王者の憂鬱な年末、クリス・フルームのブエルタタイトル剥奪の危機、第18ステージ終了後の検査で喘息薬のサルブタモール値が規定値をはるかに超えていたことが発覚し現在医学的検証中
せっかくのクリス・フルーム(チームスカイ)のツール~ブエルタのダブルツールにケチがついた。長らく公表されてこなかったが、ブエルタ第18ステージ終了後の検査でフルームから基準値の倍に当たるサルブタモールが検出されていたことが分かった。素手のBサンプルの検査も終えており、どちらからも規定値の倍という数値、幼少期より喘息の持病があるフルームがどのような形でぜんそく薬を摂取していたのかが問われることになりそうだ。最悪ブエルタのタイトル剥奪ということも視野に入れUCIは動いているようだ。
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ジロ出場を宣言、3大グランツール連続制覇の夢を口にしていた男が厳しい局面にさらされている。表沙汰になってこなかったが、すでに9月後半の段階で本人にも通知されており、今回シーズンオフのこのタイミングでようやく公に表面化することとなった。
サルブタモールは短時間作用型の気管支拡張剤だ。気管支拡張薬の喘息薬は、健常者が吸引すれば最大酸素摂取量が向上し、エネルギー出力が大幅に向上することからドーピング薬として悪用されてきた。そのことからも世界アンチドーピング機構(WADA)や世界自転車競技連盟(UCI)は厳しくその使用を制限してきた。しかし喘息は一歩間違えれば死に至る危険性もあり、きちんとした処方と申請の下での使用が選手たちには認められている(TUE)。しかし今回は検出された数値が定められた基準値の倍という異常な量がA、そしてBサンプルともに検出された為に、チームスカイにはその説明が求められている。そうでなくともサー・ブラッドリー・ウィギンスの一件で信用を失っているチーム監督のデーブ・ブレイルズフォードだけに、今回の釈明がすんなりと受け入れられるのかは不透明だ。
「ブエルタの期間中に喘息が悪化し、チームドクターに相談してサルブタモールの摂取量を増やしたんだ。でも指定された以上の量は摂取しないように最新の注意を払ったんだ。僕は自身がアンチドーピングの旗振り役となっていることを承知しているし、今回の一件に関してはUCIにそのすべてを委ねたいと思っている。必要な情報はすべて提出するし、きちんと検証をしてほしいと思う。今はこれ以上話せないけど、きちんとした検証と説明が行われると信じているよ。」フルームはそう語った。
チームスカイ側は、「きちんとした説明をしていく。体質や新陳代謝がどう影響しているのかなども含めて、なぜこのような数値が出てしまったのかを検証するし、情報共有をしていくつもりだ。フルームは規定値以上の摂取をしていないと信じているし、彼の潔白が証明されるためには何でもするよ。」としている。
フルームは過去に何度もTUE(治療目的例外措置)を申請しており、その数字や申請内容などはすでにハッカー集団”ファンシーベアー”がWADAのデータを流出させた際にはっきりとしている。
WADAのルールでは基準値は定められているものの、個人差があるためその都度検証を行うとしており、今回はそれに該当するケースとなっている。そのため公に公表されてこなかったようだ。ルールブック通りに選手側には意図的な摂取でなかったことを証明するための機会が与えられるとしており、今現在そのプロセスの真っただ中だ。
しかしこれは同時に意図的な摂取でなかったにせよ、それが証明できないという可能性も残しており、その場合にはUCI規定で、タイトルの剥奪及び出場停止処分の可能性があるのだ。難しいのは過去にサルブタモールケースではスポーツ仲裁裁判所が意図的ではないと認めたにもかかわらず、過去にさかのぼってのタイトル剥奪と出場停止が課せられたケースもあり、今回も予断を許さない状況だ。
自転車界の絶対王者がシーズン開幕前に迎えた最大の危機、果たしてどのような結末になるのか、今はただそれを待つことしかできない。
H.Moulinette