベルバイクを個々の出場選手がより快適に走れるように改造を施しており、頑丈さや快適性が重視されたセッティングとなる。なんといっても未舗装路だけではなく、山あり川ありガレ場ありのサバイバルレース、いかに体への負担を減らしながら走るかが重要なのだ。
その中でもアンバウンド・グラベル200は最も熱いレースが繰り広げられる。アメリカを拠点としているロードレースのチームは、所属選手を参加させているケースもあるが、ほとんどの参加者はプライベーターとして参加、元ロード乗りが多く参加するのは、その経験を最大限に活かせる新ジャンルであることが大きいだろう。何よりも現役のロード選手たちに加え、ヨーロッパのワールドクラスチームで第一線で戦ってきたバリバリの脂乗り切った選手たちが参加していることが、大いに注目を浴びた。
レースは元チームスカイのイアン・ボズウェルが、ツール・ド・フランス総合12位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合8位の実績を持つローレンス・テン・ダムとのスプリントによる一騎打ちを制して勝利した。元トレック・セガフレドのピーター・ステティナが3位、元キャノンデール・ガーミンのテッド・キングが4位に入った。ステティナ、キング、ボズウェルはそれぞれロードを引退しグラベル、オフロードへの転向をした選手たちであり、まだ30代の絶頂期だ。この元ロード4人が、レッドブルの契約ライダーでもあるグラベルの第一人者、コリン・ストリックランドを抑えて勝利したことで、改めてワールドクラスのロード選手たちの身体能力の高さが証明された。
アンバウンド・グラベル200順位
優勝 イアン・ボズウェル 10h17’24”
2位 ローレンス・テン・ダム
3位 ピーター・ステティナ +1’11”
4位 テッド・キング
5位 コリン・ストリックランド +31’54”
まず驚くべきはそのタイムとスピードだ。332キロのオフロードコースは、アマチュア選手たちは時に自転車を押して歩くシーンも見られるほどの過酷さであり、そんなコースを優勝したボズウェルは平均ワット数247Wで駆け抜けたのだ。つまり10時間以上にわたり、オフロードで時速32.2㎞で走り続けた計算だ。途中総獲得標高2724mという山岳もある中でのこの出力はもはや超人だ。さらに消費カロリーは2177キロカロリー、ゴールスプリントでは最大出力1032Wも記録、タフ過ぎすぎる男は正直自分自身でも勝利に驚いたようだ。
「レースで勝つのは本当に久しぶりだね。とにかくスプリットタイムを刻むことだけに専念したんだ。そしてゴールまで残り10マイル(16キロ)からはテン・ダムとタイマンガチバトルだったね。このレースの出場は初めてだったし、正直あんまりトレーニングしていなかったんだよ。自分でもあまり期待していなかったんだよ。それがよかったのかもね。プレッシャーなかったからね。最後もスプリント不得意同士でよかったよ。だから勝てたんだよ。」ボズウェルはリラックスした表情で語った。
「大事なのはポジショニングじゃないね。必要なのはパワーで押し切ることだよ。グラベルは個人戦、何でもかんでも自分でやらなきゃならないんだよ。パンクしたら思わず手を挙げたくなるけど、誰も来てくれないからね。これがまじストレスだわ。」2位に入ったテン・ダムは個人戦の長丁場の大変さを語った。
最長距離のアンバウンドグラベルXLはさらに過酷だ。しかしそのタイムと速さもやはり人間離れしていた。男子の優勝タイムは22時間57分14秒、山岳もさらに多い中で、574.8㎞を平均時速で25キロで駆け抜けたのだ。女子では優勝タイム26時間55分、こちらは平均時速21キロとなっている。丸一日以上時速21㎞で走り続けるなど、なかなか想像できるものではない。
筆者個人的にはツーリング用にグラベルを今組み上げているが、どう考えてもMTB並みのファットなタイヤを履いて、こんな速度でこれだけの距離を走れるわけはない。しかし自分では無理でも、こんなグラベルレースの世界もまた面白い。
アンバウンド・グラベル200ダイジェスト
H.Mouliette