コラム:相次ぐ怪我と高速化するレース、選手たちが求める安全なコースと主催者の安全対策意識、そして地域自治体にのしかかる道路舗装コスト、放映権を改善に充てることはできないのか?

再開幕した今シーズンは、ここまで数多くのけが人を出してしまっており、選手から安全対策への要望が強く出るシーズンとなっている。主力選手だけでも一時期人工昏睡下に置かれたファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ)、骨盤骨折のレムコ・エヴァネポエル(ドゥクーニンク・クイックステップ)、鎖骨骨折のイブ・ランパート(ドゥクーニンク・クイックステップ)とクイックステップは主力級3選手が離脱している。さらにはほかのチームでもダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)、プリモズ・ログリッチ(ジャンボ・ヴィズマ)、エマニュエル・ブッフマン、マックス・シャッフマン(共にボーラ・ハンスグロエ)、サッシャ・モドロ(アルペシン・フェニックス)、ティボー・ピノ―(グルーパマFDJ)など、数十名の選手がすでに多くのレースの未出走や長期離脱を余儀なくされている。

©Il Lombardia
落車の多さに起因しているのが、レースの高速化だ。ここ数年どんどんと上がる平均速度は、機材進化の賜物だ。またディスクブレーキになったことで、「ブレーキングが今まで以上に遅くても平気なので、コーナーでの突っ込み合戦が今まで以上に高速でシビア」との声も選手たちからは上がっており、機材の進化が高速化と戦略、攻め方を変化させているのだ。
道路わきのコースバリアなどは今までもたびたび問題となってきたが、慣習的なこともありあまり変わることは少なかった。そして道路の舗装状況に関しても、荒れたコンディションも一つのレースの醍醐味という側面もありなかなか改善されることは少なかった。
しかしここへきての高速化で、道路の荒れはバイクコントロールに大きく影響を与えかねないだけに、選手たちの間から「綺麗な舗装路」という要望も多く出ている。もちろん未舗装路を含むレースも多く、それも魅力の一つではあるのだが、UCIが定める安全プロトコルにのっとり、より安全なレース環境を求める声が次々と上がってきている。
UCIは原則コースに関する責任は、コース選定を行うレース主催者にあるとしている。当然といえば当然ではあるのだが、ヨーロッパの多くの国では、国により道路状況も事情も異なるため、なかなか統一基準の徹底は難しいという側面もある。また国により道路舗装事情も変わり、場合によってはそれは地域負担となるため、予算の関係上簡単には再舗装などができないというケースもある。
UCIは「リスクはレースの一部ではあるが、ここ数週間のレースで起きている落車事故の多さと怪我の程度は、見過ごせないレベルにある。その多くが、UCIの基準を主催者が守っていないからだ。選手組合も含めて、今後話し合いと検討を重ねるとともに、主催者に対するセイフティーレギュレーション厳守の確認を強化していく。」としているが、果たしてどこまで各主催者や自治体が対応しきれるから未知数だ。
道路はそもそもが生活道路である。もちろん競技のために舗装がきれいになれば地元の人たちにとってはありがたいことではあるのだが、それと同時にそれだけの町の予算が消費されることへの抵抗も根強い。「それだけの資金があるのであれば、生活の向上や、農産や畜産分野に回してほしい。」フランスの労働組合員はそう語った。
ロードレースが国技や国民の楽しむメジャースポーツであるヨーロッパにおいても、競技運営と庶民生活のバランスを取るというのはなかなかむつかしいようだ。しかし実はロードレースには以前から問題となっている大きな「資金」があるのだ。
例えばツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャを主宰するASOはその主催レースの放映権を独り占めしている。各チームや選手組合からは、それらを健全なチーム運営体制強化のために分配すべきとの声も上がり続けているが、なかなか議論さえ現実的に行えていないのが現状だ。
ではチームに分配しなくとも、自治体負担にならないようにするための安全対策などに充てることはできないのだろうか?もちろん自ら主宰のレースに関しては行えるだろうが、予算が少ないレースやその主催者にとっては、極めて厳しいと言わざるを得ないだろう。ならばUCIの下、各主催者は全世界のレース向けの安全対策用資金としてプールしていくことはできないのだろうか?金満主催者は自分たちのレースだけではなく、競技レース界全体のためとして、そのような資金を提供していく必要も、今後は必要なのではないだろうか。
H.Moulinette