アルベルト・コンタドール:王者であり続けたロードレース界のアイコン、パンターニに憧れた少年がパンターニ超えを目指し駆け抜けた現役生活
ロードレース界の象徴でもあった男がついに引退をした。以前一度は引退を撤回し現役続行を決断したが、狙っていたグランツール総合優勝には全く手が届かず、世代交代と時代の流れを感じつつ、自ら身を引くことを決めた。それでも最後のグランツールとなったブエルタ・ア・エスパーニャでは、第20ステージのアングリルで見事なステージ優勝を果たし、有終の美を飾った。
「時には冷静に自分の人生を分析しなければならないときもあるんだよ。サイクリングは僕の人生の中で大きなウェイトを占めていたけど、でも”人生そのもの”ではなかったんだよ。15年の選手生活は大満足だったよ。これからは残りの人生をゆっくりと楽しめるよ。」コンタドールは自らの現役時代が一つの通過点であることを語った。
その言葉通り、すでにコンチネンタルチームのポーラーテック・コメタを始動させ、自らを超える存在の育成に本腰をいれつつ、経済破綻やカタルーニャ独立宣言などで大荒れのスペイン自転車界のためにも尽力していくことを公言している。
コンタドールにとって、「勝てるサイクリスト」であるということはどういったことだったのだろうか?「プロ選手になると、練習中であろうと、休んでいる間であろうと、息をつく暇もないんだよ。家に帰れば体の休め方や食事管理などに気を使い続けなければならないんだよ。自転車プロ選手になった時点で、全ての些細な事柄までもが勝利に影響を及ばす因子になるんだよ。メンタル面も含めて”プロ”というものの奴隷状態、休む間さえ与えてもらえない厳しいものだったよ。その状態を維持していくことがプロであり、更に勝たなければ評価はされないんだよ。その状態で”自分自身”と言うものを維持していくことに疲れたんだよ。もういいかなって。」コンタドールはプロであることの難しさ、それに耐えることがプロであると口にした。
そんなコンタドールにとっては、往年の銘選手パンターニこそが憧れであり、超えたい存在だったようだ。
「僕にとってのアイドルはマルコ・パンターニだった。パンターニの走りをTVに食いついてみていたし、ビデオがすり減るまでその走りを研究したよ。彼は奇跡を起こせる男だったんだよ。どんな不利な状況でも平然とアタックをするし、TTで3~4分失えば、翌日の山岳でそれを奪い返して振り出しに戻すような男だったからね。実際の勝利数以上に、誰もの記憶に刻み込まれる選手だったんだよ。彼ほど観衆を魅了する選手は今までいなかったと思う。僕の中にはそんな”パンターニスピリット”があるんだと思う。彼のようになりたかったし、無難な走りよりも攻めの走りと言うものを常に意識していたからね。結果スポーツなんだから1位にならなきゃ意味が無いだろ、2位じゃだめなんだよ。」
パンターニを知らない世代にとっては、コンタドールは間違いなく憧れの存在、果たしてコンタドールを超え、アイコンとなる存在は生まれてくるのだろうか。誰よりもその誕生を望んでいるのは、コンタドール自身かも知れない。
H.Moulinette