メイド・イン・ジャパンの誇り:クロモリという名の最先端、果たしてクロモリはカーボンより劣るのか?大手ブランドの中国製カーボンより、ハンドメイドのフルオーダークロモリフレームが安いという矛盾
昨今カーボンフレームにも若干の陰りが見えつつある。流行り廃りに乗りほとんどのメーカーがカーボン一辺倒になる中、日本では競輪というバックボーンがクロモリフレームビルダー達を守り続けた。そんなカーボンフレーム全盛期、業界の内側を見れば見えてくるのは矛盾、外国ブランドの量産中国製フレームがフルオーダーのハンドメイド・イン・ジャパンのクロモリフレームよりも高価だというおかしな構図を誰も指摘も取り上げることもしてこなかった。一人の職人として、そして業界内部を知るものとして、その辺りを消費者にきちんと知ってもらい、そして考えてもらいたいと思う。
『カーボンはレースシーンを大きく変えた (C)Tim D.Waele』
今やカーボンは自転車の代名詞になっている。軽量、そして造形が多彩なカーボンは一見華やかに見える。レース機材としては最適とも言える部分も多く、現在のレースシーンではまずほとんどがカーボンフレームと言っても過言ではない。薄く大口径化したことで、剛性とともに塗装面も増え、よりカラフルで個性的なグラフィックも塗装も可能となった。これが一つの個性やアイデンティティとなっている。
それに対してスチールフレームは、やはり競輪がスチールフレームを規定として定めていることで生き残ってきた。日本のレース界は競輪界に支えられている現実もあり、実質日本の自転車界を支えているのは競輪フレームを作るビルダー達であり、そしてクロモリフレームであると言ってもいいだろう。
『ハンドメイドエアロフレーム、自作パイプまで含まれているこだわりの逸品だ (C)66』しかし競技外では実際にどれほどの人がそんなビルダーが作るクロモリフレームに乗っているだろう?マーケットシェアで見ればごくごく僅か、マニアックな人たちの乗り物という印象が定着しているのではないだろうか。
この責任の一端はマーケットにもある。まず日本のマーケットでは舶来物が珍重され、西洋ブランド信仰に傾倒する傾向にある。これは国民性であり、そこをターゲットに商売をするのは間違いではない。ただそこにしかスポットを当てていないメディアが多いことは問題だ。ただ販売という部分では、そこには職人側の事情もあるのだ。まずはほとんどがカスタムオーダー故に、間に仲介業者が入ることで価格が高騰するのを嫌い、直販式をとっている工房がほとんどだ。そして綿密なジオメトリーなどの打ち合わせのためなど、注文のためにはユーザーが工房まで足を運ばなければならないケースも多いということだ。ただ中間業者を通さないことで、価格を抑えることができるメリットが有る。
ここで問題となるのが価格だ。材料の原価を考えると、実はカーボンはものすごく安く、クロモリのほうが高いのだ。つまりは原価が安いカーボンは、高級フレームとして利益率が非常に大きく、これが自転車業界が爆発的に伸びた要因となっているのだ。確かに金型は高価だが、量産もしやすく、”厚利多売”商品というドル箱なのだ。それに対してクロモリは原価が高い上に、フレームは一本ずつ職人が手作り、”薄利小売”なのだ。
カーボンフレームは、昨今では安いものが出てきてはいるが、それでもちゃんとしたものは平均価格は20~30万ほど、高いものとなれば150万前後するものもある。それに対しクロモリのフルオーダーフレームはビルダーにもよるが平均で15万ほどから作ることができる。いろいろとオプションを付けても30万まで到達することは稀だ。
では素材として単純にカーボンのほうが優れているのだろうか?素材自体は軽い、これは大きなメリットである。ただし劣化までの年数が早く、一度の転倒事故で破損してしまうケースが多い。これは軽量化のためにより薄く、となったためであり、カーボンの特性というよりは、生産者側の都合によるものだ。より少ない量のカーボンは、結果的に軽量化に繋がるうえに、経費削減という都合の良さもある。実際にはその為の設計などに手間がかかるために、大きく経費削減とまではいかないが、ちりも積もれば山となる。生産量が増えれば増えるほど、その利益幅が大きくなるのも事実だ。そして破損して廃棄されるカーボンフレームは、産業廃棄物となるのをご存知だろうか?
対して平均的なクロモリは重い。しかし昨今では超軽量チューブや、焼き入れの技法や添加物を加える事で、より軽い素材の開発にも成功している。時には実用性のある完成車で5kg台(フレーム単体で1kg前後)も可能という所まで来ているのだ。また落車などをしてゆがんでも、まっすぐに戻せばまた使えるというのがクロモリの最大のメリットの一つでもある。つまりはリサイクルも可能なら、修理も比較的簡単に行える寿命の長い、ある意味一生モノのフレームということだ。
決してカーボンが悪いというわけではない。レース用として優れており、ある意味必需品であり、カーボンだからこそ可能なことも多い。ただ現実として多くの媒体の紹介記事が舶来物のフレームに偏っている。それに対してクロモリのハンドメイドビルダーの仕事に、スポットライトが当たることは稀であり、特集として時折組まれる程度というのが現実だ。日本の職人技は凄い、同じ金額を払うのであれば自分だけのオンリーワンを作れる日本の自転車工房も選択肢に加える事をオススメする。自国の文化や職人を尊重するのは素晴らしいことだ。その良さを理解できれば、あなたも粋で鯔せな大和っ子だ。
H.Moulinette