コラム:「最強のヒロイズム」、歴代最強のポガチャルはなぜ世界に愛されるのか、レースを面白くする「攻撃は最大の防御」と欠かさぬファンサービスと選手たちへの配慮、重なるのはヒロアカのオールマイト

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今まさに歴史を塗り替え続けているタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)、史上最強の歴史が塗り替えられる一端を今まさに世界が目撃している。クラシックレースのみならず、ステージレース、グランツールに至るまで全てのレースで「勝てる」究極のオールラウンド選手であり、その信条である「攻撃は最大の防御」は観衆を魅了し続けている。一強になるとつまらないという声は当然あるものの、過去の歴代最強選手たちと比べるとその声は圧倒的に少ない。ポガチャルはなぜここまで世界に愛され、どんなに強くてもレースを面白くし、そして多くのファンの熱い声援を受け続けるのだろう。

©ASO

まずポガチャルを語るときに欠かせないのがその徹底したライドスタイルだろう。「攻撃は最大の防御」と自らが口にするほど、積極的に動く、仕掛けることを信条としている。もちろんUAEチームエミレーツXRGの組織力があってこその側面も当然あるが、そうでない場合においても、誰の目にも「ここで仕掛けがあったら、攻撃があったら面白いのに」というポイントで動いてくるのだ。レース解説者たちがレースのポイントとして挙げる勝負所をすべて把握しているかの如く、きっちりとそのようなポイントで魅せる走りをしてくるのだ。これは当然観衆も一番盛り上がりを求める場所でもあり、それに呼応するかのように仕掛けてくれるポガチャルは、当然誰よりも観衆のハートを鷲掴みにするのだ。

このスタイルはクラシックレースであろうと、ステージレースのであろうとグランツールであろうと関係なく貫かれており、強さの象徴でありながら清々しいほどの勝ちっぷりを見せてくれる。しかしながらどれだけ準備と自らの信条を貫いても、パリ~ルーべでは何度挑戦しても勝てず、悔しさをにじませる側面に垣間見せる「やっぱりポガチャルも人間だった」という安堵感は、心理学的に大衆が求める「ヒロイズム」、理想のヒーロー像に近いといえるだろう。ヒーローであるウルトラマンや仮面ライダー、スーパーマンらが時に敵に敗北する、つまり完全無欠ではなくて人間味があり人々の共感を得るのだ。でもだからこそ人々はヒーローに熱狂するのだ。そしてだからこそ人々はなおのこと”ヒーロー”ポガチャルを応援するようになるのだ。

©ASO

そしてさらにポガチャルが愛されるのは他にも理由がある。沿道の観衆を熱狂させるだけではなく、ファンサービスを欠かさないのだ。これは彼が当たり前に行っていることではあるが、ファンサービスというのはレースには直接関係がなく、個人の資質でもある。だがそれと同時にファンサービスを行うということは自らの時間を削るという負担でもあるのだ。「天狗になる」という言葉がある通り、これだけ最強となればストイックにレースに集中しファンサービスやメディア対応をカットするのは容易なことだ。事実過去の最強と呼ばれた選手たちはそうしてヒール役となった側面もある。だがポガチャルに対して「天狗になっている」という言葉は、ファンからもメディアからも、そしてほかの選手たちからも全くと言っていいほど聞こえてこないのだ。ファンサービスは欠かさず、メディアにも対応を断るときはきちんと自分で理由を説明して断りを入れる、ただ無視するだけというようなことは絶対にしないのだ。

そうしてもう一つポガチャルで注目すべき点は選手たちからの支持の高さだろう。これだけ強ければ、妬みや恨み節の一つも出てきそうな所ではあるにもかかわらず、選手たちから聞こえてくるのはポガチャルに対する尊敬の念と、敬意、憧れに近い感情だろう。全てのレースにおいてリタイアがほぼないポガチャルが、ブエルタ・ア・エスパーニャで落車し初リタイアした際に、代わりに総合リーダーとなったエンリック・マス(モビスター)が、ポガチャルへの敬意を表し、総合リーダーの証であるマイヨ・ロホ着用を拒んだ姿は、まさにその象徴と言えるだろう。

©Milano SanRemo

そんな姿を見ていた時に感じたのはポガチャルの存在の在り方は大人気コミックの「僕のヒーローアカデミア」のオールマイトの全盛期のようだと感じた。読んだことがない人にもわかりやすく説明すれば、絶対的なヒーローにもかかわらず絶大な人気を持ち、そして仲間のヒーローたちからの人望も厚く、さらには人間味のある葛藤をするということだ。

ポガチャルは強いだけではなくいろいろな側面でレース界を盛り上げ、レースファンを増やしている。圧倒的な勝利でさえも、「次はどんな見たことのない勝ち方をしてくれるんだろう」、という期待感に変えていってしまう。ブエルタ・ア・エスパーニャで「ポガチャルがリタイアしてからレースが面白くなくなった」、「レースを見なくなった」という声は世界中で多く聞かれた。それほどまでにポガチャルは大きな存在となっているのだ。もちろん自転車界の命運そのものをポガチャルに全て委ねるようなことがあってはならないが、少なくとも今はポガチャルは「ヒーロー」であり、我々はポガチャルが歴史を塗り替え続けているこの瞬間の生き証人となっていることを楽しむべきだろう。

H.Moulinette