コラム:果たしてハイエンドコンポーネントはレースで絶対なのか?プロレース現場とアマチュアの違い

世界最大のコンポーネント企業であり、今や市場独占状態であるシマノ、日本では当たり前のようにその最高級機材であるデュラエースこそがレースコンポーネントだと認識されている節がある。そしてアマチュアレースなどで、それ以下のコンポーネントを使っていると先入観と偏見をもって「あいつはレースをなめている」、「初心者だろ」といったように見られる風潮がある。しかし果たして本当にハイエンドコンポーネントのみがレーススペックなのだろうか?
昨年度も今シーズンもそうだが、ワールドツアーチームの選手たちの中にはかなりの確率で一部にミドルグレードであるアルテグラのパーツなどを使用している選手がいる。理由はシンプルでより耐久性を求めているからだ。アマチュアの脚力やレースコンディションなどとは比べ物にならない過酷な状況の中で戦う選手たちにとっては、耐久性こそがリスクマネージメントとなるのだ。
そして今年の南米開幕戦、ブエルタ・デ・サン・ホァンではブラジルのコンチネンタルチーム所属の一人はなんとエントリーグレード扱いの105を使用していたが、普通に問題なくレースを行っていた。

『ハイエンドパーツ崇拝が顕著なのはアマチュアシーンの傾向 @Tim D Waele』
ヨーロッパのワールドツアーとプロコンチネンタルで走る選手に実際にハイエンドコンポーネントがどこまで必要なのかを聞いてみた。「ハイエンドパーツを使わせてもらえるのはありがたいよ。でも正直言ってミドルグレードでも十分な戦闘力があるよ。」という声が多く聞かれた。もちろん1秒を削るために1gでも軽く、という声はあるが、そもそも6.8㎏という重量制限があるUCIレースでは、軽さが絶対ではない。その為あえてフレーム内に重りを仕込むのであれば、耐久性のあるミドルぐれーそを選択するというのもありなのだ。「全体にハイエンドパーツじゃなきゃダメだね」と答えた選手は僅かであり、また彼らも「決してミドルグレードで勝てないわけではないが、」という前置きがあってのことだった。
当然プロは最高級機材を使うものが当然と考えている一般ユーザーは多い。もちろん選手たちを広告塔と考えスポンサーしているメーカーも、選手には最高峰コンポーネントを使ってもらいたいというのは当然のことだ。しかし選手たちからすれば機材トラブルでのリスクは極力避けたいのが心情だ。そうなればカスタマー仕様で機材を購入しているチームの選手を中心として、より耐久力のあるミドルグレードを一部使う選手も現れるのだ。
また今シーズン1Xシステム、つまりフロントシングルでワールドツアーに挑んでいるアクア・ブルースポーツが使用するのは最高峰のレッドではなくミドルグレードとなるスラムフォースだ。スラムレッドに1Xが用意されていないというのもあるが、スラムフォースのほうがレッドに比べギア選択なども含めバリエーションも多く用意されており、様々な側面から考え扱いやすくなっている。
アマチュアレーサーで余裕があればハイエンドパーツで武装するのは何の問題もないだろう。でもそれはハイエンドパーツを使わないものを蔑む理由にしてはならない。ハイエンドパーツ崇拝が偏見を生み出し、それを使うことを絶対正義と勘違いしている一部アマチュアがおかしな風潮を生み出してしまっており、それがエントリーユーザーなどに不快感を与え、スポーツサイクル普及や、社会的理解に悪印象を与えてしまっている話をよく耳にする。プロの現場ではハイエンドパーツ中心であっても、ローカルレースやアマチュアレースなどでは、別にエントリグレードで出場しても何の問題もないし、それは恥ずかしいことでも何でもないのだ。寛容性が求められているのは実は社会の側だけではなく、身内に厳しい自転車ユーザー側であるということも言えそうだ。
レースシーンは選手たちにとっては真剣勝負の場であり、結果を残さねばならない戦場でもある。不可抗力によるメカトラブルでチャンスを逃すことがないような選択をするのは当然のことだ。レース用に開発されたハイエンドパーツを使用し結果を残すことはプロとしての仕事だ。だが選手たちはいかなる機材を使おうと速い、それは根本的なエンジンが違うからだ。そしてそんなスペックが高いエンジンを持つプロは、リスクマネージメントもキッチリできる実力者なのだと改めて感じる。
H.Moulinette