サイクリング座談会Vol.1:カーボンの未来は?輪界の不況は?ロード用ディスクブレーキは?有名店主、バイクメーカー担当者、元ワールドツアー選手、現役ホビーサイクリストらによる座談会

アニメの影響で盛り上がりを見せたロードブームも一段落、そんな輪界は話題に事欠かない。最近ではマーケットを席捲してきたカーボン素材に対してクロモリやアルミが攻勢にではじめ、再び素材バトルが盛り上がりを見せている。またここ数年ロードレースシーンで常に話題になっているのがロード用ディスクブレーキだ。レースシーンでは選手たちがその必要性を否定し定着していないが、製造メーカーは何とかその使用を推進しようとしている。一般マーケット的には選択肢として受け入れられつつあるが、バイク本体からの買いなおしが必要となるだけになかなか普及とまでは至っていない。そんな中、昨年度までワールドツアーで走っていた世界クラスの選手、そして日本の某有名店店主、さらには国内バイクメーカーの担当者、また一般ホビーレーサーらを交えての座談会であえて今現在の輪界に対しての問題提起、それぞれの本音を語ってもらった。

『様々な議題で語ってもらう @CTJP』
~カーボンやクロモリにに関して
CT(サイクリングタイム):今自転車界はカーボン全盛期ですが、最近ではまたクロモリやアルミが見直されていますが。
H(ホビーレーサー):カーボンっていいんですが乗っていて飽きるんですよね、という過飽和しすぎて回り見回すと似たようなフレームばかりで飽きてきているんですよね。そんな僕らにとってみればアルミやクロモリって新鮮さがあるんですよ。
S(ショップオーナー):それはあるね。カーボンって造形がいろいろできるんだけど、だからこそ最初は”かっこいい!”って飛びついていいんだけど、ゴテゴテしてるからか結局シンプルな金属フレーム見るとすっきりしていていいな~って思うんだろうね。カーボンで自転車に入ったお客さんが、2台目3台目で金属フレームが欲しいっていう人は結構いるね。
B(国内メーカー担当者):作る側からすると、フレーム見ればどこの下請け工場で作ったとかよくわかるんですが、とにかくカーボンになってから自社生産が減って、デザインや設計まで下請けに任せているメーカーが増えたんですよね。消費者も目が肥えてきて、そのあたり気づき始めたんでしょうね。
R(元ワールドツアー選手):でもレース用にはカーボンフレームがちょうどいいんですよね。使い捨て感覚というか、原則ワンシーズンもてばいいだけなんで。それに落車すればそのまま交換すればいいだけなんで、年間チームが使用する本数を考えたときには、効率性を考えると量産しやすいカーボンじゃないと。ビルダーが減ってるのもあるから本数そろえるのが実際には困難ですから。
CT:日本は競輪発祥の地なので多くのハンドメイドビルダーがいるんですが。
H:でも僕らには正直その辺よくわからないんですよ。普段競輪とかとなかなか縁がないんで。もっとそのあたり知りたいっていうのはあるんですよね。
S:ショップ的にはピストブームの時は結構古い競輪用フレームをヤフオクなんかで落としたので組んでるのを整備してくれって来たよ。
CT:ブレーキがついてなくて事故が増えて道路交通法上の問題になったころですよね。
S:そうそう、あれで一気に下火になってしまったよね。でも好きな人たちはストリートカルチャーとして今でも続けてるし、定着した感じはするよ。競輪用ではないけど、それらをリユースすることで少しはビルダーさんたちにフォーカス当たってるんじゃないかな。
B:実際どのくらいの一般人がハンドメイドビルダーでオーダーフレームを作っているかというと少数ですよね。競輪用フレーム作っているところは結構それで手いっぱいだし、そうでないところはもっとアピールすればいいんでしょうけど、海外のビルダーに比べるとあまり目立たないですよね。もったいないと思うんですよ。
R:でもこれだけハンドメイドビルダーがいるのは日本らしさでしょ。海外からすると羨ましいしです。
~MTBに関して
CT:今では日本ではMTBは下火になりましたが、中国でもヨーロッパでも全体シェアの半分ほどはMTBなんですが、日本では今後もう一度MTBブームは来ますか?
