コラム:クロモリは軽いのか?台湾丹下のYASUJIROが超激軽量の5.34㎏!そして個人所有のBARAMONで軽量の組み上げに挑戦
昨今クロモリの再評価がされている。カーボンで自転車を始めた人たちも、次の一台としてクロモリを選択するケースも増えてきており、ヨーロッパのブランドが新たにクロモリをラインナップに加えたり、国内外のビルダーへのオーダーも相次いでいる。そんな中昨年度、自転車用金属パイプを製造する台湾丹下が、自社のアルティメイトのパイプを使用し、驚異の軽量フレームを世に送り出した。それがYASUJIRO Svelteだ。創業者の名を冠したブランドとして、なんとフレーム単体で1.24kgだ。昨年度のユーロバイクで展示されていたスラムで組まれた完成車は、驚異の5.34kgだった。クロモリは重い、そんな言葉を覆すかのようなこの重量にはただただ驚かされる。
確かにこのモデルは軽量カーボンパーツを多用していることもあるだろう。それには途方もない金額となってしまうことは容易に想像ができる。グラム単価でいくら、と計算する計量マニアであれば喜びそうだが、なかなか一般サイクリストにはハードルが高いだろう。そこで筆者が手持ちの日本のビルダー製のクロモリフレームをできる限りカーボンパーツ、超高級パーツを使わなず、家に眠っていたパーツなどを選択、強度をできる限り犠牲にしない丈夫で軽い完成車を目指した。
今回使用したのは福岡のBARAMON(バラモン)、NJS認定ビルダー(ケイリンでの使用が認められたフレーム)の小玉正夫氏の出身地である長崎県のバラモン凧をモチーフにしたヘッドマークが特徴だ。今インターマックス代表でツール・ド・フランスにも出場した今中大介氏が現役時シマノ所属時代にも使っていたことでも有名だ。
本来ラグフレームが得意であり、ラグを薄く研ぎ、軽量で極めてラインの綺麗なフレームを作る、今回使用したバラモン製のフレームはカイセイによって作られた8630の特注チューブで組まれたラグレスのクロモリエアロロードだ。涙型の断面のトップチューブとダウンチューブ、シートステーもチェーンステーも潰し加工されエアロ形状となっている。ヘッドチューブは製作当時市販品がなかったので、インテグラルのヘッドチューブを自作されたものだ。フォークはミズノ製のカーボンで、デローザなどが採用していたMC-20 、現在のカーボンフォークに比べると肉厚で頑丈、420gほどある。このフレームは製作されたのは10年以上前だが、昨今のエアロロードブームを先取りした完全レーススペックのフレームであり、単体で1.47kgと軽量だ。
ホイールは手組のもので、TNIのハブにKinlinのXR-300リムという昨今の手組軽量ホイールでは王道の組み合わせで1500gとなっている。決して超軽量ではないが、エアロリムでこの重量ならば上出来だろう。ステムはシックスコンポーネンツのものでCNC加工されたシルバーのものを選択した。ハンドルバーはアルミ製のSCUD、シートポストはKCNC、サドルは大昔のフライトチタンと、どれも過去にネットオークションで安く手に入れたものだ。また今回はクリンチャーのため、タイヤは保管していた前後異トレッドのMAVICのAKSIONとなっている。
メインコンポはワイヤー式のスラム、FDとRD、スプロケットはREDだが、一体型のブレーキレバーとシフターは旧型のFORCEだ。キャリパーブレーキはOVALのR900となっている。クランクは昔プロチームのSAECOが使っていたマジックモーターサイクル製のBB一体型で、実際のチーム支給品の残り物だ。チーム解散時に投げ売りで処分されていたものを救出してずっと眠っていたものだ。その後発売された市販品とは少し違いがあるようだが、現在でも通用するレベルの軽量パーツもある。
このスペックで重量はなんと6.95㎏!7kgを切ったのだ。超軽量と呼ばれるパーツはごく僅かで、比較的軽量と呼ばれるアルミなどの金属パーツを組み合わせてこの重量が達成できたのだ。しかも飛び道具の壊れやすいパーツではなく、ある程度しっかりとした耐久性のあるパーツを選んでのこの重量だ。
この車体を実験的に様々なイベントなどでサイクリストに試乗してもらった。ジャパンプロツアーに参加している選手も含め、誰一人としてこのフレームがクロモリであることに気づくことがなかった。そしてこのバイクがクロモリであることを伝えると、一様に驚きの表情を見せ、「クロモリって重いものだとばかり思っていた、」と口にした。またカーボンで育った若手プロ選手は「カーボンバイクでもここまで軽いバイクは少ないですよね、それ以上にこのフレーム硬さとしなやかさが共存していてものすごく走りやすいです。これ多分普段僕が使っているフレームよりも間違いなくいいタイム出せます。」とクロモリのポテンシャルには驚きの表情を見せた。
ただ軽量化だけを純粋に求めるなら、ホイール周りをカーボンホイールにしたり、フォークやハンドルバーをカーボン製の軽いものにし、さらにタイヤもヒルクライム用のチューブラーにしたりすればいい。計算上はここからさらに1400gほど削れるため、総重量を6kg以下の5kg台中盤に余裕で乗せることができるのだ。
もちろん安いクロモリフレームは重いだろう。しかしある程度以上のクロモリフレームが「重い」と批判されるほどのデメリットだらけの過去の遺物ではないのだということは理解してもらえたのではないだろうか。クロモリフレームは強靭で、曲がっても修正ができるし、転倒程度で破断することはほぼ皆無だ。それに乗り手には優しい素材となれば、食わず嫌いをしている場合ではないだろう。もしあなたが真に自転車好きなのにもかかわらず、カーボンフレームしか乗ったことがないのであればそれは間違いなく大きな損をしている。是非一度ハイレベルなクロモリバイクを試してほしい。
H.Moulinette