ツール・ド・フランス開幕直前、激戦必至の総合バトル勃発か、ジロからのダブル狙うポガチャル、3連覇狙うヴィンゲガード、新天地のログリッチ、世代最強狙うエヴァネポエルらが激突
今年のツール・ド・フランスは、ハイレベルの総合バトルが繰り広げられることは必至だ。グランツール総合系と言われる選手たち、各チームにそのエース格は存在するが、、例年そのエース格は3大グランツールに振り分けられることが多い。もちろんグランツールの最高峰ツール・ドー・フランスにその最強エースを持ってくることが多いのだが、今年はシーズン序盤の落車と怪我による状況も影響し、今現在最強と呼ばれるグランツールライダーがほぼ全てツール・ド・フランスのスタートラインに顔を揃えることとなった。
今シーズン序盤の落車と怪我により、多くの選手が出場を見送ったことで、5月に粉われたグランツール開幕戦のジロ・デ・イタリアをタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)は余裕で制することとなった。チームはそのポガチャルはジロとツールのダブルツール達成を目標に掲げて乗り込んでくる。その最強アシストにはジョアオ・アルメイダ、ホァン・アユソ、更には前哨戦のツール・ド・スイスで完勝したアダム・イェーツら総合上位を狙える面々が脇を固める。更にマルク・ソレル、ティム・ウェレンスといった安定感抜群の選手たちがアシストとして揃っており。盤石の体制と言えるだろう。一つ気がかりがあるとすれば、ポガチャルは10日ほど前にコロナウイルスに感染したため、安静などを余儀なくされ、そこから再調整をしたが、「一日で熱が下がったのでトレーニングに復帰した」と語っており、本人は絶好調であることを口にしている。
その最大ライバルと目されていたヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)はなんとか怪我から復帰し出場リストに名を連ねた。「万全でなければメンバーに加えない」とチームは事前に公表してきたことからも、現段階でゴーサインが出せるほどの驚異の回復をしたと思われる。だが3週間の長丁場のレースだけに、怪我の完治具合のみならずスタミナという部分まで含めると、どこまで万全なのかは読みにくく、例えばジロのように大会序盤から激しく総合バトルが展開するなど、展開次第でその影響を受ける可能性はあるだろう。新エース候補のマッテオ・ヨルゲンセンを筆頭アシストに従えてのレースとなる。だが本来このレースで最強懐刀となるはずだった昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ覇者のセップ・クスは、コロナウイルスに感染し、体調が戻らないことから未出走となることが決まった。これはヴィンゲガードの3連覇に大きなマイナスと言えるだろう。ヴィンゲガード自身、「今大会に出場できたことが勝利のようなもの、結果はボーナス」と語っており、勝利が狙えるかは走ってみないと分からないという正直な感覚を語っている。また同じく復帰してきたワウト・ファン・アールトもアシスト、そしてステージ勝利狙いの両刀での走りとなるだろう。
もう一人のライバルは昨年度ジロ・デ・イタリアを制したプリモズ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグロエ)だろう。昨年度所属したユンボ・ヴィズマ(現ヴィズマ・リースアバイク)から新天地ボーラ・ハンスグロエへと移籍、そして新たに今大会からレッドブルが冠スポンサーとなった最強チームのエースとしてログリッチは念願のツール・ド・フランス初制覇を狙う。すでにブエルタで総合優勝3度、ジロ・デ・イタリアも制しており、後狙うはツール・ド・フランスだけとなっている。ログリッチをアシストするのは、今年のジロ・デ・イタリアでポガチャルに次ぐ総合2位となったダニエル・マルチネス、更にはジェイ・ヒンドリー、アレクサンダー・ヴラソフの総合系が脇を固める。地味で堅実な職人肌の多い集団だが、それだけにハマれば強さを発揮しそうだ。ログリッチは「年齢的にも総合優勝を狙うのは今大会が最後のチャンスかもね」と話しており、昨今若返りが進むレースシーンにおいて、34歳で挑むツールが現実的なラストかもしれないというイメージを持ているようだ。
本来ジロ・デ・イタリアで総合を狙う予定だったレムコ・エヴァネポエル(ソウダル・クイックステップ)は、先送りされる予定だったツール・ド・フランスデビューを結果的に繰り上げる形となった。ヴィンゲガード同様に怪我をしてからの復帰がこの時期となり、自身初のツール出場が、現状最強のグランツールそろい踏みとなるこの大会での初出場となった。「うちは他のチームに比べて戦力的には叶わないのはわかっている。ダークホースがいいところだという自覚はある」としながらも、昨年度のブエルタで失速して総合順位を大きく下げた経験から得たものは大きい、としており、同じ轍は踏まないと口にしている。その上で総合系ライダーとして成長するための一歩を踏み出す大会だとしており、まずはステージ優勝も含めて狙っていくと貪欲さを見せている。ミケル・ランダとヤン・ヒルトの大ベテラン総合系のアシストが、結果のカギを大きく握りそうだ。特にヒルトは今年のジロ・デ・イタリアで総合8位に入っており、今大会でも状況次第では総合上位がありそうだ。
それ以外に総合系で注目なのが、若手のカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアス)、レニー・マルチネス(グルーパマFDJ)だろう。ロドリゲスは今年のバスク一周で唯一アユソ(UAEチームエミレーツ)に上りでついていけたクライマーであり、ツール・ド・ロマンディも制し勢いに乗っている23歳だ。そしてマルチネスは昨年度のブエルタ・ア・エスパーニャで20才にして総合リーダージャージにも袖を通した成長株のクライマーであり、今大会でもダークホース的な存在となれるかどうかに期待がかかる。ただチームは2年連続ツールトップ10のダビ・ガウドゥ(グルーパマ・FDJ)をエースとしており、どこまで自由に走ることができるかは未知数だ。
他にも楽しみなのはデレック・ジー(イスラエル・プレミアテック)だ。今年のジロ・デ・イタリアでトータル距離の1/3近い距離を逃げまくり、一気にその名を知らしめた男は、4度のステージ2位という悔しさをばねに今大会でも逃げまくってレースを盛り上げてくれそうだ。
全てのプロロードレーサーの憧れツール・ド・フランス、今年はどんな夢を見せてくれるのかが楽しみだ。
H.Moulinette