S:もう一度来そうな気はしてるんだよね。でもさ、問題は国内メーカーも輸入元もあまりMTBを入れてくれないからショップに行っても圧倒的に見る機会が少ないし、選択肢が少ないんだよね。でも一人で走ってて楽しいのは圧倒的にMTBだね。どこでも走れるし。
CT:1990年代に一大ブームが来た時に、林道とか荒らして、悪名高きMTBになってしまった影響はいまだに尾を引いてますよね。
B:それもそうなんだけど、サブカルとして存在し続けたMTBを業界が理解していないし、理解しようともしていないですよね。
H:それもあるけど、あのブームの後結局大手が小さいブランドをどんどんと吸収合併してしまってブランドが減ったし、個性がなくなったのも大きくて、それでつまらなくなったんですよね。性能じゃなくて、他人とは違う、という個性を求めてカスタマイズする楽しみがありましたからね。
S:ロードは速く走らないとつまらないし、勝たないとつまらないって感じることが多いんだけど、MTBだと自分のペースでのんびりと満喫できるんだよね。自分で目標を立てて楽しみやすいよね。
B:それには一理あるんですど、最近の人たちってさばさばしていて、「はまりたくない」っていう人も多いですよね。一つのものに熱くなり過ぎたくないっていうか。ポートフォリオの趣味欄には幅広くバランスよくクールにしたいっていう人たちが多くて、ロードやってるからもうほかの自転車はいいや、って結構なってますよね。
T:あとは街中でMTBもどきというは形だけのMTBが溢れてるでしょ、あれもMTBやらない理由になっている気がする。本格的なMTBを見る機会がなくなったことで、もどきと本物の違いを理解してもらえないっていうことありますからね。あとは今の人の生活スタイルがMTBに合ってないんでしょうね。
~今の自転車ブームに関して
H:最近の自転車ブームの中でヘルシー指向とか言われるんだけど、あれっていりますかね?
S:変にヘルシー指向を前面に出して、こんだけ走ったとか頑張った感出すのってあまりかっこよくないじゃん。それって結局のところ自己満足のひけらかしでしょ。それやりたいんだったら、最後にオチでもつけて欲しいよね。こんだけ運動したけどそのあとこんだけ食った、こんだけ飲んだ!とかさ。(笑)
B:芸術はワンオフ、それと同じで自分自身の考えに従えばいいだけではないでしょうかね。自転車ってまだまだサブカルチャーのくせに、何でもかんでも理由付けしてかっちりしようとしすぎな気がするんですよ。それが堅苦しいんですよ。
一同:楽しみ方はもっと自由であるべき!
S:なんだか自転車乗ることに正義感丸出しで、冗談通用しない格好つけの意識高い系が多いから冗談通用しないし、せっかく興味を持ってくれた初心者が離れて行っちゃうんだよ。
CT:それって一般ユーザーとして感じます?
H:うん、感じますね。本格的にやってる人って、そこに善悪求めたり正解求めすぎなんですよ。例えばロードレーサー乗るときにはレースジャージとレーパンじゃなきゃダメだとか、クリップレスペダルじゃなきゃだめだとか。フラットペダルで乗ってるだけで見た目で素人扱いする人多いですからね。これってSNSの影響も大きいと思いますね。変に共感者ばかり集めて正当化したがるんですよ。
R:正解なんて一つじゃないんですよね。僕らはプロとして走ってるから、勝つための機材を使うし、そういう走り方をするけど、一般人はもっと自由でいいでしょ。いくらプロと同じ機材が手にできるからと言っても、意識まで真似してもどうかと。腕が伴わない格好つけ程格好悪いですよね。
H:そうそうそれそれ、速いやつ〇遅いやつ✖みたいなのいらないし、20万以下のはロードじゃないとかいうのはいらない。すぐに変に優劣つけたがってプロ気取りなのが多いから自転車乗り全体が「変な人」扱い受けるんですよね。
B:自分が好きならそれでいいのにね。それをいちいち人に否定されたくないですよね。機材もそうですけど例えばゴルフで言えばカーボンシャフトじゃなくてもスーパーハイテン使いたいなっていうのがあって然るべきですし、そういう人ほど本質的にはそのスポーツを愛しているなと。そのあたりの理解が進むには、クロモリのように一生ものを長く大事に愛するっていうことへ感覚の理解が「カギ」になる気がするんですよね。
Vol.2へ続く
H.Moulinette