ジロ・デ・イタリアで見えたヴィンゲガードの強さ、第20ステージピアンカヴァッロではパンターニが保持していた伝説的記録を上回る記録を樹立、派手さの全くない安定感という武器

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歴代最強という称号をタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツXRG)が手にしている昨今、それを誰が止められるのかというのは誰もが感じていることだろう。そしてそれを何度となく成し遂げている男は数少ない。ポガチャルがグランツールにおいて敗北している数少ない相手がヨナス・ヴィンゲガード(ヴィズマ・リースアバイク)だ。そして今シーズン最初のジロ・デ・イタリアを圧倒的な力の差で総合優勝を果たし、ポガチャルもまだ成し遂げていない全グランツール制覇を先に達成してしまった。しかも昨年度のブエルタからの2連勝となり、次のツール・ド・フランスには3連続グランツール制覇という記録がかかることとなった。

そんなヴィンゲガードは直近8度のグランツール出場で、総合優勝が4回、総合2位が4回と異次元の記録を残している。ヴィンゲガードの総合2位4回の内1回はチームメイトの最強アシストセップ・クス(ヴィズマ・リースアバイク)に総合優勝を譲った形となったものであり、残り3回はすべてポガチャルに次いでの順位となる。対するポガチャルは出場8回で総合優勝5回、総合2位が2回、総合3位が1回である。2人のグランツールにおける実力派遜色ないものと言えるだろう。直接対決ではポガチャルの3勝2敗だが、実力は極めて拮抗しているといえるだろう。

©Giro d’Italia

ヴィンゲガードが今回のジロでその実力を最大限に見せつけたのが、第20ステージのピアンカヴァッロのまでの頂上ゴールまでの走りだ。これはソロで走った時間を計測した記録で、今回ヴィンゲガードはチームメイトのアシストが不調だったことから、早めのアタックを決めたあの瞬間からの計測となる。従来の記録は史上最強のクライマーと呼ばれ、いまだに多くの登坂記録を持っている海賊と言われた男、マルコ・パンターニ、彼が持っていたピアンカバッロの登坂記録をヴィンゲガードが塗り替えたのだ。1998年のジロ・デ・イタリアで打ち立てられた記録は10.7㎞を36分20秒で上り切るという記録だった。しかしヴィンゲガードはこれを36分13秒で上り切ったのだ。もちろん機材の進化などヴィンゲガードのアドバンテージは大きいとはいえ、稀代の名クライマーの記録はここまで誰も破ることができなかった記録の一つだった。それをヴィンゲガードは淡々とマイペースで上り続け、後続をじわじわと引き離していく走りで制したのだ。

ヴィンゲガードの走りには悪く言えば華がない。ポガチャルのように魅せる走りがないのだ。代わりにあるのは絶対的な安定感、ペースを落とすことなく一定リズムを刻み続けることができる走りは、一見地味に見えるが体力の消耗も抑えられ合理的な走りなのだ。対してポガチャルは加減速を繰り返して爆発的な瞬発力で飛び出していくタイプ、全くスタイルが異なるのだ。ただ過去のお互いの戦績を見れば、どちらが正解というのか言えないほどお互い結果を残している。ただしヴィンゲガードのこの走法は、クラシックのようなワンデイ向きではなく、1週間程度のステージレース、そしてその上のグランツールが一番適している走りと言えるだろう。少し前は多かったグランツール専門の選手だが、昨今はすべてのタイプのレースに出る選手がほとんどだ。だがヴィンゲガードはわかりやすくステージレースとグランツールにしか出場しない特化型の選手だ。

今年のジロ・デ・イタリアではステージ5勝で総合優勝、絶好調を昨年から維持している男は、出場するレースのタイプを絞ることでコンディション調整をうまく行っている。ブエルタ、ジロに続いてツール、歴代最強と呼ばれる最大ライバルのポガチャルをグランツールで倒せる男がいるとしたら、それはヴィンゲガードしかいないだろう。

今年のツール・ド・フランスがますます楽しみになってきた。

H.Moulinette