揺れるUCI、ツール開幕に間に合わないとしてきた最終判断が、なぜASOの対応翌日に?WADAがCPKSを行わなかった理由も不可解でASOや選手間で不信感ぬぐえず、内部改革の必要性
フルーム問題がツール間に解決してよかった、と言う反面で、ラパルシャン会長がツール開幕前までに最終判断に至るのは難しいとしていたのが、ASOが出場停止要請という強硬手段に出た翌日に突然”無罪放免”という判断が下されたことへの不信感が自転車レース界とその周辺に渦巻いている。
ツール・ド・フランスの主催者であるASOがフルームのサルブタモール問題が、過去のケースと照らし合わせて、間違いなく有罪になる可能性、つまりレースに出場してもその後の順位結果剥奪になる公算が高いとして、フルームの出走拒否を行ったのが今月2日、そしてその翌日になり、唐突にUCIがフルームへの調査継続を断念する形で”無罪放免”という判断を下し、フルームのツール・ド・フランス出場が可能となった。しかし、その決断に至るまでの不透明感はぬぐえず、ASOは出走拒否こそ取り消したものの、UCI(世界自転車競技連盟)の今までの対応の遅さに加え、ASO独自の判断直後に急転直下した状況への不信感をあらわにしている。
UCIはWADA(世界アンチドーピングピング機構)に助言を求め判断を仰いだとしているが、過去の同様のケースで行われてきたCPKS(陽性反応と同じ条件を再現して被疑者の体がそれにどのように反応するかを確認する検査)が今回は行われず、推測に基づいた推論で判断がされたことへの不信感と不透明さは、アンチドーピングを専門としている医師や関係者からも疑問の声が上がっている。人間の体はここで違うため、偶発的屋体質の特性で異常数値が出るケースがあるため、それを証明するためにCPKSは本来重要であり必要不可欠、さらには本来WADAの規約の中でも今回のようなケースではCPKSが必要不可欠であるとされているのだが、このケースに関しては”特例”扱いとなっており、これにも疑問符がついている。
WADAの担当者は「同じ条件下でのテストをして異常値が検出されなければフルームは有罪となったはずだが、それを回避するために検査を行わなかったのではない。今回は検査に至るまでの条件が特殊だったとしてテストを行わなっ方だけだ。今回のケースではフルームは検査数日前から体調を崩しており、違反ではない複数の治療薬などを重複して摂取していたことがわかっている。それらが原因となった可能性が高いために今回は特例となった。」としている。
確かにその時の病状までは再現できないためにCPKSは難しいかもしれないが、そうであるのであれば薬品が重複した場合に何が起きるのかを検査し判断につなげなければいけないのだが、それらの調査は行われることなく幕引きとなっている。
これには現役の選手たちからも不満の声が上がっており、特にジロでも最大ライバルであり、今回のツールでも最大ライバルとなるであろうトム・デュムラン(チームサンウェブ)は批判的なコメントを残している。
「フルームを責めるつもりはないよ。ただ、その判断に至る経緯の不透明さが問題なんだよ。こういう不透明な判断が一番信頼回復に不必要なものなんだよ。こういう理由がはっきりしない判断とかが繰り返されることが、ファンを欺き脚を遠のかせることになるんだとまだわからないのかなぁ。それに今回のような前例を作ってしまったことが、最悪なんだよ。あやふやなままに幕引きが図られることがまかり通ってはならないんだよ。」デュムランは厳しくUCIの対応を批判した。
今回の一件ではUCIもWADAは決定に至った詳細なデータを、そしてチームスカイも反論として提出したデータの情報公開をしていない。チームスカイ側に至っては、一度は今回の一件に関してのフルームの詳細なデータを公開するとしていたのが、一転公表をしないと180度方向転換をしている。
フルームの今回の一件の最終判断の結果に関わらず、現状のUCIとWADAの対応が逆にフルームへの疑惑の目を高めてしまっているように感じられる。さらにはチームスカイの対応がそれに追い打ちをかけているように感じられる。一般やファンがわかりやすい説明とデータ公表があれば、誰もが納得することを、”なぜしないのか”、その疑問符はずっと付きまとうこととなる。信頼回復を掲げながらも秘密主義の体質は旧態依然、これではまだまだ信頼回復も新たなファン層獲得も遠いと言わざるを得ないだろう。
昨年度ラパルション体制となったUCIだが、当初より業界寄りのスタンスとその手腕には疑問符が付いて回っていた。そして今回の後手後手の対応と説明なき決断などを見ている限り、ドーピング問題真っただ中だったマックエイド時代の悪しき記憶を呼び起こしてしまいそうな予感さえする。
UCIは選手たちあってのスポーツという本質を理解したうえで、選手たちから不信感を持たれない組織運営と判断をしなければ、自転車レースはいつまでたってもドーピングの温床と言ったグレーなイメージで世の中に受け止められてしまう。まずはTUE(治療目的例外措置)の改革と、さらには情報公開のスタンダード化といった内部改革を進めていってほしい。
H.Moulinette