メカニカルドーピング蔓延か?イタリアのアマチュアレースで電動モーター内蔵バイク摘発から浮かび上がった新たな闇、アジア生産トスカーナ地方販売のルートの存在も
昨今話題に登ることが多くなったメカニカルドーピング、つまりはフレーム内やホイールにモーターや電磁石を配し、その力を電動アシストとして使うという新手の”詐欺行為”とも言える手段だ。実際にシクロクロスレースで発覚しただけではなく、テレビ局が独自に行なった検証などで、複数の選手が実際のロードレースで使用していたと報道したことで一気に世の中が知ることとなった。
UCIは対応策に苦慮し、独自の手法を開発、しかしその検査方法では全てのメカニカルドーピングを発見するのは不可能だと小型モーターやメカニカルドーピング手法の開発者が指摘したことで、さらなる議論が行われてきた。
そしてつい先日のイタリアでのアマチュアレースで、表彰台に入った選手のバイクにモーターが内蔵されていることが発覚、イタリア自転車界を大きく巻き込んでいきそうな雰囲気となってきた。今回モーター内蔵フレームを使ったとされる男は、質問に対し「トスカーナの海岸で知らない男から買った」としているが、これがメカニカルドーピングの闇を解明する突破口になるかもしれない。
イタリア警察によれば以前よりトスカーナ地方で販売されているとの噂が絶えなかっただけでなく、この地域にはアジアから多くの偽物が輸入されており、今回のバイクも偽物のアルゴン18のフレームに内蔵されていた。ただここで闇がさらに深くなるのが、これら偽物フレームが精巧にできているだけではなく、最初からメカニカルドーピング仕様となっていることだろう。後付でモーターを付けるには、例えばカーボンフレームを一度切断し内蔵、その後そこを塞ぎ再塗装と様々な手間隙がかかることは知られている。だが今わかっているだけでもすでに最初からモーターが内蔵されたもの、モーターを内蔵を前提にフレーム内部に取り付け用の場所が確保されているものなど、様々なタイプが存在していることがわかっている。また更にはUCIの行っているテストをかい潜るための仕組みが備わったものまで存在していることがわかっている。
「一体成型のモノコック構造だからこそ、まさか最初から内蔵されていることなどないだろうという先入観が、あまりにも不用意に不正を働くものたちに開発する時間と様々な可能性を与えてしまった感が拭えない。」イタリア自転車関係者はそう嘆く。
今回発覚したのも、内部告発で特定の人物がモーター付き自転車を使っているとの密告があったからこそで、それがなければまったくわからなかった可能性が高い。それほどまでに巧妙化している、いや蔓延してしまっているというのが現実なのかもしれない。特にイタリアではそもそも自転車界とマフィアの癒着が度々取り沙汰され、パンターニの死や、問題となった所属チームのポジションをお金で選手が買い取るというケースでもマフィアの関与が指摘されている。
日本ではまだまだ一般レベルでそのようなバイクを購入、使うユーザーはいないだろうとのことで、問い合わせをした各レース主催者はメカニカルドーピング検査は検査項目には入っていないとのことだった。
人間は常に楽を使用、ズルをしようとすることができる数少ない生命だが、不正をしてまで勝って得る恍惚感とは一体どの程度のものなのだろうか。これからもまだ続くであろういたちごっこ、いよいよメカニカルドーピングとの戦いは序章を終え、本番を迎えそうだ。
H.Moulinette