コラム:アユソがUAEチームエミレーツと2028年末までの契約、ロードレースでも長期化する契約、才能ある若手の囲い込みにリスク、スポンサースポーツにかかる負担と財力によるチーム力の格差
アメリカのメジャーリーグや、ヨーロッパのスポーツリーグでは長期契約が当たり前になってる現在、サイクルスポーツにもその波が押し寄せている。しかしメジャーリーグでは、長期契約が不良債権化することも多く、サッカーなどにおいてもそれは同じだ。しかし長期の安定収入を望む選手とその代理人は、チームに対して長期契約を望むことが多く、その波はロードレースにも訪れている。
今現在タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアス)、トム・ピドコック(イネオス・グレナディアス)がそれぞれ2027年いっぱいの長期契約を結んでいるが、そして今回ポガチャルを擁するUAEチームエミレーツは19歳のホァン・アユソと2028年いっぱいまでの長期契約を結んだのだ。才能あふれる選手の囲い込み、ポガチャルに続く将来のグランツール王者を育てていこうという計画が明確だ。
スペインとヨーロッパ選手権でジュニアのチャンピオンとなり、昨年度の8月にUAEチームエミレーツと契約を結んだばかりでばかりで、まだ主要レースに絶対的エースとしての出場はないが、それでも今年のヴォルタ・ア・カタルーニャで総合5位、ツール・ド・ロマンディでは総合4位と新人賞を獲得し、その才能の片鱗を見せている。ポガチャルを「最高の師」としており、その間近で成長を続ければ世代最強の称号に近づく可能性すらあるだろう。
しかしロードレース界においては、他のスポーツとは少し事情が違う。長期契約ができるチームというのは極めて限られるのだ。それはこの競技がスポンサースポーツであり、チームの財力ということがある。スポンサーの契約は通常は数年のものが多く、長期契約をするのはそれを見据えたスポンサー契約、もしくはチームの母体事態にしっかりとした経済基盤がなければ難しい。そのため現状3年以上の長期契約を結んでいる選手がいるチームは少なく、イネオス・グレナディアス、UAEチームエミレーツ、クイックステップ・アルファヴァイニルらに限られている。
それでも最近では単年契約は減り、2年、3年単位の契約が増えているのは、チーム戦術上毎年アシストが入れ替わるのは得策ではないという背景がある。近年益々個の力ではなく、最終的にチーム力がモノを言う傾向になってきており、エースとアシストはセットという移籍も増えている。エースがあの選手をアシストに欲しい、一緒じゃなければ移籍しない、契約しない、というケースが頻繁に見受けられる。やはりその場合、エースと同様に複数年契約ということは増えてくる。
ただし長期契約にはリスクが常に伴う。長期にわたる安定した収入で向上心やハングリー精神を失い選手も当然おり、そこそこの結果で満足してしまうことがある。また怪我の多いこのスポーツでは、当然長期離脱すらありうる。それでもチームの顔となりうる選手をいかにチームにとどめておくかというのは営業上の意味合いは非常に強い。矛盾した感もあるが、いい選手がいればスポンサーによる長期契約が望め、そしていいスポンサーがいれば選手の長期契約が可能となる。まさに鶏と卵、どちらが先かという状況ではある。
ルール変更に伴い、昇格と降格というラインがはっきりと決まった今のロードレース、各チームの財力がそれぞれの営業力にかかっており、現状では各チームの格差は広がっていってしまう可能性は高い。いまだ解決しないASOの放送権料の分配など、ロードレース界が長く安定して続くためにも、そろそろ経済面でも改革が必要な時期となりそうだ。それと同時に今までのように選手が頻繁に移籍する時代から、生涯ワンチームや長く1チームに留まる事が増えるようになるかもしれない。
アユソの世代は、レムコ・エヴァネポエル(クイックステップ・アルファヴァイニル)、カルロス・ロドリゲスとレオ・ハイター(イネオス・グレナディアス)、レニー・マルチネス(グルーパマFDJ)など才能溢れる選手がすでに頭角を見せており、これからのロードレースシーンも非常に楽しみだ。
H.Moulinette