来シーズンの勢力図はどうなる?移籍で変わる選手の運命:大化けする選手あり、結果が残せなくなる選手あり、移籍は選手の運命を左右する分岐点に
昨今は日本のスポーツ界でも移籍は増えてはきたが、国内のスポーツでは生涯~、と言うように移籍と言うのは一種の裏切りと言うような風潮が長らくあった。海外では昔から選手はその評価によって移籍をすることが当たり前であり、自転車レース界でもそれは当然の流れである。活躍をすれば、どこかのチームがエースとして引き抜く、ヘッドハンティングをするのだ。
しかしそれは時に選手の運命を大きく左右してしまうことがある。特にスプリンターにとっては、移籍は勝利数に直結する可能性のある大きな決断となるのだ。極めてわかりやすい例がマルセル・キッテルとエリア・ヴィヴィアーニだろう。キッテルは昨年度まで所属していたエティックス・クイックステップでは、途中体調不良などがあったがそれでも移籍してからの2年間の間に勝利を量産した。そして契約切れに伴いカチューシャ・アルペシンへと移籍をしたのだ。
しかしカチューシャ・アルペシンはクイックステップ・フロアーズのような組織的なトレインが形成できない。勝利もわずか2勝、体調不良とも言われているが、それ以上に勝つために必要なアシストの重要性を嫌と言うほど痛感し、モチベーションが下がってしまっているのが現在地だ。チームに対して「今のメンバーじゃ僕が勝利するためのトレインを形成出来ない」と苦言を呈すなど険悪な雰囲気となっている。
対してキッテルの補填としてクイックステップ・フロアーズに移籍してきたのがエリア・ヴィヴィアーニだ。前所属のチームスカイでも勝利は挙げていたが、チームは総合系やワンデイクラシック系中心のチームと言うのもあり、十分なアシストを得ることができる機会は少なく、自分で局面を打開しての勝利が多かった。ところが今シーズンは最強アシストのお膳立てをきっちり生かして勝利を量産、すでに17勝を挙げており、勝利者インタビューでは必ずと言っていいほど「チームのアシストが最高だった」と語り、どのように素晴らしかったかを説明している。
もちろん高給を掲示されれば移籍を考えるだろう。しかしそれと同時に自分がそのチームのピースとしてどうフィットするのかと言うのが非常に重要となる。チームカラーに合う合わないもあるが、それと同時にチーム戦略の方向性に自分が当てはまるのかと言うのは大きい。さらに言えば選手によっては機材の合う合わないも結果を大きく左右することとなる。そのいい例がフィリップ・ジルベールだろう。世界チャンピオンとして移籍したBMCではとにかく十分な結果が出せなかったが、出戻りで移籍したクイックステップ・フロアーズでは大暴れを見せた。本人も「今は機材が自分の体にぴったりマッチしている。」と語っている。また海外チーム所属の日本人選手も、以前所属していたチームの機材に対して「合わなかった」と発言していたこともあり、「機材面の合致」と言うのも結果を残すという上では非常に重要と言うことがわかる。
選手たちにとっては短い選手生命、より多く稼ぎたいという気持ちと、結果を残したいという気持ちの板挟みになることが多い。しかし結局は結果が残せなければ次の契約が無くなる可能性が高く、減収となってしまう。そう考えるとやはりプロスポーツと言うのは非常にシビアな世界と言えるだろう。個性派集団と言われるクイックステップ・フロアーズはとにかく先見の目で選手を獲得、育成するのがうまいチームだ。そして選手が他チームに移籍すれば、すぐにその穴を埋める選手が台頭し、毎年勝利を量産している。それに対してクイックステップ・フロアーズで結果を残し、他チームへ移籍して結果を残している選手は少ない。つまりはやはりチームが明確な戦略と勝ちパターンを持っているからこそ結果を残せたという部分が大きいのだ。
来シーズンへ向け各チーム契約更新や移籍市場がまだまだ大人しいのが今シーズン。各チーム中堅選手を契約するより、安く若い選手を狙う傾向もあり、結果が出ていない中堅選手にとっては厳しいシーズンオフとなっていきそうだ。その為にもなんとしてもシーズン終了前に結果を求める選手たちの最後のバトルがより一層激しくなるだろう。
H.Moulinette