説明が求められるフルームと新体制のUCI、データ公表の遅れとともに、その扱いに対して選手や多くのチームが加盟するMPCC(自転車レース信頼回復団体)なども懸念と意見
日本では積極的に取り上げられることがないが、クリス・フルーム(チームスカイ)の問題は海外では積極的に報じられている。理由は決して王者叩きではない。そうではなくなぜ今回のような問題が起きたのか、そしてどう対処すべきなのかという検証とともに議論をきちんと行うためだ。臭いものにはフタをしてしまってきた過去のドーピング問題との決別のためにも、今回のようにしっかりと取り上げられるというのは必要なことだと感じる。
では現状どうなっているのだろう?フルームはUCIなど機関に説明を求められ、その説明をしている段階だが、現状処分保留となっている。このことに関して、ドーピング問題以降に立ち上がったMPCC(自転車レース信頼回復団体)という団体が声を上げた。この団体は過去にドーピングをしたことがある選手を雇わないことなどいくつもの厳しい条件を設定し、それをクリアしたチームのみが所属(ワールドツアー7チーム、世界的には43チームが所属)し、自転車界の信頼回復のために徹底してアンチドーピングと戦うことを目指している。そのMPCCが今回の一件に関してコメントを出している。
「フルームのテスト結果が大きな社会的関心を寄せているのは事実。今回のようにそれがドーピング物質であったことがサルブタモールであったことがその大きな要因だが、今回のような場合は治療目的であった可能性が高く、意図的に摂取したとは断定できないため出場停止処分は必須ではない。今現在チームスカイは我々MPCCに所属してはいないが、MPCCとしての見解は、問題になった以上、そして今まだ解決していない案件である以上チームスカイは最初の陽性反応(Aサンプル)が出た時点で選手を自主的に出走停止処分にすべきであった。MPCCではそれが基準となっており、そういった姿勢を見せることで信頼回復に努めているのだ。今回はチームからもUCIからもそういった公表がなく、フルームはそのまま世界選手権へも出場、メダルを獲得している。これはUCIの体質が変わっておらず、信頼を回復するのに必要な透明性に欠ける行為である。」
MPCCは今回の行為はチームや新体制下のUCIなどの対応に問題があり、ドーピング問題に向き合う姿勢がいまだに欠落していると主張した。
「また早い段階でチームスカイが自主的に出場停止処分を課していれば、その段階でチームも選手も弁解のための準備が整えられ、今回のようにこのような時期になってからこれだけ大きな問題となり慌てることはなかったはずだ。MPCCではTUE(治療目的例外措置)の許可を取っていたとしても、数値オーバーが出た場合は即時8日間の出場停止を原則づけている。」
そう語ったうえで、チームスカイのTUE問題(ウィギンス・サットン問題)にも言及している。「そもそもチームスカイは監督とチームドクターが関与してTUEを乱用、悪用した疑いがかけられている。聴取を行ったUCIはその証言内容もすべて公開にしていないままでうやもやにしている。そんなUCIの対応とチームがこれから弁解して果たしてそれをどこまで信じられるのかははなはだ疑問だ。もし本当に各チームが”透明性”とアンチドーピングを掲げるのであれば、ぜひ多くのチームや連盟にMPCCに加盟することを勧める。それこそが信頼性を高めていくことへの第一歩だ。」
今回の一件に関してはトニー・マルティン(カチューシャ・アルペシン)もコメントしている。「フルームが現状置かれている状況は、規則通りであり、何ら特別ではない。ただ言わせてもらえるのであれば、最初にAサンプルで基準値越えがあった時点でそれ以降のレース、世界選手権なども出場をするべきではなかっただろう。」
また過去にはマルセル・キッテルなど多くの選手たちが、TUEや治療目的で禁止薬物が含まれる薬品を摂取する選手は、違う土俵でレースをすべきであり、なにも使っていない選手と分けたカテゴリーで競ってほしい、とするなど厳しい声を上げている。フルームのケース抜きにしても、治療目的で喘息薬を投与した場合、症状の緩和とともに少なからず酸素摂取量増加によるパフォーマンスの向上というものはある。であればそれは違うカテゴリーにしろという選手たちの声には一理ある。だからこそその使用量を制限するわけで、当然過剰に摂取すればドーピング効果が得られるというのは誰でも簡単に想像ができることだ。
またフルームのチームメイトでもあり、もう一人のグランツールエースとなるゲラント・トーマスは、フルームを信じるとしながらも、TUEに関しては全面的廃止を口にしている。そうでなければ結局は逃げ道を用意しているにほかならず、またドーピングに関しても悪質なものには永久追放も必要だと語った。
今回のケースはいまだ解明されていないが、人体は個体差があり、育った環境や体質などで、一般人とは違う検査結果が出る場合がある。今回のフルームのケースもそれがある可能性を含めて調査が行われているのが現状だ。今回は禁止薬物の使用ではなく、基準値越えとなった理由が使用許容範囲を超えていたからかどうかというところが調査対象となっていることを忘れてはならない。
そして新しい船出をしたばかりのラパルション新会長率いるUCIは、その最初でいきなりの対応の透明性という根本的問題を突き付けられることになった。
H.Moulinette